観戦記事コーナー
 ◆◆◆ラウンドカバレージ◆◆◆

■Round 7 高橋徹(東京) vs. 小室修(東京)
By Naoaki Umesaki 
 316名もの参加者が集まった『Eternal Festival Tokyo 2013』。プレミアイベントでも活躍を残してきているプレイヤーの参加も多く見られるが、上位卓に『グランプリ横浜2003』や『プロツアー名古屋2005』での優勝経験を持つ小室修(東京)の姿を確認できたので、このラウンドは彼の試合をお届けしたい。

 ウィザーズでの公式コラム等では、『華麗なる天才』と評される小室。現在は第一線を退いてバリバリのプロプレイヤーというスタンスではないが、先日行われた『グランプリ北九州2013』では12勝3敗という好成績で上位入賞を果たしている。流石は天才、未だその実力は健在ということのようだ。
 だが、小室に普段からレガシーを遊んでいるイメージはない。どういった風の吹きまわしなのだろうか。簡単に聞いてみた。

「小室さんがレガシーって、意外なイメージです」

小室 「大きな大会で楽しそうだったしね。あと、実はレガシーの大会結果を見て楽しんでたりはしてた。色々なデッキが活躍してて、面白そうなフォーマットだよね」


(華麗なる天才、Shu Komuro)

「なるほど。でも、レガシーってカード資産的にハードル高くなかったですか?」

小室 「言う程は高くないイメージかな。真面目にやってた時期に買っていたカード資産もあるし、少しカードを買い足せばって感じだった」

「確かに、冷静に考えると大人の趣味としては高くないのかも」

小室 「あと、最近のカード強いしね。みんなも、意外とカード持ってるんじゃ?」

 本イベントの参加者数にしろ、最近は関東圏でレガシープレイヤーの増加を肌で感じる機会が多い。様々な理由が考えられるが、レガシーを遊べる場所が増えたことによって小室のように少しカードを買い足してレガシーを始めるプレイヤーが増えてきているのかなと感じる一幕だった。

 それでは、前置きはこれくらいに、試合のほうを見てみよう。

【Game 1】
 『青白黒 石鍛冶デッキ』を使用する先攻の高橋が1ターン目に《思考囲い/Thoughtseize》を唱えると、小室の『青単 全知 コンボデッキ』と思われる手札が公開された。

小室の手札:《全知/Omniscience》、《無限への突入/Enter the Infinite》、《定業/Preordain》、《思案/Ponder》、土地3枚。

 簡単に小室が使うデッキの勝ちパターンを紹介すると、《実物提示教育》などで《全知》を戦場に出し、《無限への突入》でライブラリーを引ききり《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》をトップに戻す。
 あとは、《狡猾な願い/Cunning Wish》から《蟻の解き放ち/Release the Ants》を持ってきて、激突で絶対勝つ状態なので無限ダメージで勝利ということだ。

 高橋は公開された手札の中から《思案/Ponder》を抜くと、続く2ターン目に《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》で《殴打頭蓋/Batterskull》をサーチ、4ターン目には《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》と小室がコンボを完成させる前にと、一気に勝負を決めにいく。

 残されたターン数は決して多くはない小室だが、手札に《全知》と《無限への突入》が揃っているので目標は明快。《全知》を戦場に出すための《ドリーム・ホール/Dream Halls》や《実物提示教育/Show and Tell》。そして、欲を言うならば、それを通すためのカウンター呪文だ。

 小室は、対戦相手のアタックでライフを削られながらも《定業》→《渦まく知識/Brainstorm》→《思案》と確実にドロー呪文を連鎖させていく。そして、ライフが削りきられる直前のターンに意を決して《実物提示教育》を仕掛けた。

(Toru Takahashi)

 「持っていますよ」といった感じで素早くピッチで《Force of Will》を唱える高橋だが、小室もノータイムで《否定の契約/Pact of Negation》を合わせる。小室は、ドロー呪文を繋げていく中で、コンボパーツだけではなくカウンター呪文も確保する完璧な内容だったのだ。

 そして、カウンター勝負に勝った小室の《実物提示教育》が解決され、《全知》が戦場に登場する。

 最初の《思考囲い》で小室の手札に《無限への突入》がありコンボが揃っていることを確認している高橋は、即座に投了を告げた。
 いくら圧倒的な場を築かれても、ライフが1しか残っていなくても。コンボが決まれば勝ちというコンボデッキの強みが出た1戦目だった。

高橋 0-1 小室

【Game 2】
 「コンボデッキに対しては、どうすれば勝てるのか?」いつの時代も、よくある疑問だ。そして、いつの時代も変わらない基本的な回答の一つが「手札破壊呪文の連打」である。
 第2ゲームは、高橋がそんなセオリーを分かりやすく示してくれるゲームとなった。

 まず、互いにドロー呪文を打ち合う序盤から、3ターン目に高橋が《思考囲い/Thoughtseize》を仕掛ける。

 公開された小室の手札は、《全知》《ドリーム・ホール》《無限への突入》《Force of Will》《狡猾な願い/Cunning Wish》《神聖の力線/Leyline of Sanctity》。かなり完璧な手札である。

 しかし、ここからの高橋が凄かった。《ドリーム・ホール》を捨てさせると、《思考囲い》を2枚目→3枚目と連打した上に、《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》でのフラッシュバックで4発目と、一瞬にして小室の手札をボロボロにする。

 しかし、優秀なドロー呪文を多く積んでいる『青単全知コンボ』は時間さえあれば、すぐに立ち直ってきてしまう。そういった猶予を与えないのも、コンボデッキに対する時におけるセオリーの一つだ。

 そんな中、高橋は続けてキャストした《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》で手札破壊能力持ちの《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》をサーチ。

 第2ゲームは、小室に少しの希望も与えない形で、高橋が完璧な勝利を収めた。

高橋 1-1 小室


【Game 3】
 先攻の小室は早々に初手をキープ宣言するが、後攻の高橋は苦い顔で少し考えた後にマリガンを宣言。1マリガン後の手札も土地が1枚しかなく、ダブルマリガンでのスタートとなった。

 ゲームのファーストアクションは、高橋の《翻弄する魔道士/Meddling Mage》。サイドボードから投入した、小室のコンボを阻害できる1枚だ。

 手札に《全知》《実物提示教育》《ドリーム・ホール》と役者が揃っている小室は、落ち着いて《渦まく知識/Brainstorm》でドローを進めてから、《衝動/Impulse》を切っての《Force of Will》でカウンター。

 そして、小室は次のターンに《実物提示教育/Show and Tell》をキャスト。まだ《無限への突入》は見えていないが、それも時間の問題。これにて勝負ありかと思われた。

 しかし、《実物提示教育》で高橋の場に出てきたのは《エーテル宣誓会の法学者/Ethersworn Canonist》。

 小室は、カードを確認して「あーあ」といった表情。ざっくり説明すると、お互いのプレイヤーはアーティファクトではない呪文を1ターンに1回までしか唱えられなくなってしまったのだ。
 軽量のドロー呪文を連打してコンボパーツを集めにいったり、決め手段が《蟻の解き放ち/Release the Ants》を無限回キャストでの無限ダメージである小室としては致命傷だ。

 そして、続けて高橋の場に登場するのは先程のゲームを決めた《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》。高橋はダブルマリガンでのゲーム開始だったが、場の状況を完全に有利なものにして、小室が思うように動きを取れない中確実に勝利へのダメージを刻んでいく。

 いよいよ、小室のライフは2に追い詰められた。

 これが事実上最後のドロー。小室は気合の入ったモーションでカードを引く。

 そして、なんと叩きつけたのは、起死回生となる《無限への突入/Enter the Infinite》!

 流石、『華麗なる天才』と呼ばれる男は持っている! 一気に、手から溢れんだかりのカードがドローされる。これだけあれば、癌である《エーテル宣誓会の法学者》もなんとかなるだろう。

 そんな時、小室は何かに気が付いた。《エーテル宣誓会の法学者/Ethersworn Canonist》は《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》を装備してプロテクション(黒)を持っているので、手札にある《殺戮の契約/Slaughter Pact》で対処することが出来ないのだ。

 それじゃあと、小室は続けてサイドボードを確認する。そこに見える《急流/Rushing River》を《狡猾な願い/Cunning Wish》で持ってきて……。いや、《エーテル宣誓会の法学者》が場に出ているので、プレイ回数が足りない。

 いったんは小室の《無限への突入》トップデッキに沸いたギャラリーも、その様子を見ていて雰囲気で察した。 結論=手札が鬼のようにあっても、何ともならない。
 小室は苦笑いで場のカードを片づけた。

小室 1-2 高橋




小室 「法学者、対処できんかったね。《防御の光網/Defense Grid》が弱いサイドインだった気もするし、バウンス呪文をメインに入れておけって話か。《サファイアの魔除け/Sapphire Charm》はサイドボーティングでメインに入れておくべきだったかもなー。しかし、《全知》が戦場に出てから何も引かんかったね」

「相手の《翻弄する魔道士》を消す時、《衝動/Impulse》じゃなくて2枚目の《ドリーム・ホール》を切って《Force of Will》してると?」

小室 「……。相手のカウンターと手札破壊を2枚までケアしたつもりだったけど、よく考えると《実物提示教育》の2枚目を対応して打った《渦まく知識》で見てるから、プレイミスだな。《ドリーム・ホール》を切っての《Force of Will》が正解か。あー、流石に《衝動/Impulse》打ってればドロー呪文かコンボパーツに辿りついて勝ってただろうなー」

− 「なるほど」

 試合を振り返り「レガシー難しいなー、ミスった」と語る小室だが、その表情は明らかに昔ながらのマジックを楽しんでいる雰囲気で、どこか嬉しそうだ。 そして、最初は「Top8の目がなくなったしドロップしようかな、」と言っていたが、感想戦を終えるとドロップせずトーナメントを続行した。

 どうやら、華麗なる天才もレガシーの魅力にハマってきた様子である。



BACK