『如 何』

「ウォン」
「え?」
かすれた囁きにウォンが小さく反応すると、キースはもう一言呟いた。
「君の欲望のままに、動いて欲しいんだ」

最近、ウォンが優しい。
というか。
お互いを高めあってひとつになり、さあこれからむさぼりあおうという時に、小休止を入れてくるのだ。
軽く背中を叩いたり、優しくゆすぶってくれたり。
まるで幼い子をあやすように。
なぜだ。
年をとってくると、達するまでに時間がかかるようになるという。だが、決して衰えているのでないことは、自分の体内で熱く脈打つものが証明している。大きさに慣れるまでじっとしていてくれているのかとも思うが、いくら自分のものが普通の身体より狭くとも、ウォンのものがいくら猛々しく求めようとも、それで激しく傷つくような時期はとっくに過ぎている。気遣いは無用だ。
だから、どうしてこんな時に甘やかすんだ、とキースは少々もどかしい。
静かに抱きしめられるのは大好きで決して厭なのではない、とろけるような気持ちになる。それが局部に加えられる刺激と混じりあうと、もう声も出ないほどだ。
でも、それでも。
「動いて欲しいの、キース?」
ウォンが低く囁く。
「うん」
「焦らされてる感じがする?」
「焦らしてるのか」
口もききたくないほど感じてるのに、とキースはウォンの首筋に歯をたてる。
「そういうつもりじゃないんですが」
ウォンの吐息は熱い。
「とろけた貴方が、切なげに締めつけてくるのがとっても良くって、もうちょっとだけ味わっていたいんです。ですから、私の欲望のままにというなら……」
キースの髪に口づけながら、完全に身体の動きをとめてしまう。
「しばらくこのままがいいんですが、キース様が我慢できないなら、いちど達きましょうか」
キースは小さく喘いだ。
「達かせて」
「じゃ、ちょっと向きを変えますね」
「あ……っ!」
内壁をグルリと刺激されて、キースは悲鳴をあげる。
「さ、貴方も動いてくださいね」
「厭だ、こんな姿勢じゃ」
「無理ってことはないですよ、ほら」
ウォンの口唇がキースの耳をくわえる。
「もっと、締めつけて」
一瞬キースは身をすくませ、そして堪えきれなくなったか、熱い体液をおびただしく溢れさせた。
「素敵。もっと」
力の抜けたキースの身体を支えて、硬さを増したウォンのものがその内奧を突く。まだまだ終わる気はなさそうだ。
「そんなに欲しいの、ウォン?」
かすれかけた声に応えて、ウォンの動きは激しさを増す。
「決まってるでしょう。わかりませんか」
「……うん」
歯をくいしばるようにして呻いたキースのその言葉は肯定なのか、それともただ喜びに我を忘れているだけなのか。
おそらく本人も自覚のないままに揺さぶられて。

ぐったりと眠りについたキースの傍ら、ウォンは腕組みをして見下ろしている。
「あれでいいかと思っていたんですけどねえ」
キースが今の自分に求めているものを、ウォンはよく知っている。
仕事上では優秀なパートナー。
公を離れたら包容力のある家族。
ベッドの中では情熱的な恋人。
もっともな要求だと思う反面、幾つもの顔を使い分けることに、少し疲れる時もある。
すべてを同時に満たすことは不可能だが、そのせいでキースが不機嫌になるのも嫌なのだ。こないだのホテルのとり方などは嫌がらせに近いものだ、しかもこちらが相手の仕方を間違えればこじれてしまう種類のものだった。
特に寝室では、淫らさも甘やかしも家族的な親密さも要求されるので。
ならば、ひとつになってから、一定の情熱を保ちつつ小休止、というのは手かもしれない、とウォンは思ったのだった。それならば、相手を性的に求める感じを出しつつ、相手に甘えている感じも出しつつ、なおかつ相手を落ち着かせる。
キースも満更でなさそうだったので、これで如何、と思っていたのだが。
まあ、駄目なら別の愛撫を考えるだけの話だが、ウォン自身がその行為を気に入っていた。
どれだけ局部を熱くしていても、あやすようにすると身体をゆるませてしまうキースが、とても愛おしい。快楽の振り子が別の方へ振り切れそうになるのをこらえて、身悶え締めつけてくるあの感覚が、たまらない。
私はとてもイヤらしい男なんです。
貴方が与えてくれる喜びがもっと欲しい。どんなものでも欲しいのです。貴方の可愛い我が儘を見たい。もっともっと甘えて欲しい。あらがいがたい誘惑でからめとって欲しい。そのためなら、私ができることは何でもしたい。
「ウォン」
どうやら目覚めたらしいが、寝言かと思うほどぼんやりした声でキースが呟く。
「あれも、本当に君の欲望なのか……」
ウォンはキースの髪に手を伸ばした。ゆっくりまさぐりながら、
「ええ、そうですよ」
「そうか……そしたら僕がする時も、あんな風にしていいんだな?」
「キース様がそれで心地いいのなら、どうぞ」
「ん」
滑らかな頬をウォンの太股に押しつけながら、キースは囁く。
「そんなに必死に喜ばせようとしなくっても、いいのに」
「お嫌ですか」
「嬉しいよ。気を遣ってもらえるのは。それで君が気持ちいいなら、もっといい。ただ、自分の我が儘が恥ずかしい……」
「え」
「何もかも君に求めて、だから君は余計なことを考えるんだ……そうだろう?」
潤んだ瞳に見つめられて、ウォンはゾクリと身震いした。
「求めて、欲しいんです」
「わかってる。ありがとう」
すうっと身体を起こしたキースに口唇を奪われて、ウォンも思わず瞳を潤ませた。
顔が離れた瞬間、キースは呟く。
「それで、僕は君の、何になれるんだ?」
ウォンは低く囁き返した。
「……何を今更。全部ですよ、とっくの昔に」

(2004.7脱稿)

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Written by Narihara Akira
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