■QF: 盛下 瑞樹(神奈川) vs. 藤井 雅浩(静岡)

By Jyunya Takahashi

9層もの篩分けの末、盆上のプレイヤーは8人にまで絞られた。上位8人のみのプレーオフ進出。誰しもの中間目標である現在に、ある程度の達成感を覚えるプレイヤーは多いことだろう。

だが、本当の戦いはここから始まると言っても過言ではない。
あくまでもここは中間地点なのだ。
険しい頂きは未だに顔を見せていない。

盛下が手に握るのは2年間以上も使い続けている愛用の「マーフォーク」だ。ローテーションのあるフォーマットとは異なり、気に入ったカードやアーキタイプを長く使い続けられることはレガシーというエターナルフォーマットならではの魅力だろう。

デッキとの長い付き合いの中では多くの気づきがあるようで、今大会においては直前で《メロウの騎兵/Merrow Reejerey》に改めて注目し、この変更がプレーオフ進出の推進力となったという。その他にも《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》や《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》など各所に”盛下チューン”が施された後が見える。

その盛下を予選ラウンドで下している藤井のデッキは「Marverick」という緑白のミッドレンジだ。両者に予選ラウンドで対戦した際の感想を聞いてみたところ、やや藤井に分があるようだ。そのマッチアップの鍵となる点は、盛下がより多くのロードを引きこむことができるか否かだ。対する藤井は、それらロードのバックアップを受けた戦線が整う前に《聖遺の騎士/Knight of the Reliquary》や《ルーンの母/Mother of Runes》で戦場の優位を固められるかが焦点となる。

『マーフォーク』、森下

●Game 1
ダイスロールで先手をとったのは盛下で、《呪い捕らえ/Cursecatcher》から《アトランティスの王/Lord of Atlantis》と軽快なスタートを切る。

藤井も《ルーンの母/Mother of Runes》、《貴族の教主/Noble Hierarch》と地盤を固めた上で、《アトランティスの王》に《剣を鍬に/Swords to Plowshares》を打ち込んで一歩も譲らない。

それでも盛下は《メロウの騎兵》2枚、《銀エラの達人/Silvergill Adept》2枚という潤沢の手札から一匹ずつ魚たちを放流していく。《銀エラの達人》、《メロウの騎兵》と並べたところで藤井が場に出した《獣相のシャーマン/Fauna Shaman》が快調だった盛下の手を止める。

藤井のデッキには隠されたエンジンがあるのだ。それこそが《大修道士、エリシュ・ノーン/Elesh Norn, Grand Cenobite》+《忠臣/Loyal Retainers》のコンボである。《獣相のシャーマン》はデッキに1枚ずつ隠されたそれらを確実にサーチすることができる。タップを要する起動型能力であるため、意外と猶予は長いように思われるかもしれないが、《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》を介することでその工程は想像の半分の速さで実行される。

迫る法務官のプレッシャーに追われた盛下はゲームを急ぐ。《呪い捕らえ》を失うことも厭わずに全軍をレッドゾーンに送り込み、藤井のキーカードである《スクリブのレインジャー》も《目くらまし/Daze》で辛うじて撃ち落す。

だが、藤井の軍勢は強固である。それほど巨大なクリーチャーはいないものの、《ルーンの母》が機能していることで場にいるクリーチャーすべてが無敵のクリーチャーになる権利を得ているのだ。打ち崩すには盛下がとったように物量で雪崩れ込む以外はない。

法務官召喚のラインを選択している藤井はただただ時計を進めてターンを返すのみだ。

盛下は《銀エラの達人》を出すと、《メロウの騎兵》の能力で《獣相のシャーマン》を寝かせにかかる。だが当然ながらスタックで《大修道士、エリシュ・ノーン》がサーチされる。まだ藤井の場には5マナしか見えていないが、次のターンには《忠臣/Loyal Retainers》を経由して繰り出される未来は見えている。《銀エラの達人》による追加ドローは解決にならない《島/Island》だった。窮地に追い込まれた藤井は、残された2マナで《行き詰まり/Standstill》を置くと、それによる3枚のドローに望みを託すことにした。

戦線は明確に有利だとは言いづらく、手札にも2枚目の《メロウの騎兵》のみと窮地に追い込まれた盛下だったが、《行き詰まり》に眉を寄せたのは藤井だった。

単純に《忠臣》をプレイしてゲームに蓋をするのも吝かではないが、それが《Force of Will》によって打ち消されてしまうと、勝利するプランを失うとともに盛下に鍵となるロードを与えてしまう可能性があるからだ。ここは敢えて最速を目指すことはないのかもしれない。

藤井は若干考えこむと、《忠臣》ではなく《聖遺の騎士》をサーチしてプレイを宣言した。クレバーなプランだろう。ここで《Force of Will》を使わせれば次のターンには《忠臣》で勝負をかければよく、これが打ち消されなければ騎士が《魂の洞窟/Cavern of Souls》をサーチするため《忠臣》を気兼ねなく繰り出すことができるのだから。

だが、果たして《行き詰まり》は盛下に味方した。もたらされた3枚のドローの中身は《アトランティスの王》、《真珠三叉矛の達人》、《メロウの騎兵》、《Force of Will》という百点満点の内容だったのだ。《Force of Will》を《聖遺の騎士》にプレイするかを僅かに逡巡したが、それは取り下げて豊富なロードたちでプレッシャーを掛けることを選んだ。

土地を起こすと2枚目の《メロウの騎兵》を場に出し、《真珠三叉矛の達人》と《アトランティスの王》を自身の土地を2枚起こし続けることで展開していく。もはや金魚たちはビーストを悠々と踏み潰すサイズにまで成長し、盛下の手札には命綱である《Force of Will》も握られている。

藤井はもはや《大修道士、エリシュ・ノーン》すら手遅れだと悟るとやや心残りな手つきでカードを片付けた。

盛下 1-0 藤井



●Game 2

ゲームの勝敗を分ける要素だと予想された『ロードの数』がまさに決定づけたゲーム展開だった。

第2ゲーム、盛下の初手は
《島/Island》
《島/Island》
《霊気の薬瓶/AEther Vial》
《銀エラの達人/Silvergill Adept》
《アトランティスの王/Lord of Atlantis》
《メロウの騎兵/Merrow Reejerey》
《メロウの騎兵/Merrow Reejerey》

という申し分ない内容だ。ロードの数も確保され、何よりも《霊気の薬瓶/AEther Vial》があるのが頼もしい。Top8の先取している状況でのこの初手には、文句はおろか感謝すら必要だろう。

だが、藤井のアクションはこの初手をあっさりと打ち砕くものだった。

《貴族の教主/Noble Hierarch》から2ターン目に繰り出されたものは《窒息/Choke》。

これによって盛下の後続は《霊気の薬瓶》頼みとなるが、その希望さえも《緑の太陽の頂点/Green Sun's Zenith》を経由した《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》でシャットアウトされてしまった。

自由なマナのない盛下はなんとか《銀エラの達人》で解決策を探るも、藤井が順に《聖遺の騎士》と《ルーンの母》を横に並べだすと間もなく投了した。

盛下 2−0 藤井


●Game 3

序盤の大きなアクションが勝敗に直結した2つのゲームだったが、第3ゲームはお互いに静かな立ち上がりで開始された。

互いに2ターン目の《銀エラの達人》と《貴族の教主》が開始の合図となり、やや遅れた《貴族の教主》は図らずとも盛下の手札にある《目くらまし/Daze》をすり抜けた。初手から《不毛の大地/Wasteland》と《目くらまし》を抱えていた盛下は、《目くらまし》を活かすためにも《不毛の大地》で藤井の《Savannah》を破壊するか悩む。


だが、盛下には土地が2枚しかなく、ここでお互いのマナを拘束すると盛下の手札の《メロウの騎兵》や《梅澤の十手/Umezawa's Jitte》はいつ機能するかわからない。一応《霊気の薬瓶》があるため、藤井の対応によっては功を奏すが、この《霊気の薬瓶》が対処されてしまえばゲームセットである。切迫した状況だが、果たして盛下は《不毛の大地》を起動した。

対象となった《Savannah》は藤井の《輪作/Crop Rotation》で空かされようとするものの、《輪作》には《目くらまし》が刺さってなんとかマナデナイアルの展開には持ち込むことができた。残る希望は《霊気の薬瓶》に託される。

ところが現実は非情だった。藤井の手札からは《クァーサルの群れ魔道士》が繰り出され、当然のように《霊気の薬瓶》は破壊されてしまう。

なんとかゲームを立てなおそうと新たな土地を願ってドローする盛下だったが、集まってくるのはロードばかり。盛下が新たに3枚のロードを手札に加えた時、既に藤井の戦場には《獣相のシャーマン》から呼び出された《聖遺の騎士》の群れが並んでいたのだった。

盛下 1−2 藤井


『マーべリック』、藤井