『hurry xmas』

「おやおや、どうしたんです、これは?」
デスクの上もテーブルの上も、ベッドの上まで、色とりどりのカードが広げられている。
それぞれに、キースは手書きで“Merry Xmas !”のメッセージを入れていた。インクはすでに乾きはじめているが、ウォンが出かけていたわずかの時間に、急いで書きあげたものに違いない。のびやかな走り書きゆえ、むしろキースの字のクセが出ている。彼の直筆を見たことがある者は、書名がなくとも、誰からのメッセージかわかるだろう。
キースは残ったカードにペンを走らせながら、
「君、すこし時間があるか?」
「まさか、このクリスマスカードを、航空便で出しに行くとでも?」
「いや」
キースは大きめのクラフト封筒を持ち出し、宛先の地域別にカードを投げ入れていく。
「待降節には、早めに実家に帰るものも多いからな。それぞれ届けにゆく」
「えっ」
「わざわざこの国で投函して、僕らの居場所を知らせる必要はないだろう?」
そこまで用心するのなら、クリスマスカードなど送らなければいいように思うが、それでも気持ちを伝えたい相手が、それだけ各地にいるということか。
ウォンは小さくため息をついた。
「なんとも気の早いサンタクロースですねえ」
「そこまで立派なものでもない。彼らの最寄りの郵便局に投げ込んでいくつもりだ」
「なるほど。では、分担した方が早く終わりますね。お手伝いしましょう」

「……どうですか?」
「僕が先に終わったようだ。君は?」
「私も無事、投函しおえましたよ」
けっきょく、日付が変わっても作業は終わらず、丸一日以上をつぶして、二人はやっと自分たちの基地に戻ってきた。
「さすがに、疲れたろう」
「貴方もお疲れでは? すぐ、お休みになりますか」
「いや、プディングがあるから……お茶にしないか」
キースは蒸し器から、プラム・プディングを取り出した。
「いつ、こんなものを?」
「こういうものは、何ヶ月も前から仕込んでおくものだ」
「もう出してしまってもいいんですか? クリスマス用なのでは」
「世間はもうクリスマスだ。君もさんざん見てきたろう? 僕たちも先取りして、悪いことはない」
「そうですね」
ウォンが紅茶を入れると、キースがプディングを切り分けて、皿にとる。
「おや」
ウォンがナイフをいれると、何か硬いものがあたる。指ぬきなどを入れておくのが伝統だときいたことがあるが、これはなんだ?
中からでてきたのは、金属製のカプセルのようなものだった。
開けてみると、小さな紙片が入っている。
イギリスの住所と、なにかの予約番号が書かれている。
「これは……飛行機のチケットと、ホテルの住所?」
「そうだ。前に、誕生日に僕の国に行きたい、といっていたろう」
「それは、そういうお祝いの仕方もたまには、と思ったので」
「なら、少し早めでもいいだろう。クリスマス休暇をとらないか、二人で?」
ウォンの瞳が大きく見開かれた。
「そんなに前から、準備されていたのですか」
キースはうなずく。ウォンはうっすら頬を染めて、
「こんなに素敵なプレゼントが用意されているとは、思ってもみませんでした」
「君が寒いのが苦手なのは知っていたから、ちょっと悩んだりもしたんだが」
ウォンの掌をとって、そっと握りしめる。
「僕が暖めてやるから。心配するな」

(2007.11脱稿)

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Written by Narihara Akira
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