『花 見』


「終わりかけの桜って綺麗じゃないから、あんまり好きじゃないんだ」
「そうか? 俺はこういうのが好きだけどな」
護が自分で撮った、ぼうっと緑に輝く山桜の写真だった。花が散り終える前に葉が出揃っていて、普通の散りかけた桜が全体的にくすんだ赤になるのと大いに違っていた。
「これ、どこ?」
「教えない」
生前、護は花見につきあってくれなかった。秘密の場所で、一人で見るのが好きらしかった。
「アンドー。桜が咲くと、日本人は花見に行くときいたんだが」
「僕はあまり行ったことないけど、明日、公園デートでもしようか」
嬉しそうにうなずく新しい恋人の顔を見て、僕は写真を伏せた。この春の物想いを、いったい何処へ埋めてしまおうか――



(2016.12脱稿、Text-Revolutions5【300字SSポストカードラリー】用書き下ろし
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Narihara Akira
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