『Sleeping Dandy』

「ん……」
まだ暗いのに、ふと目が醒めてしまう時がある。刹那は長い睫毛を上げて、傍らに眠る男の顔を見つめた。
ガデス。
軍のお仕着せのベッドに並んで眠っているので、吐息がかかるほどそばにいる。相手の気配が変われば、すぐに気付いてしまえるほど。だのに、ガデスの寝息はかわらない。刹那は少しずつ顔を近づけていって、相手の口唇の端にそっとくちづける。
それでも、目蓋の開く様子はない。
起きて欲しい訳じゃない。朝から誘いたいと思っている訳でもない。
しかし、何の反応もないのはさみしい。
刹那はもう一度、少し時間をかけて相手の口唇をついばむ。
ガデスはされるままだ。
刹那は物足りなくて、左目の傷を舌で湿らせはじめた。こういうところは敏感なはず。感じなくとも何かしらリアクションを起こしてくれるはずだ。
だが、それでもガデスは安らかに眠り続けている。
なんで、起きないんだろう。
刹那はガデスの耳たぶに歯をあてた。舌先で軽く中を嘗めてみる。
ガデスはピクリとも身動きしない。
自分がこうされたら、それだけで身体の芯が溶け、声が洩れてしまうのに――そう思った瞬間、刹那は急に不安になった。もしかしてガデス、昨晩どこかで遅効性の毒でも盛られたか、それとも何かの発作を起こして死にかけてるんじゃあるまいか――刹那は慌ててガデスの裸の胸に耳をあてた。
心臓の鼓動は正常だ。
じゃあ、何で起きてくれないんだ。
単に疲れていて、深く眠り込んでいるのかもしれない。
でも、昨日の夜した時は、そんな風でもなかったのに。
刹那はガデスの胸の突起に指で触れた。掌でそっと転がすようにしてみると、キュッとかたく立ちあがる。それを舌先でつついてみる。
「……」
ガデスが一瞬息をひいた。が、それはすぐに元の寝息に戻ってしまった。
刺激が足りないのだろうか、と刹那は突起を吸い、少し強く噛んでみる。
ガデスは身じろぎすらしない。
俺、あんまり上手じゃないのかな。
それでも、感じないまでも、くすぐったがって目を開けてくれると思ったのに。
刹那はそっとガデスの脚の間に指を滑らせていく。
そこは硬くなって、半ば立ち上がっていた。
刹那はほっとしたが、もうすぐ朝である。単なる生理現象で硬くなっている場合だってありうる。乳首だって、物理的な刺激を受ければ感じていなくても立つのだ。
ガデス。俺がずっと悪戯してるのに、何で起きないんだ。
それとも、起きてて知らん顔してるのか。
俺の愛撫が嫌なのか。
なんだよ。
なんなんだよ。
刹那はガデスの脚の間に顔を埋めた。指で、そして舌で、熱っぽくそこを虐めはじめた。刹那、もうやめろ、という声がききたくて、懸命に濡らしてゆく。口の中でガデスの硬度が増してゆく。刹那を貫く時、いつもここは逞しくしなっている。打ち込まれるそれは激しく脈うって、刹那の中を自在にかき回す。ガデスの腕の中で達く瞬間は本当にたまらない。ぎゅうっと抱きしめられてたっぷり注ぎ込まれる時、ガデスの満足気なため息をきく時、あんまり幸せで今死にたいと思う。
男の俺がそこまで感じるのは、ガデスが好きだからだ。ガデスに触れられるたび、ガデスの愛情を感じるからだ。いつも変わらない優しい眼差し――いや、俺を見つめる時だけ急に優しくなってしまうあの瞳。もう俺達は単なる同僚としての一線を越えて、互いに特別な存在になっているのだ。
そう、信じているのに。
刹那は顔を上げた。
たっぷりと濡らされたそこは完全にそそりたって、今にも熱情が溢れ出しそうだった。いま一度刹那がそれを口に含み、吸い上げたら、ガデスは刹那の口の中に体液を吐き出すに違いない。
それなのに、目蓋はいまだ閉ざされたままだ。
刹那の頬をすうっと涙が滑りおち、ガデスの腹部へおちた。
「ガデス……」
声はすっかり泣き声になっていた。
「意地悪……俺にも、して……」
「早く言え」
次の瞬間、刹那はぱっと目を見開いたガデスの下に敷き込まれていた。
「なにずっと我慢してんだ。俺はもう無理だ。先に入れるぞ」
「あ」
ガデスは刹那の足首を掴んで押し開き、先端をあてがうと一気にねじこんだ。そのまま一心に刹那をむさぼりはじめる。刹那が少しでも良くなるように前や胸を愛撫しながら、きゅっと引き締まった腰を打ち込む。腰の動きが微妙な回転を加えはじめると、刹那の口唇から切なげな悲鳴が洩れはじめた。深い処でリズミカルに揺らされて、刹那は涙をこぼしはじめた。もちろんさっきの涙とは違う。ガデスはその甘い涙をキスでぬぐい、ぐったりとされるままになっている刹那を間近でじっと見つめた。
「中で出しちまうぞ、いいか?」
「う……」
刹那は口唇を噛んだ。いま口を開くと、たっぷり濡らしてぇ、とか、中なんてイヤ、かけてぇ、とかとんでもなく恥ずかしい事を口走ってしまいそうなのだ。そりゃ、誘ったのは俺の方で、今更恥ずかしいも何もないと思う、でも……。
ガデスがふと腰の動きを止めた。
「先に達きてぇのか? 嘗めてやろうか?」
「や、抜いちゃ、やだっ!」
刹那は激しく首を振り、それから上気した頬をさらにカッと赤く染めた。
恥じらい身悶える刹那を、ガデスは愛しげに見守りながら、
「なら、いいんだな?」
「……ん」
目蓋を伏せてうなずいた刹那の腰を抱えあげ、ガデスはぐっと相手の奥に入り込む。
「いくぜ。もう少し我慢してろよ」
二人の間から、再び濡れた音が響き出す。互いにじっと堪えていたものが、解放の瞬間を求めて駆け上がる。
「あ、あ、あっ……!」
「刹那!」
同時に極まって、そのままガクンと崩れおちて、しばし。

「ガデス」
息がおさまると、刹那はすうっと相手から身を引いてしまった。
「どうした?」
「ずるい」
ガデスは目を丸くした。
「何を言ってんだおまえは?」
「一人で気持ちよくなりたかったんだ、ガデス。だから、だからあんなギリギリまでずっと寝たふりしてたんだろ……俺を使うだけ使って……ずるい」
ガデスは一瞬言葉を失った。
それは誤解だ。
最初、刹那の方から触れてきたのが信じられなくて、都合のいい夢だと思っていたのだ。刹那が熱心になればなるほど、これは自分の願望なんだと思った。愛情は、注いだ分だけ返ってくるというようなものではない。刹那の心が少しずつ自分の方へ傾いてくるのは感じているが、いつも決して自惚れまいと思っていた。それでも、好きなら相手からも求めてもらいたいと思うのが自然な心の動きというもので、夢でもせまられるのは嬉しかった。
しかし、浅い夢の中、快楽はだんだん現実的になってくる。刹那は懸命で、その様子はいじらしいほどだ。興奮を覚えつつ、ガデスは動けないでいた。なぜ刹那は言葉でねだらないんだ。起きて、とか、欲しい、とか言わないんだ。俺が寝ているのをもてあそびたいだけなんじゃないだろうな。ゲームのつもりで面白がってるんじゃあるまいな。
そう思うと急に腹がたってきて、感じすぎるほど感じているのに、わざと寝たふりを続けた。たぬきねいりだって兵士の技能の一つである。本当は抱きしめたい。だが、こんくらべなら負けるつもりはない。
力では圧倒的に強くとも、恋の駆け引きで勝てるとは限らない。惚れ込むほど相手に対して弱くなるが、弱味をみせたくないと思う気持ちも強くなるものだ。
ガデスはじっと我慢した。
すると、刹那は急に泣きだした。
そして、俺にもして、と言い出した。
よし、こっちの勝ちだ、と有頂天になったガデスは飛び起き、夢中で刹那を犯した。
しかし、今の言葉、今の様子からして、全く他意はなかったらしい。
ただ、俺が欲しくて。
ガデスは離れようとする身体をすっと引き寄せた。
「おまえだってずるいじゃないか」
「何が」
「俺がまだ寝てる間、一人で俺を味わってたろ。俺だって……」
おまえが欲しいのに、という言葉が出せず、口吻でごまかした。
いざとなると言葉でねだれないのはお互い様で。
「俺だって……何?」
刹那の瞳が期待で潤んでいるのに気付いて、ガデスは思わず顔を背けた。
「俺はおまえの寝込みを襲ったことはない。俺だってそんなことをしたことはねえ……と、それだけのことだ」
「ふうん?」
刹那は探るような瞳でガデスを見つめている。
ガデスは続ける言葉に困った。
本当は寝込みを襲いたい時もあるのだ。今まで我慢していただけで。だが、刹那があんな事をするのなら、俺だってしてもいいはずだ。それを今、自分の言葉で出来ないように縛ってしまった。安らかに眠る刹那の魅力に負けてもし抱いてしまったら……そんなことを思うだけで胸が妖しく騒ぐ。眠っているおまえに思うさま愛の言葉をぶつけたい。普段胸にとめている想いをすべて。本当はおまえに溺れたい。いつでも何処でもむさぼりたい。ずっとこうして抱きしめていたい。離したくない。
刹那はじっとガデスの表情を読んでいたが、ふっと身体の力を抜いた。
「じゃあ、俺も起きてる時に襲うことにしよう」
笑っているのでガデスもほっとした。
「馬鹿、起きてたらそう簡単に襲わせるか」
「そうか? じゃあ、これならどうだ?」
言いながら刹那は楽しげにガデスに身を絡ませてゆく。
「馬鹿だな、今したばかりじゃねえか」
「なんだ、もうおしまいなのか? おまえはその程度か?」
「馬鹿言うな。そんなこと抜かすと、イヤと言うほど犯すぞ」
「言わせてみろよ」
「よし。覚悟しろよ」

それからひとしきり、愛の嵐。

(1999.10脱稿/初出・ガデ刹オンリーブック『MANIAX unlimited』高瀬了様「闇夜の鴉」2000.12発行)

●五良 有 様:
ホームページタイトルは「CRESCENT MOON」。当初、高瀬さんとこの本を企画されていました。現在は横山光輝ファンサイト他がメイン。

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Written by Narihara Akira
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/