『ザ・監禁妻』


その瞬間、刹那は自分の中でガデスの熱いものがはじけるのを感じた。
刹那の身体がびくん、と跳ねる。
「あ、あん!」
ガデスの身体はすっと離れて、刹那をかばうようにする。ウォンをギリ、とにらみつけながら、
「なんでこんな可愛い奥さんを泣かせるんだおまえは」
「泥棒ネコにそんなことを言われる筋合いはありませんよ」
リチャードは冷然と微笑みながら、
「時よ!」

気がつくと、刹那は見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。
薬か何かかがされて眠らされていたらしい。身体が重い。
「ここは……?」
「別宅の一つですよ」
「ウォン」
ベッド脇に近づいてきたのはリチャードだった。
「私のような危険な仕事をしている者は、幾つも隠れ家が必要なんです。ここを知るものはほとんどいません。あなたはこれから、ずっとここに住むんですよ」
「ここって、一体どこなんだ」
「教えません」
リチャードは薄く笑った。
「逃げることもできませんよ。人里離れた高地ですからね。それから、これを」
言いながらリチャードは刹那の両手首に重い金の腕輪をはめてしまった。
どういう仕組みになっているのかわからないが、外せない。
「なんなんだ、これは」
「見ればわかるでしょう。腕輪です。プレゼントですよ。あなたに似合うと思って」
「嘘だ。手かせだろう。俺が何処へ逃げてもわかるように」
「ほう。何処へ逃げる気です? ガデスとか言うみすぼらしい店員の処へですか?」
刹那はハッとした。
あの後ガデスはどうなったのだ。
「あの男には泥棒ネコにふさわしいお仕置きをしておきましたよ。今ではあなたにちょっかいを出したことを、後悔していることでしょう」
「仕置きって、まさか」
「殺してはいませんよ。そこまではね」
ということは、ほとんど半死半生の状態まで叩きのめしたということだ。
ウォンは、そういう男だ。そんな冷徹な判断を下せるところも好きで、だから一緒になったのだ。
だが、今は。
青ざめる刹那を見て、リチャードの微笑みはゆるんだ。
「もうあなたにひどいことをするつもりはありませんよ。世の男共はこういう時、妻を折檻するようですが、私はそんなことはしません。だいたい、あの男が無理矢理あなたを抱いたのでしょう。あなたから誘ったのではないはずです。違いますか?」
「ウォン」
「愛していますよ、刹那。もう、離しません」
リチャードは優しく刹那を抱擁した。
刹那の菫いろの瞳から、一筋の涙があふれ出す。
ついに、完全に閉じこめられてしまった。
こんなことなら、もっと早く、ガデスと逃げてしまえばよかった。
もう、遅いのか。
「刹那……」
うなじを滑る掌。奪われる口唇。
抵抗する力もなく、刹那はそのまま押し伏せられてしまった……。

あくる朝。
刹那は部屋の窓際に寄って、外を見ている。
リチャードは仕事に行ってしまった。
この家には今は刹那一人しかいない。が、厳重にロックがかけられており、逃げ出すことはどうしても不可能な状態になっている。この窓だけが、外の世界を見ることのできる、唯一の口なのだった。
「ガデス……」
もし、生きていてくれるのなら。
ガデスなら、きっと俺を迎えにきてくれる。
生きていれば、絶対救いにきてくれる。
俺を待ってたんだろ、って笑いながら。
「待ってる。信じてるから……ガデス」
俺の心は、もう全部おまえのものだから。
そう呟いて、刹那はいつまでも窓の外を見つめ続けるのだった。

エロゲー BADEND 風。すべてのリチャードさんファンに捧げます(嘘)。鬼畜 Narihara の面目躍如だね。