『アラブBLと私』 -- 「それから」後書き --



●そもそものなれそめ

アラブBLというのは、ハーレクインロマンスにおける、シーク物(砂漠の族長が好き放題やらかす系の物語。石油王の財力で、ヒロインがそれまでの生活を離脱する、エキゾチックなシンデレラ・ストーリー)の派生ジャンルであって、私からは、もっとも遠い世界のものだと思っていました。
なぜなら私は、ハーレクインが読めないからです。コミカライズなら、だいたいは少女漫画の文法にのっとっているので、慣れの問題で読めるんですが(レディースコミック系になるとすでに厳しい)、小説のハーレクインは、私のロマンスの基準とどうしても相容れず(なんでこんなことするの? どうして二人はお互いを好きになったの? わからん!)、目が滑って内容が頭に入ってこないのです。
さらに、アラブに関する知識が、ほとんど無きに等しい。唯一知っているアラブの国と言えば、○○年前に旅行で行ったエジプトだけ。ハトシェプスト女王葬祭殿の銃撃戦より前の話で、テレビでニュースを見た時は「えっ、あんなルクソールみたいな田舎でテロ?」と驚きました。日本ではまだ、エビアンのボトルを首からさげている時代で、エジプトで飲み水を持ち歩くことにも違和感がなかった、そんな大昔のこと。観光警察も、まだ存在していなかったかもしれません。
エジプトは、空が青くて何もかも巨大で、やはり暑くて、街中に砂漠とピラミッドがデデーンとあって、親日家も多くて……その印象については、小説でも書いてきましたが、あそこを一般的なイスラム教の国として描くのは、なにか違う。

ではなぜ、アラブBLを書いたのか?
ひとえに、アラブBLアンソロジーに参加したからです。

テキストレボリューションズ、という同人誌頒布会があります。知り合いから紹介されて初回から委託参加しているのですが、その第三回で、詩人でありパフォーマーであり終末系純文学作家である《にゃんしー》さんが、「BLフェア」という企画を立ち上げました。イベント自体の委託枠がすでに埋まってしまっていたこともあり、既刊BLを売りたかった私は、企画に応募したわけなんですが、そのフェアの目玉のひとつに、「アラブBLアンソロジー」がありました。当然ですが、にゃんしーさんから「ナリハラさんも書きませんか」という打診があったわけです。「いやー、私には無理です」とお返事してたんですが、冬コミが終わって一月頃になると、職場の繁忙期もいったん終わって、時間的に少し余裕が出てきます。年末の疲れが出て、毎年、体調は非常によくない時期ですが、試しにポチポチ書いてみました。素養もなく、準備もなく、とにかく何もないところからひねりだすのはやはりツラくて、企画の趣旨からハーレクインに寄せる感じで、自分にも書けるギリギリのところは何かと考えて、舞台は当然、エジプトになるわけで……おかげで主人公のサラリーマンは、バブル時代風味の年寄りに、言い寄ってきた砂漠の王様は、サウジ出身の王族というより、ただのナンパ男になったわけですが、以上のような理由ですので、なにとぞご寛恕くださいますよう、お願い申し上げます。


●名前の話と類似的な何か

さて、アラブの人というか、イスラム系の人の名前の付け方が、私にはよくわかりません。ネットで調べて、とりあえずそれっぽい音をつけてみました。名前の並べ方もわかりません。バラク・フセイン・オバマみたいにミドルネーム的なもの必要なのかとか、そういう基本的なことすら(フセインってもの凄くイスラムな響きですけど、彼のお父さん、ケニアのムスリムでしたっけ?)わかりません。「○○の息子」みたいに名乗るものらしいので、続編ではつけていますが……。意味も、ざっくり調べてつけましたが(作中には意味を記しませんでしたが、たとえばお兄さんは、頭が良くて全体を見渡せる人的な)、主要人物は頭の音を揃えるとか、それぐらいしか気をつけていませんので、へんてこな名前だったら申し訳ない。

ところで、主人公の名前、マサユキ・アンドーですが。
どなたも「緑川光かよ!」ってツッコんでくれませんでした。寂しかったです。マサキ・アンドーと一文字しか違わないのに! 古すぎて、「魔装機神」シリーズなんて誰も知らないんだな……いや、私もスパロボ、全然やってないですけども。
いや、最初からゲームから名前をとろうとしたわけではないですし、緑川光の声であて書きしてたわけでもないんですけれども。

二〇一四年の春、秋山真琴さん主催の幻想文学アンソロジー『幻視コレクション』の第二弾にお誘いいただいた時、「何を書いてもいいですよ」というお話でしたので、既刊BLシリーズのスピンオフとして「カインの神様」という短編を書きました。創世記のカインとアベルをモチーフにした話で、主人公の名前を日本語の音にする時に、アベル役の主人公を、阿部正樹という名前にしたんですね(「やらないか」で有名な某漫画のキャラクターの名前からもひっぱってきているのですが、共著者の一人である水池亘さんが、冒頭をチラッと読んだだけで「これはBLですね」と看破したので、本当に驚きました。さすがはマンガ評論家……!)。
それで、新たな企画物の話がきた時に、何も思い浮かばなかったので、主人公の名前と設定が、このアベ・マサキ周辺をウロウロして、最終的に、安道正幸になったわけなのでした……。

あと、幼なじみが、絵がうまかったり映画が好きだったりバイクのりだったりするのはスルーしてください。主人公がいきなり英語の歌を歌ったり、ギター弾いたりするのもです。これは私の基本仕様です(仕様?)。ないはずの引き出しを全部あけると、こうなるという見本です。


●いろいろと間違ってる

というわけで、巻頭に収録した「それから」を書き、アラブBLアンソロジーもめでたく完売、好意的な感想もいただけて、ありがたい限りだったのですが、「やっぱり私、いろいろ間違ってるな?」と思うこと、しきりで……。

まず、いわゆるスパダリは、基本、アラブの王様の方じゃないの?
マリクがめちゃくちゃ情けなくない?
お金持ってるはずなのに、あんまりもってない感じがしない?
というかアンドーに対してお金を使ってなさすぎ?
アンドーの方が「神対応」とか「クール」とかいわれてて、むしろイケてる?
アンドーが昔の人過ぎない?(バブリーだし、音楽の趣味も古いし)
反対にアンドー、年齢の割に幼すぎない?
というか、マリクがアンドーを砂漠の国で幸せにしなくていいのかな?

BLを書き出して、久しいと言えば久しいのですが、だいたいはミステリ仕立てで書いているので、BLの文法がよくわかってない部分があります。私の商業誌経験は、百合物と怖い話だけで、もともとガールズラブ系の読者が多かったりもして……。
というわけで、私のもっているBLの引き出しと言えば、ほぼ二次創作同人誌だったのです。つまり、元ネタが少年漫画とかアニメとかゲーム(私のサークル名もペンネームも少年漫画が由来です)……一番長く書いていたのはアクションゲームなので、そのキャラを扱っていた時の書き癖がにじみ出てしまう。超能力者が弾圧される時代、秘密結社の総帥になった亡命イギリス人貴族と、そのバックについた成り上がりホンコン・チャイニーズとか……友情など存在しないといわれた戦国時代に、主従じゃなくて幼なじみ同士で知音になった某カップルとか(しかも片方が不治の病)……あとは、講談で有名な、オカンな真田の忍びとか……それじゃ、シーク物になるわけがありませんでしたね。

続編に関しては、お題というか、ネタとして「食事の話」「着衣水泳」をご提案いただきまして、もう、完全に自分の書ける範囲に持ち込んでしまいました。どう構成してもマリクの話が長くなってしまいそうで、三話目から三人称に切り替えてしまったのは、力不足だったなと思います。
個人的な思い出も無意味にまぎれこんでいます。遠州屋もパッパーも、もうお店がないよ! 私の後輩達は、どこにたむろして音楽を聴いてるんだ……しないのか? おこづかいでは買えないアルバムを、コツコツエアチェックする時代じゃないし……。

というわけで、最初からアラブBLじゃない上に、最後までいろいろと間違っている感じですが(全体に漂う死の匂いとか)、私らしいところが出ている話だと思いますので、往年の読者様には「いつものなりはらで安定」と思っていただければ嬉しいですし、新規の読者様には「こういう話を書けるのか、なら、他も読んでみようかな」と思っていただければ、大変ありがたいです。

……以上、読んでも読まなくてもいい、「それから」後書きでした!



written by narihara akira 2016.

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