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『願 い』

ひとしきり夜空を飛んだ二人は、見晴らしのいい丘へ降り、並び立った。
「星が、流れたな」
「ペルセウス流星群、という奴ですかね」
はかない輝きが散っていく北東の空を見上げながら、キースは低く呟く。
「そういえば、どこかの国では、星が流れるのを見た時、願い事を何度も唱えるとかなうという言い伝えがあるらしいな」
「ああ、どんな願いがおありなんです?」
「ない」
キースは即答した。ウォンは首を傾げて、
「いろいろと思うところがおありなのに?」
「それでも、ない」
「思わないで、叶う夢などありませんよ」
「じゃあ、君の願いはなんだ」
ウォンは真顔ですらりと答える。
「貴方といつまでも共にあること」
「では、僕まで願う必要はないだろう?」
キースも真顔で答えるので、ウォンは微笑んだ。
「それ以外、本当にないのですか」
「去っていった者達も、幸せであるように、と思う時はある」
「それはまたずいぶんと、寛いお心で」
キースは視線を空へ戻す。
「逆恨みされたくないからな。私がもてるものなど、ほんのわずかに過ぎないのに、狙われるのはまっぴらだ」
「では、私が貴方のぶんも祈りましょう」
「何をだ」
「貴方の心の、安らぎを」
キースは苦笑する。
「星は、あっという間に流れてしまうぞ」
「私が時を操れるということをお忘れですか」
「どこかで燃え尽きる塵のために、君の能力を使うな」
空を見上げたまま、キースは静かに首を振る。
「いいんだ。望まれてでなく、望んで私は立ったのだ。私は本当は、平穏も平和も、願ってはいないのだ」
ウォンは口を閉ざした。
ではなぜ流れ星に願いを、などと呟くのですか、と重ねて問うのは愚かにすぎる。
貴方こそが私の中を導く星、とここでいうのも白々しい。
せめて優しく抱きしめたい、と思うが、身体さえ動かない。
キースはウォンの横顔を見つめた。
「……そろそろ、行こうか」
「もうひとつ、星が流れてからにしましょう」
キースはすっと身体を寄せ、ウォンの腰に腕を回した。
「あらためて願う必要はないぞ」
「違います」
ウォンは目を伏せ、自分もキースの腰へそっと掌を滑らす。
「もう少しだけ、二人きりでここにいたいと願うのは、いけませんか」
「ああ」
キースは相手にすっかり体重を預けた。
「星に願わなくても、いつまでだって、いいぞ」

(2006.7脱稿)

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Written by Narihara Akira
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