『ごちそうさま』

「ウォン。次の誕生日のことなんだが」
なぜかキースがひどく真剣な表情できりだしたので、ウォンはおもわず微笑んだ。
「なにかご希望が?」
「行ってみたいところがある。いちにち、君の時間をくれないか」
「もちろん、よろこんで」
キースはいよいよ真面目くさって、
「ああ、そのまえに、旧正月の祝いがあるな。故郷へ帰るか?」
「今年は予定はありませんね。年末からだいぶ、遊んでしまいましたし」
「それもそうだったな」
やっとキースの口元にも微笑が浮かぶ。ウォンは反対に首を傾げて、
「それで、私はどうしたら」
「当日まで秘密だ」
「貴方のお祝いなのに、セッティングもすべて、やってしまわれるのですか?」
「当然だ。秘密なんだから」
「ちょっと怖いような気がしますね」
「大丈夫だ。楽しみにしているといい」

バレンタインの日、とあるホテルの一室。
ドアを開けた瞬間、甘い香りがふわりとウォンを包んだ。
「これは……?」
「ちゃんと、シャワーをすませてきたな?」
「ええ、おおせのとおり、念入りに」
「僕もだ。こっちの準備もできているようだ、さっそく入ろう」
キースに手をとられて、浴室をのぞくと、香りの正体がバスタブに満ちていた。
焦げ茶色の、液体。
「どうしたんです、これは」
キースは楽しそうに答えた。
「フォンデュ用のチョコレートだ。すっかりとけているが、なかなか濃厚な味なんだぞ。スイスの老舗の会社のもので、品質は保証付きだ」
「いや、これはつまり……つかる、ということですか?」
「ああ。このホテルのサービスなんだ。よくあたたまるし、リラックスするというふれこみでな。ずいぶん前から予約が必要だったんだぞ」
「しかし、これに入ったら、貴方の美しい白い肌が」
「汚れやしない。もともと口にいれるものだ。肌に悪いものは入ってない、心配するな」
キースは背伸びして、ウォンの首に腕を回した。そっと口唇をついばむ。
「……今日は君に、たっぷり、気持ちよくしてほしいな」

ウォンはおそるおそる、とろりとした液体に身をひたす。
たしかに、あたたかい。
キースは先に、首までつかっている。
目を閉じて、気持ちよさそうに。
ウォンはキースの胸のあたりに手を伸ばした。その肌を探ると、ぬるりと滑る。
キースは小さく喘いだ。
「ウォン。好きなだけ、食べて」
その瞬間、ウォンの中心にも火がついた。
今夜は全面的に君が主導権を握っていい、そのかわり昇天させてくれというのだ。
愛しい人の望みどおり、本気で愛撫すればいい。
指をはわせ、舌をはわせ、それこそ全身で。
この肌に生クリームを浮かべて味わったこともある。今更ためらうことはない。
「泣かせてしまうかも、しれませんよ?」
キースはもどかしげに身をくねらせた。
「そんな理性は、なくしてしまえ」

カカオの成分のせいか、それとも二人の肌がいつも以上に濡れているせいか、興奮はすぐに訪れた。夢中で口唇をさぐりあい、身体を重ね、滑らせ、互いに愛撫しあう。
キースは目を潤ませ、ウォンに腰を押しつけながら、
「ウォン、だめ、もう」
「達きたい?」
「いれて、ウォンので達きたい」
「いれませんよ。中に入ってしまうでしょう?」
「構わない。はやく」
「だめです。でも、一緒に達きましょうね」
ウォンはすっかり硬くしたものをキースに重ねた。こすりあわせるように腰を動かす。キースはウォンの動きをとめようとして足を絡ませるが、敏感な部分を巧みに刺激されているので、力が入らない。あたたかなチョコレートと同じで、とろけきっている。
「お願い、犯してぇ……」
掠れた声で懇願しても、ウォンは首を振る。
「それは後で、ベッドでたっぷり」
そして一気に、キースを絶頂に導いた。

「ああ」
ベッドでぐったりうつぶせたまま、キースは深いため息をついた。
このまま眠ってしまいたいような、けだるい心地よさ。
前も後ろもたっぷり愛された。淫らな舌に舐め尽くされ、猛るもので奥まで突かれて、完全に我を忘れた。恋人の体温をそばに感じて眠れたら、今日はこれ以上、なにもいらない。
「満足して、いただけましたか」
「君は?」
「貴方の誕生日なのに、私がこんなにいい目をみてもいいのかなと」
「僕が気持ちよくて、君が気持ちいいなら、それ以上いいことはないだろう」
「それだけで、いいの?」
「ん」
キースは顔をあげ、ウォンの胸に頬を埋めた。
「ほんとは、もう少しだけ、理性をなくして欲しかったな」
「理性なんて、すっかりとんでいましたよ。ただ、チョコレートは刺激物ですから、貴方にあとで辛い思いをさせたくなくて」
「わかってる。だけど、それでもむさぼって欲しかったんだ」
「それは誘惑の台詞ですよ、キース」
「ん」
「本当はまだ欲しいのです、と求めたら、身体を開きますか?」
キースはうっとりと呟いた。
「いいよ。気持ちよくして、くれるなら」
「身体がもう、つらいでしょう?」
「つらくてもいい」
「でも、せっかくのお誕生日ですし、夢心地のまま、寝かせてあげたいんです」
「わかった。今晩は我慢する」
「じゃあ、キスだけ」
ウォンはキースの顔をあげさせ、口唇を重ねた。
「今夜は、チョコレートはいらなかったんですよ、たぶん。貴方の蜜は、たまらなく甘いんですから……」

(2008.1脱稿)

《サイキックフォース》パロディのページへ戻る

Written by Narihara Akira
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/