『いつもどおり』

キースの何が見たいだろう、とウォンはぼんやり考える時がある。
思い浮かぶのは、いつも同じようなことだ。
とろけた声で、「気持ちいい」とため息をついて欲しい。
切なく身をよじらせながら、「もっと」とねだって欲しい。
「まだ離れないで」としがみついて欲しい。
つまり、甘えて欲しいのだ。
ならば私は、いつでも甘えてもらえるような、余裕をもっていなければ。
貴方はほんとうは、とても可愛い人だから。
私の愛撫で乱れながら、口唇をかんで呻きを殺して。
我を忘れてしまう姿も愛おしいけれど。
いつだって貴方を抱きしめていたいんです。
ゆっくりとけてゆく、貴方がみたい……。

★      ★      ★

「……え?」
鏡台の前で寝支度をしていた彼の後ろに、キースが立っていた。
髪留めをはずされて、ウォンはおどろいた。それはつまり、例の合図だ。
「今夜は私が、貴方に甘やかしてもらう番ですか?」
ウォンの頬に、キースは掌で触れた。
「君は、いまだに羞じらうな」
「それは、貴方に愛されると思うと、どうしても」
「いいんだ。そそる。僕なんか、もう羞じらいがなくて、つまらないだろう」
「そんなことは」
「君のことが好きだから……もう心の底までぜんぶさらけ出してしまったから、何も怖くないし、はずかしくもない」
「私もさらけだした方が?」
「赤くならなくてもいいということだ。ずいぶん優しくしているつもりだが。痛い思いをさせたこともないだろう」
あまりにキースが自信たっぷりなので、ウォンはうつむき、微笑みを隠した。
「いえ、その、まったく痛くないわけでは」
「ん?」
「貴方しか知らないのですから、それなりには……でも、貴方も最初は我慢してくださっていたはずですし、そんなに苦しがるのも」
キースもなぜか顔を赤らめて、
「つらいなら、無理をするな」
「つらくはありません、貴方に求められているのですから。それに、だんだん切なくなってくるのも、また……」
「それは、僕も同じだ」
ウォンは笑みをこらえられなくなった。
はずかしい告白をしているのは、こっちの方だというのに。
自分も犯されているうちに、切なさが喜びに変わると、貴方はいうのか。
可愛い。
抱きたい。
「キース」
急に抱きすくめられて、キースは「あ」と小さく声をあげた。
「私が貴方を、むさぼりたい」
キースは抵抗しなかった。むしろ、コクン、とうなずいて、
「……わかった。君がその、つもりなら」

抱きすくめられておとなしくなったということは、主導権を握りたくてやってきたのではなさそうだ。春情のままに誘いにきた、と考えて間違いあるまい。
なにしろ、感じたくてたまらない様子だ。
「もう、こんなに熱くして……」
ウォンが長い指を滑らせると、キース自身がヒクリと震える。
もう火がついているのなら、焦らしまくるのがよさそうだ。
貴方の好きな、優しい言葉責めもつけて。
「淫らな貴方も、素敵です」
「ウォン」
「なんです?」
「中で、感じたい」
「我慢できない?」
「熱いのは、僕だけじゃないだろう」
「ええ。私もです」
ウォンはするりと寝着を脱いだ。自分のものをキースに重ねる。
キースは満足げなため息をついた。
「……はやく、それで、むさぼって」
「そんなに欲しかったの」
囁きながら、ウォンはキースの顔に口づけを降らせはじめた。
秘所で秘所をなぞりながら、胸に指を這わせ、快楽を増幅させてゆく。
短い喘ぎがウォンに触れた。
もう腰も焦れている。
アイスブルーの瞳には、うすく涙がにじんでいる。
しかしウォンは丁寧に、入り口近辺の愛撫を続けた。
「もう、切ないから」
キースにどうしてもとせがまれても、浅くつついては身を引いて。
「君だって、そんなに硬くしてるのに」
「貴方のすべてを味わいたいのですよ。こんな風に」
キースの足を開かせ、右足を自分の腰にかけさせると、ウォンは脇から、キースの中に沈み込んだ。胸への愛撫も続けながら、ゆっくり腰を動かす。
「お望みどおり、ぜんぶ、いれましたよ」
「ああ……!」
キースは完全にとろけきった。
ウォンとの密着感、一体感がたまらないらしく、淫らなポーズをとらされているというのに、むしろ安堵の表情を浮かべている。ほんとうに欲しくてたまらなかったのだろう。これはもう、前に触れる必要はなさそうだ。彼の望みどおり、後ろをじっくり責めることで、達かせてやろう。
緩急をつけて揺すると、キースの口唇から、小さな声がもれた。
「リチャ……」
その掠れ声が、ウォンの何かに火をつけた。
上体を起こすと、己をさらにキースの奥へ、ねじりこむ。
「リ……」
「ごめんなさい、泣かせます。私も、もう」
たまらない。
貴方の中で、果てたい。
貴方を達かせて、私も。
激しく動くウォンの下で、キースも一気にのぼりつめ、ほとばしらせて――。

「すご……かった……」
潤みきった瞳で見上げるキースに、ウォンは微笑み返した。
「ご満足いただけて、嬉しいです」
「君はまだ、余力がありそうだな」
「ええ。貴方がよければ、もう少し味わっていたいですね」
ウォンはキースに口づけた。
顔が離れると、なぜかキースは、ウォンから目をそらし、
「……思って、ないからな」
「なんの話でしょう?」
キースの心をのぞいてみると、その省略された台詞は「君のこと、空気だなんて思ってないからな」のようだ。
ウォンは心底、不思議だった。
なぜ、キースは、そんなにやましそうな表情をしているのか。
最近、「君なんて空気みたいなものだ」と蔑まれたこともない。
別に空気でも構いませんよ。なくてはならぬものなのですから。
貴方の呼吸が楽になるなら、普段は空気のように、やさしく包んでいますよ?
淫らな行為は、あくまで日々のアクセントとして。
怪訝そうなウォンが不満らしく、キースは口を尖らせた。
「しらんぷりか」
困った、なにが足りないのだろう。
普段していて、何かしていないことがあったか?
ウォンはひとつだけ思いついたことがあった。
「口に含んでほしい……と?」
キースは赤くなった。目を伏せたまま、呟くように、
「……それは、思ってる」

(2008.3脱稿)

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Written by Narihara Akira
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