Round7 本波友行 vs. 安福 昭浩

By Daisuke Kawasaki




日本選手権。

この言葉の響きには、格別のものがある。そして、上位4名に与えられる「日本代表」という言葉にも特別な響きがある。

プロツアーに出場したり、ましてや優勝したりという事には、非常に大きな価値がある。それは間違いない。そして、きっと、プロツアーで優勝する事は、日本代表にはいることよりも難しいことなのかもしれない。

しかし、人々はそれでも日本代表にあこがれ、そして日本選手権にあこがれる。

その日本選手権にむけての第一歩がこの日本選手権予選であり、そして、この最終戦がその最後のハードルなのだ。

このマッチに勝利したプレイヤーが日本選手権への出場資格を獲得することとなる。

本波"帝国"友行の名前は、すでにこのカバレッジ上で何度もでてきているだろうと思われる。使用しているデックは黒緑白の《包囲の搭、ドラン/Doran, the Siege Tower》デックだ。

清水"シミチン"直樹
「ここまでの関東のメタゲームを考えれば、この大会は青黒フェアリーが多いのが予想できるんで、僕がでるなら黒緑のエルフか、《包囲の搭、ドラン/Doran, the Siege Tower》ででますね」


と、「シミックの王子」が青緑以外のデックを推薦してしまうくらいに、今回の東京予選のメタゲームをかんがえれば、《包囲の搭、ドラン/Doran, the Siege Tower》系のデックは非常に強い。
そのことは、本波自身の戦績が証明していると言えるだろう。

対するは、安福 昭浩

昨年末に行われたThe Limitsでもトップ8に入賞しているプレイヤーであるが、だが、今大会で一番注目するべきなのは、その使用しているデックタイプであると誰もが口をそろえて語る。

果たして、どのようなデックを使用しているのだろうか。
なにはともあれ、このマッチに勝利したプレイヤーが、日本選手権への出場権を獲得することとなる。

Game1
《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》からスタートした本波に対して、安福のファーストアクションは《エピティアの賢者/Sage of Epityr》。

プレミアイベントでは、森 勝洋がGP山形で愛用していたような記憶しかないこのカードではあるのだが、しかし、このカードを使用した安福のデックがこの位置まで勝ち上がってきているというのはれっきとした事実である。

本波は予想外のカードの登場への動揺を隠しながら、《レンの地の克服者/Wren's Run Vanquisher》をキャスト、手札から《レンの地の克服者/Wren's Run Vanquisher》を見せながら置く。

そして、安福は2体目の《エピティアの賢者/Sage of Epityr》を。この時点で目に見えてわかる。本波は明らかに動揺している。

安福は《記憶の放流/Memory Sluice》を「自分を対象に」共謀でキャストする。ここで削られたライブラリーに《黄泉からの橋/Bridge from Below》の姿をみて、本波は「そういうデッキか」という。心なしか安心した空気が伝わってくる。

それはそうだ。誰だって、正体不明の相手と戦うのが一番怖い。

ここまで5勝1敗、安福

本波は順調に2体目の《レンの地の克服者/Wren's Run Vanquisher》を場に追加、さらに《萎れ葉のしもべ/Wilt-Leaf Liege》をキャストし、一気に安福のライフを削りにかかる。なんにしろ、本波のデックでは安福のデックに対して、メインボードでは一刻も早くライフを削りきる以外の選択肢はないのだ。

安福は《エピティアの賢者/Sage of Epityr》を2体ともチャンプブロックさせ、2体のゾンビトークンを生みだす。そして、《戦慄の復活/Dread Return》で《エピティアの賢者/Sage of Epityr》を釣り上げ、その能力を使用する。

だが、聡明な《エピティアの賢者/Sage of Epityr》は、安福に先への希望が無い事を悟らせたのだった。

本波 1-0 安福


安福のデッキのキーカード
Game2
本波が一気に勝利した印象のあるGame1だが、しかし、安福は《記憶の放流/Memory Sluice》でめくれたライブラリーのうち、5枚が土地であり、《黄泉からの橋/Bridge from Below》以外に有効カードが墓地に落ちなかったという、いわば「運のなさ」でゲームを落とした部分も小さくない。

もし、あそこで墓地に落ちたカードに、《戦慄の復活/Dread Return》でリアニメイトするべきカードが落ちていればゲームはまた違ったものになっていたのかもしれない。

先手の安福のファーストアクションは《溺れさせる者の信徒/Drowner Initiate》。これもまた、自身のライブラリーを削るためのカードだ。一方の本波の第1ターンの動きは《極楽鳥/Birds of Paradise》。

ここで、例えば《エピティアの賢者/Sage of Epityr》あたりをキャストすれば、安福は自分のライブラリーを削り始めて、デックを動かす準備を始められる。

しかし、安福のアクションはなんと、《ナルコメーバ/Narcomoeba》。コンセプトを考えれば最悪といっていいアクションである。

だが、本波は《思考囲い/Thoughtseize》を打つことで、安福の不幸はこの程度では無いことを思い知る。安福の手札は、土地と《記憶の放流/Memory Sluice》と…《ナルコメーバ/Narcomoeba》。

本波は、ここでセオリー通りコンセプトの中核を担う《溺れさせる者の信徒/Drowner Initiate》を《名も無き転置/Nameless Inversion》で除去。さらに追加で場に出された《奇声スリヴァー/Screeching Sliver》も《名も無き転置/Nameless Inversion》。

《レンの地の克服者/Wren's Run Vanquisher》がクロックを刻みはじめ、厳しい状態の安福。だが、もっと厳しいのは、キャストされた3枚目の《ナルコメーバ》。

非常に厳しい状態の安福ではあるが、しかし、《ナルコメーバ》で或る程度のライフを削りつつ、チャンプブロックを繰り返すことで、なんとか時間を稼ぎ続ける。

そして、虎の子として《バザールの大魔術師/Magus of the Bazaar》をキャスト、これが、除去されないまま召喚酔いがとける。しかし、この時点で、安福のライフは1であり場には《バザールの大魔術師/Magus of the Bazaar》しかいない。

一方の本波の場には《レンの地の克服者/Wren's Run Vanquisher》と《極楽鳥/Birds of Paradise》が2体。この状況を逆転できるカードはあるのか?

あった。安福のデックには、確かにそれがあるのだ。

安福は《バザールの大魔術師/Magus of the Bazaar》の能力を起動、そこで、《戦慄の復活/Dread Return》をディスカードする。そして、ここでドローしてきた《溺れさせる者の信徒/Drowner Initiate》をキャスト。この時点で、安福の手札には《思案/Ponder》のみ。

ここから安福はふたつのハードルをクリアしなければならない。


まずは1つめ。安福は《思案/Ponder》のキャストで《溺れさせる者の信徒/Drowner Initiate》の能力を誘発させライブラリーのトップを墓地に送る。ここに《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》がいたため、最初のハードルはクリア。

そして、続くハードル。安福は《思案/Ponder》を解決し、ライブラリーのトップ3枚を確認する。そこにクリーチャーはいない。

ラストチャンス。ライブラリーシャッフル後にドロー。

今度は、《エピティアの賢者/Sage of Epityr》が安福を勝利へと導いてくれたのだった。

本波 1-1 安福
自分のライブラリーを掘りに......

Game3
個々のカードを見れば、冗談のように思えるかもしれないが、しかし、ここまで5-1という成績で進んできている事を考えれば、安福のデックのコンセプトは決して馬鹿にしたものでは無いのだろう。また、The Limitsの成績なども加味すれば、安福のプレイング能力も決して低いものではない。

安福は、このGame 3ではダブルマリガン。どうしても、安福からは「薄幸」という印象が強いのをぬぐえない。

だが、それを押しのけるだけの粘り強さをもって、安福は勝利を手にしているのだ。

一方の本波、通称「帝國」。なぜ彼が帝國と呼ばれるようになったのかは筆者にはうかがい知れない。だが、彼は「このゲームも」1ターン目に《極楽鳥/Birds of Paradise》から、2ターン目に《思考囲い/Thoughtseize》という展開。思えば、本波が1ターン目に行動を起こしていないゲームをほとんど見ていないような気がする。

そう考えると、本波は、安福と対照的に「強運」という印象が強い。

本波に開示された安福の《ナルコメーバ》《戦慄の復活》《記憶の放流》に、土地2枚という手札をみて、筆者はそう感じざるを得なかった。

そのまま、本波は、《包囲の搭、ドラン》《萎れ葉のしもべ/Wilt-Leaf Liege》という必勝パターンで本波帝國を築き上げたのであった。

本波 2-1 安福

一見すれば、安福を本波が豪運でねじ伏せただけのゲームであったように見えるかもしれない。

だが、プロと呼ばれ、だれからも強者として見られているプレイヤーたちは、例外なくここ一番の勝負で「引ける」勝負強さを持っている。

そして、この日本選手権への出場権をかけた最後のマッチアップで必要だったのも、安福のような「粘り強さ」ではなく、「勝負強さ」だったのだろう。


Final Result : 本波"帝国"友行 『日本選手権』参加権利獲得!