『道 具』

「あ」
硬くした先端をつぼみにピタ、と押しつけられて、刹那は甘くうめいた。
今日のガデス、ちょっとせっかちだ。
いつもなら、じゅうぶん指で慣らしてから入れてくるのに。
ここのところミッション続きで、久しぶりだからか。
別にいいけど……ガデスが、そんなに俺を欲しいなら。そんなにひどくされないなら、たぶん、平気だし。
刹那は目を閉じ、仰向けのまま身体の力を抜いてされるままになった。
ガデスは濡れた先端を、刹那の中にツプ、と浅く埋め込む。
「はうっ」
押し広げられる予感に、刹那は切ない喘ぎ声をあげた。
感じる。
ガデス。
そのまま犯して。
もっと深く入って。
だが、ガデスはそこで腰を進めるのをやめ、刹那の前を丁寧に掌で愛撫しはじめた。刹那はたまらず身をよじる。入口周辺は、男も女も快楽のポイントの集まる場所だ。浅い場所で脈打つ熱いものは、刹那の情感をかきたてるだけかきたてた。欲しい。ガデスに奥まで貫かれたい。中を思いきりかき回して欲しい。
しかしガデスは、あろうことか腰を引いた。ほとんど抜いてしまうと、再び入口に押しあてて、軽くつつくような仕草をする。ほんとうにごく浅い場所を、クチュクチュとこねるように腰を回す。
刹那は身悶えた。
前に加えられている愛撫は優しいもので、普段ならそれだけで達けるようなものではない。後ろに加えられているのは自分を焦らす作業で、まだ本格的な挿入じゃない。
それなのに、刹那はもう爆発寸前だった。
ガデス。
気持ち、いいよぉ。
責められてるの、入口だけなのに、すごくいいよぉ……俺、もう、我慢できない……ガデスが出す前に、達っちゃう……あ、もう、駄目ぇっ……!
堪えきれず、刹那が体液を放つ。
と同時に、ガデスも刹那の外を濡らしていた。
ガクン、と二人で崩れ落ちる。
「刹那」
息も静まらないうちに、ガデスは刹那の口唇を求め、舌を吸い上げた。
それだけで刹那はもう一度放った。
濃いものが溢れて、二人の肌に広がった。
「大丈夫か?」
ガデスはそれを、用意してあったタオルで拭って始末した。
刹那は放心していた。
なんだったんだ、今のは。
俺、なんであんなに達っちゃったんだ。
しかも、ガデスまで。
ほとんど中に入ってなかった。俺が締めつけたから達したんじゃないはずだ。いったい何に興奮して、あんなに熱くして、あんな風に出してしまうんだ。
ガデス、あれだけで満足するのか。
そりゃ、いつも優しいし、いつも何度も達かされちゃうけど……俺ばかりがこんなにサービスされてて、いいのか。
「俺、おまえを、道具にしてる……」
思わずそう呟いてしまって、刹那ははっと口を押さえた。
「道具? なんのことだ?」
ガデスは表情も変えずに、刹那を抱きよせる。
「可愛い顔して、なんかたくらんでやがるのか?」
「そうじゃない」
刹那は自分の気持ちを、どう説明したらいいかわからなかった。
変なことを口走ってしまいそうだった。
ガデスにならもてあそばれてもいいとか、おもちゃにされてもいい、とか。
そんなに気をつかわないでくれ、かえって苦しい……とか。
優しい愛撫が大好きなのに。
ガデスが気をつかってくれるのが、とっても嬉しいのに。
「じゃあ、なんだよ道具ってのは。俺は使われてるおぼえはねえが」
刹那は視線をそらしながら、
「だってさっき、ガデス、気持ちよかったのか? あんな浅いところで終わらせて……」
ガデスは苦笑いした。
「よくなきゃ出しゃしねえよ。何を言ってんだ。おめえこそ、入口だけで達っちまうとは思わなかったぜ。きゅっと締めつけてきてよ」
「だって、気持ちよかったから……」
「そうか。ならいい」
ガデスはぽんぽんと刹那の頭を叩く。
子どもにするような仕草だが、ガデスにされても嫌じゃない。
なんでだろう。
ガデスの側にいると、落ち着く。
どんなに悲しい時も、疲れている時も、ガデスの顔を見ると一瞬で癒される。
反対に、ほんの少し、切なくなる時もあるけど。
せめてガデスが、俺を抱いて、気持ちがいいといいんだが。
「ガデスは、俺の身体に満足してるのか?」
「ああ。まあまあだな」
「そうか」
刹那は少しほっとする。
男の生理は単純だと言われるが、そんなにシンプルでないことを刹那は知っている。皆が皆、いつもムラムラしているケダモノという訳じゃない。男は自分好みの妄想だけで達することができるが、反対に自分好みでないシチュエーションではあっさり醒めて、萎えてしまば立ちもしない。そういう意味ではデリケート極まりない生き物なのだ。だからガデスが俺の身体に満足しているっていうのは、嘘じゃないはずだ。
「どうやら、おめえはまだ満足してねえようだな?」
ガデスが愛撫を再開した。
「どこがいいんだ? もっと深くか?」
「あ、そう、そこ……あっ、あ!」
熱い肌に抱きすくめられ、太い杭を打ち込まれて、刹那は乱れた。
相手の口唇を、腰を、肌をむさぼりながら、失神寸前の快楽の中で願った。
ガデスが欲しい。
ガデスの心が知りたい。
ガデスと対等に愛し合いたい。
ずっと、こうしていたい。
ああ。
どうしてこんなに、胸が苦しいんだろう。
「ガデスゥ……!」
「刹那!」
熱いものをたっぷり注ぎ込まれた瞬間、刹那は気を失った。
憶えているのは、しっかりと抱き止めてくれた逞しい腕の感触だけ……。

眠りに落ちた刹那をきれいにしてやり、ガデスは毛布を引き寄せた。
腕枕に頬をうめ、無意識に寄り添うようにしてくる刹那の肩を、上掛けで覆う。
ガデスは寂しかった。
《俺、おまえを、道具にしてる……》
あんなことを言われるとは思わなかった。
俺のことが好きで、だから抱かれているんだと信じていた。
あんなに敏感であんなに乱れるのは、身体だけでなく心も開いてくれているからなんだと。
だが、それは自惚れだったらしい。
思わずあんなことを口走るってことは、まだ俺は、こいつに信頼されてないってことだ。
俺の気持ちなんて考えようともしてないってことだ。
つまり、快楽だけを求めて、刹那は俺に抱かれてるんだ。
ショックだった。
「……仕方、ねえか」
ただ力が欲しいというだけで、志願兵になった男だ。過去も名前も捨て、副作用もかえりみずに超能力実験の生体実験に志願した無茶な奴だ。
その生い立ちはおそらく、砂を噛むようなものであったに違いない。ひどい目にあわされ続ければ、誰だってかたくなになる。他人を信じられなくなる。優しくされても、なかなか心を開けなくなる。それは無理からぬことだ。
「まあいい」
根気よくいくさ、とガデスは呟いた。
全然脈がねえ訳じゃあなさそうだし。
いつか心を開いてくれるだろう。
それまでは、快楽の道具と思われたって、我慢するさ。
惚れた弱味だ、優しく見守っててやろうじゃないか。
だが、こうして安らかに眠る刹那を見ていると、抱きしめたくなる。
きつく抱きしめて、想いのすべてをぶつけたくなる。
俺がこんなに愛してるのに、なぜ気付かない。
俺を信じろ、俺だけを見ろ、俺がおまえの唯一の相手だろう、と叫びたい。
それを必死に堪らえて、ガデスも目を閉じた。
「俺様は、本気になるとしつこいんだ。覚悟しとけよ、刹那」

互いの吐息のかかる距離で、まだ心の届いていない、二人。

(1999.12脱稿/初出・高瀬了様ホームページ「闇夜の鴉」2000.1)

●高瀬 了 様:
ホームページタイトルは「闇夜の鴉」。PF2012、ガデスと刹那がメインで、絵も小説もレベルの高いページです。ただし“女性向け裏サイト”ですのでその点ご注意下さい。HUNTER×HUNTER(旅団メイン)のページへも行けます。

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Written by Narihara Akira
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