■準決勝: 渡辺 雄也(神奈川) vs. 中村 修平(東京)

By Daisuke Kawasaki

 物語を紡ぐ事とデュエルをする事は同じだ。

 人と人との意志のぶつかり合いが物語を紡ぐとすれば、デュエルをする事も物語を紡ぐ事と同意といっても大げさではないだろう。

渡辺 「こんなところでリベンジできたとしてもな……」

 試合開始前に、渡辺 雄也(神奈川)はこう語った。

 相性3:97の準々決勝を勝ち上がり、決勝まで勝ち進んできた中村 修平(東京)。その中村と日本選手権2009の決勝で戦ったのが、渡辺だった。

 その試合の結果は、敗北だった。すでに誰もが知っているとおり、2009年日本王者は、中村修平だ。2008年も、後に日本王者となる大礒 正嗣に準決勝で敗北していた渡辺だったが、2009年の敗北は、それ以上に、悔しい思い出として渡辺の心に残っている。

 Game 4の最終ターン。どうやっても、逆転の芽がない手札を見つめ、敗北を認めたくないかのように長考する渡辺の姿は、筆者の印象にも残っている。


2011プロツアー殿堂、中村修平
Game 1

 後手の渡辺、《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》2枚と《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》3枚というフルハウスに土地が無しという手札を当然のマリガン。

渡辺 「最初の4枚で《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》2枚と《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》2枚見えた時点でやられたと思ったんだけどね」

中村 「逆に、そういう初手の方がマリガン悩まなくていいよね」

 続く6枚には十分な枚数の土地に《定業/Preordain》、さらにマリガン分を取り返せる《戦隊の鷹/Squadron Hawk》も入っていたので、これをキープ。1ターン目の《定業/Preordain》で《マナ漏出/Mana Leak》を確保する。

 一方、《天界の列柱/Celestial Colonnade》《氷河の城砦/Glacial Fortress》とタップインランドを連続して置く中村は、1ターン遅れて《定業/Preordain》。渡辺の《戦隊の鷹/Squadron Hawk》を通した上で、3マナ全て残してターンを返す。

 渡辺は、《戦隊の鷹/Squadron Hawk》でアタックした後に、土地をセットする前に《定業/Preordain》。この《定業/Preordain》を中村は《呪文貫き/Spell Pierce》でカウンター。渡辺は《地盤の際/Tectonic Edge》を置いてターンを返す。

 《戦隊の鷹/Squadron Hawk》が殴り続け、中村が土地を置き続けるターンが続くが、渡辺の土地が《地盤の際/Tectonic Edge》2枚に《金属海の沿岸/Seachrome Coast》2枚の合計4枚と、枚数でも色マナでも事故気味な事が判明したところで、中村は《地盤の際/Tectonic Edge》の起動にスタックして《地盤の際/Tectonic Edge》を使用することで、《金属海の沿岸/Seachrome Coast》を2枚とも破壊する。

 そのまま、3枚目の土地を引けない渡辺。

 《戦隊の鷹/Squadron Hawk》がアタックを続けるが、これが《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》の<-2>能力によって破壊されてしまい、クロックが無くなってしまう。

 返しのターンにやっと引き当てた3枚目の土地が《地盤の際/Tectonic Edge》だったことで、渡辺の心は折れた。

中村 1-0 渡辺

 あの頃のように、渡辺と中村が調整の練習をしているかは、わからない。中村が東京に短期的に引っ越してきているため、練習をしようとすればできるのかもしれないが、しているのかはわからない。

 今期、渡辺は不調だ。一応、半年で25点越えと、今年も一応は50点のLv8コースをキープしている中村に対して、渡辺は、なかなか大会で成績を残せないでいる。

 ほんの数ヶ月前、渡辺はその原因は、やはり練習不足だろうと語った。質と量が不足していると。

 それは数ヶ月前の話だ。今の渡辺はどうなのだろうか?

 中村は、自身のデッキについて語るときに、こう語った。

中村 「なんだかんだで、ほとんどナベのデッキと一緒だと思いますよ、内容。ナベのレシピを参考にしている部分もあるし。だから、ほとんど同じなんじゃないですかね」

 そして、最後に一言付け加えた。

中村 「多分……」

渡辺雄也、この2週間後に『GP上海』で優勝を飾る。



Game 2

 《忘却の輪/Oblivion Ring》《マナ漏出/Mana Leak》に、《天界の列柱/Celestial Colonnade》2枚を含む土地5枚と、今度はマナフラッド気味の初手の渡辺だったが、これをキープ。中村が2ターン目にプレイした《戦隊の鷹/Squadron Hawk》を《マナ漏出/Mana Leak》すると、トップデックしてきた《刃の接合者/Blade Splicer》をプレイする。

 だが、この返しの中村のアクションも、《刃の接合者/Blade Splicer》。

 結局、中村の味気ないゴーレムトークンと、渡辺の魂のゴーレムトークンが相打ちし、戦場にはそれぞれただの1/1クリーチャーが並ぶ。

 ここで有効カードを引けない渡辺。対して中村は2枚目の《戦隊の鷹/Squadron Hawk》をプレイし、今度は戦場に出る事が許される。戦場にいるカードはそれぞれ1/1だが、明らかに中村の方が有利な盤面となっていく。

 渡辺は、1ターン遅れて引いて来た《マナ漏出/Mana Leak》を見て、小考。渡辺は2枚の《天界の列柱/Celestial Colonnade》と《地盤の際/Tectonic Edge》《金属海の沿岸/Seachrome Coast》の4枚の土地と、お供のいない《刃の接合者/Blade Splicer》をコントロールしている。手札は《忘却の輪/Oblivion Ring》と《マナ漏出/Mana Leak》、そして土地。

 結局渡辺はさらに《金属海の沿岸/Seachrome Coast》をプレイしてターンを返す。中村は《戦隊の鷹/Squadron Hawk》でビートしつつ、さらに《戦隊の鷹/Squadron Hawk》を追加し、渡辺の土地を《地盤の際/Tectonic Edge》で破壊する。

 ここで渡辺は《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》をトップデック。2マナ残してこれをプレイしたものの、アタックに対応しての除去でのテンポ損を嫌い、ターンを終了。中村は返しの《忘却の輪/Oblivion Ring》でこれを対処しようと試みる。ここに《マナ漏出/Mana Leak》を合わせた渡辺。一方の中村は対抗せずに、《忘却の輪/Oblivion Ring》を墓地に置く。

 ここで《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》を《刃の接合者/Blade Splicer》に装備させ、アタックする渡辺。《刃の接合者/Blade Splicer》でチャンプブロックした中村に対して、渡辺は《地盤の際/Tectonic Edge》をプレイし、マナを縛る。

 これによって、2枚目の《忘却の輪/Oblivion Ring》に打たれた《呪文貫き/Spell Pierce》へのマナを支払えなくなってしまった中村。《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》をプレイし、<-2>能力で《刃の接合者/Blade Splicer》こそ対処したのものの、ついに渡辺も《戦隊の鷹/Squadron Hawk》をトップデック。《忘却の輪/Oblivion Ring》で《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》を対処されてしまったことも併せて、かなり困難な盤面となってしまう。

 《審判の日/Day of Judgment》も1ターンの時間稼ぎにしかならず、クロック勝負に持ち込むべくプレイした《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》も《未達への旅/Journey to Nowhere》で対処されてしまい、ついに本体へと《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》の攻撃が通りはじめてしまう。

 渡辺がプレイした《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》こそ《未達への旅/Journey to Nowhere》で対処した中村だったが、《太陽のタイタン/Sun Titan》が通ってしまい、《地盤の際/Tectonic Edge》で完全に土地を縛られるプランが確定する。

 そして、そんなプランに関係無く6/6というサイズの前にライフを残すゲームができないため、中村は土地を片付けた。

中村 1-1 渡辺

 メインボードはともかく、サイドボードに関しては、先週渡辺が使用し、大会に参加していたレシピを15枚そのまま使用している、と中村は語った。

 だが、しかし、中村と渡辺のデッキリストを見比べると、両者のデッキには、非常にわずかな差があった。そして、渡辺のそれは「同系を見据えた調整」であるように見えた。それが、一週間前の渡辺のデッキを使う中村と、今週の渡辺のデッキを使う渡辺の差。

 渡辺は、Caw-Bladeの同系と戦う事により焦点を当てて、練習を積んできたのだろう。そして、それだけの時間をマジックに割り当ててきたのだろう。

 だから、《太陽のタイタン/Sun Titan》のように、1枚で勝てる可能性のあるカードをある程度デッキに入れた。

 そして、1枚のカードで勝てる可能性を模索するプレイスタイルこそが、そもそもの渡辺の持ち味だったのではないだろうか?


Game 3

 今度は《地盤の際/Tectonic Edge》2枚しか土地がないという手札をマリガンせざるを得ない渡辺。

 キープのできる6枚でゲームを開始するが、後手2ターン目のセットランドですでに悩ましい選択を強いられる。タップインの《天界の列柱/Celestial Colonnade》2枚目をプレイして後の色マナを確保するか、《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》をセットして《マナ漏出/Mana Leak》を通すか。

 後者のプランを選択した渡辺は中村のプレイした《刃の接合者/Blade Splicer》を《マナ漏出/Mana Leak》でカウンターし、自身は《刃の接合者/Blade Splicer》を着地させることに成功する。

 だが、中村は、2枚目の《刃の接合者/Blade Splicer》。またも、味気ないゴーレムトークンと魂のゴーレムトークンが相打ちする。どんなカードをトークンに使っていても、ゲーム上は同じ機能だ。

 渡辺は《戦隊の鷹/Squadron Hawk》をプレイすることに成功し、わずかに優位に立つのだが、《平地/Plains》のセットによって、マナトラブルの気配を中村に察知されてしまい、《地盤の際/Tectonic Edge》で《天界の列柱/Celestial Colonnade》を破壊されてしまう。

 前述のように2枚目の《天界の列柱/Celestial Colonnade》こそ手札にあり、コレをタップインした渡辺だったが、やはりテンポロスの感は否めない。対して中村は、このゲーム3枚目となる《刃の接合者/Blade Splicer》をプレイする。

 《戦隊の鷹/Squadron Hawk》を追加し、青マナを残した状態でターンを終える事に成功した渡辺だったのだが、中村は《戦隊の鷹/Squadron Hawk》をも追加し、渡辺のプレッシャーを無効化しつつ、自身の3/3トークンというプレッシャーは機能する場を構築していく。

 とはいえ、渡辺も手札に《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》《乱動への突入/Into the Roil》《未達への旅/Journey to Nowhere》とゲームプランの中心となるカードは十分にある。だが、不利な盤面である渡辺がどうしても先手をとって動かなくてはならない。

 まず、渡辺は、《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》を様子見でプレイする。これを見て、中村は、ちょっと小首をかしげ、そして戦場に出る事を許可する。そして、返しのターンに《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》をプレイし、互いの墓地のカードを確認するとターンを返す。このエンドに渡辺は《乱動への突入/Into the Roil》を《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》に。

 ここで《マナ漏出/Mana Leak》を使わせた渡辺は、《未達への旅/Journey to Nowhere》をプレイ。これはカウンターされないのだが、戦場に出たときの能力の対象で再び思索を巡らす。渡辺が《戦隊の鷹/Squadron Hawk》をコントロールしているのに対して、中村の戦場には《戦隊の鷹/Squadron Hawk》《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》、そして3/3のゴーレムトークンがいる。

 結局、渡辺は《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》を装備した《戦隊の鷹/Squadron Hawk》の攻撃を通すために、《戦隊の鷹/Squadron Hawk》を追放する。

 そして、《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》を装備した《戦隊の鷹/Squadron Hawk》のダメージが通ったところで、《太陽のタイタン/Sun Titan》をプレイ。《刃の接合者/Blade Splicer》が戦場に戻る。

 中村は《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》とゴーレムトークンでアタック。ここで《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》をブロックした《太陽のタイタン/Sun Titan》に《四肢切断/Dismember》が使われ、大量の相打ちが発生し、盤面がわからなくなる。

 この時点で渡辺のライフは11。中村のライフは9。中村は《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》をコントロールし、兵士トークンは無し。一方の渡辺は《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》を持った《戦隊の鷹/Squadron Hawk》。

 渡辺は《天界の列柱/Celestial Colonnade》と、《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》を持った《戦隊の鷹/Squadron Hawk》でアタックし、《戦隊の鷹/Squadron Hawk》がブロックされたことで、中村のライフは5。

 対して、中村は《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》でアタック。ここで7点のダメージが渡辺に入り、渡辺のライフは4。そして、中村は《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》をセットして、ブロッカーを確保する。

 渡辺は、祈るように、ゆっくりとカードをドローする。2年前には中村の《大貂皮鹿/Great Sable Stag》の前に、何も引けなかった渡辺だったが、ここで《地盤の際/Tectonic Edge》を引ければ、リベンジできる。




 しかし、渡辺は《地盤の際/Tectonic Edge》を引く事はできなかった。

 そこで渡辺が引き当てたのは5マナの白いプレインズ・ウォーカー。

 <-2>能力が中村の《刃砦の英雄/Hero of Bladehold》を破壊し、中村にとって逆転できる可能性は《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》のトップデックのみ。

 そして、中村は山札のトップを見て、《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》で無い事を確認すると、長考するそぶりもみせず、すばやく土地を片付けたのだった。

中村 1-2 渡辺

 中村は渡辺とは違い、まったく長考しないで土地を片付けたが、渡辺は中村に倣ってか「決勝の相手は、山川くんかー。昨日何回か対戦したけど、まったく勝てないデッキだったんだよなー」とフラグを立てた。

 冒頭の渡辺のセリフを思い出す。

渡辺 「こんなところでリベンジできたとしてもな……」

 たしかに、100回記念の五竜杯であり、五竜杯がどれだけトーナメント指向の大会だとしても、世界規模のプレミアイベントで活躍を続ける中村や渡辺にとっては、リベンジの機会としてみたら「こんなところ」なのかもしれない。渡辺は大舞台で中村からタイトルを取り戻さなければならない。

 だが、たしかに渡辺が「こんなところ」でマジックを夢中になってやっていた時代は、夢中になって、練習量の不足など存在しないかのように、マジックをやっていた時代だったはずだ。中村へのリベンジの舞台としては確かに足りないかも知れないが、しかし、この五竜杯の第100回のタイトルは、「取り戻すべき過去」として、渡辺に必要なタイトルなのではないか、と、このマッチを見ながらふと思った。

 「ミスターPWC」であると共に、五竜杯ジュニアシリーズの王者であった時代の渡辺の強さが、今の、プロプレイヤーとして渡辺の強さと合わさった姿を見たいと思ったのだ。