By Daisuke Kawasaki
シャドウムーア発売前に環境を支配していたデックは何か?こう質問されたなら、筆者は青白ヒバリだったと答えるだろう。 人によっては青黒フェアリーの名前を、または緑黒エルフの名前を挙げるプレイヤーもいるかもしれない。確かにこれらのデックのもつパワーは環境でも頭ひとつ抜けていたものだったし、実際に旧環境のスタンダードを制したのは、高橋 優太の青黒フェアリーであった。 しかし、青白フェアリーの持つ、《一瞬の瞬き/Momentary Blink》と《目覚ましヒバリ/Reveillark》で、《裂け目翼の雲間を泳ぐもの/Riftwing Cloudskate》と《熟考漂い/Mulldrifter》を使い倒し、メタアドバンテージとボードアドバンテージの両方を奪いにいこうという、語弊をおそれずに言えば強欲なコンセプトは、その完成度と強度でやはり他の追随を許さないものだと思える。 ヒバリと正面勝負で勝てないデックには存在意義が無かったことを考えれば、やはり環境を支配していたのは青白ヒバリなのだ。そういう意味では、古い話だが、青白《補充/Replenish》を思い出させる支配力である。 さて、そんな《目覚ましヒバリ/Reveillark》デックではあるが、最近大きなムーブメントがおとずれている。 それは、「多色化」だ。 もともと、環境には、赤を追加し、コンセプト的に《目覚ましヒバリ/Reveillark》と相性がいい《大いなるガルガドン/Greater Gargadon》を追加する、いわゆる「ジョイタイム」と呼ばれるデックも一部には存在していたが、その傾向がより肥大化してきているように感じられるのだ。 例えば、昨年度新人王である渡辺 雄也は、青白ヒバリに黒をタッチし、《その場しのぎの人形/Makeshift Mannequin》を投入している。 |
「UBw Revillark」 / Watanabe Yuuya | |
Main Deck | Side Board |
3《島/Island》 4《鮮烈な小川/Vivid Creek》 4《涙の川/River of Tears》 3《アダーカー荒原/Adarkar Wastes》 1《コイロスの洞窟/Caves of Koilos》 4《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》 2《秘教の門/Mystic Gate》 3《反射池/Reflecting Pool》 4《裂け目翼の雲間を泳ぐもの/Riftwing Cloudskate》 4《大爆発の魔道士/Fulminator Mage》 4《熟考漂い/Mulldrifter》 4《誘惑蒔き/Sower of Temptation》 2《造物の学者、ヴェンセール/Venser, Shaper Savant》 4《目覚ましヒバリ/Reveillark》 4《精神石/Mind Stone》 2《虹色のレンズ/Prismatic Lens》 3《一瞬の瞬き/Momentary Blink》 3《入念な考慮/Careful Consideration》 2《その場しのぎの人形/Makeshift Mannequin》 |
4《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》 4《叫び大口/Shriekmaw》 3《思考の粉砕/Mind Shatter》 2《エイヴンの裂け目追い/Aven Riftwatcher》 2《薄れ馬/Wispmare》 |
渡辺 「環境にクリーチャーデッキが増えてきているんで、《その場しのぎの人形/Makeshift Mannequin》と《叫び大口/Shriekmaw》のペアが強いと考えたんです」 と、マネキンヒバリ製作に至った動機を渡辺はこう語っている。結果「デック全体が重くなりすぎちゃったんで、要調整ですね」というものの、確かに、ヒバリデックには実はまだ調整の余地があるのではないだろうか。 コンセプトと単体のカードパワーの圧倒的な強さ、これをあわせもつヒバリデックだからこそ、多少強引なハイブリッドも可能となるのだ。 Round 1で紹介した山下 洸平のデックなど、その極端な例であろう。 シャドウムーアの注目カードのひとつである《大爆発の魔道士/Fulminator Mage》と《サッフィー・エリクスドッター/Saffi Eriksdotter》や《目覚ましヒバリ/Reveillark》の相性の良さに注目。さらに、《包囲の搭、ドラン/Doran, the Siege Tower》を投入することで、全体としての打撃力も向上させる。 おしくも、本日は成績を残すことはできなかったが、しかし、コンセプトとしては将来的にメタの一画をになうレベルになる可能性を感じさせられた。 |
2007年度最優秀新人賞 渡辺雄也 |
山下 「いや、水谷さんにはかないませんよ。これに無限コンボまでハイブリッドしてるんですから」 Round 3でフィーチャーされた水谷のデックは、山下のデックにさらにハイブリッドを重ねたものである。ヒバリデックが進化を続けていく上で、最終的に切り捨てられつつある《影武者/Body Double》を利用した無限コンボ。 基本的に《鏡の精体/Mirror Entity》がデックの他の部分と噛みあわないという理由からどんどん枚数を減らされ、環境から淘汰されつつあるコンボだが、確かに赤をタッチしての《大いなるガルガドン/Greater Gargadon》をメインとしたコンセプトにするのであれば、無限コンセプトの復権も十分に視野に入る。 特に、赤をいれた3色にすれば、無限コンボに《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》を投入することで、より直接的に勝利に直結する無限ダメージコンボとなる。 そして、水谷のデックには、さらにシャドウムーアならではの別の無限コンボが搭載されている。 それが、シャドウムーア発売直後から話題になっている《柏槙教団のレインジャー/Juniper Order Ranger》と頑強をもったクリーチャーによる無限コンボである。 時のらせん発売時に、+1/+1カウンターと-1/-1カウンターの扱いに関するルールが変更された事によって生みだされたこのデック。このデックの基本的な動きを、水谷と違い、こちらの無限コンボを中心としたデックを構築してきた田中 久也に、独白していただこう。 |
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+ |
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無限 ライフorダメージ コンボ |
田中 「基本的な動きは、2種類の頑強クリーチャー(《残忍なレッドキャップ/Murderous
Redcap》と《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》)と、《柏槙教団のレインジャー/Juniper
Order Ranger》と《大いなるガルガドン/Greater Gargadon》の3枚での無限コンボだね。」
《柏槙教団のレインジャー/Juniper Order Ranger》はクリーチャーが場に出たときに+1/+1カウンターをのせる能力をもっている。そして、頑強クリーチャーは場に戻ってくるときに、-1/-1カウンターをのせて戻ってくる。
ここで重要になってくるのが、前述の時のらせん以降のカウンターの扱いについてのルールだ。それまでは、これら2種類のカウンターは、事実上数字は相殺しているにもかかわらず、実際には「それぞれのカウンターがのったままの状態」であった。
しかし、これがルール変更によって、形式上も相殺されることとなった。端的に言うと、-1/-1カウンターの乗ったクリーチャーに+1/+1カウンターがのると、実質的には-1/-1カウンターを取り除くことになるのだ。
これによって、頑強持ちのクリーチャーは、その能力を事実上無限に使えることになる。そして、《大いなるガルガドン/Greater Gargadon》は「時間カウンターを取り除く」のにスタックして能力を起動すれば、マナを使用せずにいくらでもクリーチャーをサクリファイスすることができるので、この3枚で無限に続くループを形成することが可能となるのだ。
「420.5n」 / Tanaka Hisaya | |
Main Deck | Side Board |
1《冠雪の森/Snow-Covered Forest》 4《反射池/Reflecting Pool》 4《鮮烈な林/Vivid Grove》 4《燃え柳の木立ち/Grove of the Burnwillows》 3《低木林地/Brushland》 2《ヤヴィマヤの沿岸/Yavimaya Coast》 2《火の灯る茂み/Fire-Lit Thicket》 2《樹木茂る砦/Wooded Bastion》 1《地平線の梢/Horizon Canopy》 4《大いなるガルガドン/Greater Gargadon》 4《極楽鳥/Birds of Paradise》 4《根の壁/Wall of Roots》 3《サッフィー・エリクスドッター/Saffi Eriksdotter》 4《熟考漂い/Mulldrifter》 4《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》 3《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》 2《叫び大口/Shriekmaw》 3《柏槙教団のレインジャー/Juniper Order Ranger》 2《目覚ましヒバリ/Reveillark》 4《きらめく願い/Glittering Wish》 |
3《思考囲い/Thoughtseize》 1《叫び大口/Shriekmaw》 1《雲打ち/Cloudthresher》 1《耳障りな反応/Guttural Response》 1《安楽死/Mercy Killing》 1《魂魄流/Torrent of Souls》 1《焦熱の裁き/Fiery Justice》 1《サッフィー・エリクスドッター/Saffi Eriksdotter》 1《調和スリヴァー/Harmonic Sliver》 1《炎渦竜巻/Firespout》 1《柏槙教団のレインジャー/Juniper Order Ranger》 1《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》 |
田中 「このバージョン(田中のデック)の場合、強みは単体でのカードが強いって事だね。同じように《大爆発の魔道士/Fulminator
Mage》をいれたデックも構築はできるんだけど、オレとしては、《大爆発の魔道士/Fulminator
Mage》は単体では弱いように思えるから採用はできなかったね。」
一方で、《大爆発の魔道士/Fulminator Mage》とも相性がいいことから、山下も採用している《サッフィー・エリクスドッター/Saffi
Eriksdotter》の採用に関しては、田中もこだわりを見せる。
古豪・田中久也 |
田中 「《サッフィー・エリクスドッター/Saffi Eriksdotter》はどうしても必要だと考えたから、このカラーコンビネーションにしたね。白を採用したから、相性がいいから《目覚ましヒバリ/Reveillark》も採用したようなもんだからね(《柏槙教団のレインジャー/Juniper Order Ranger》も《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》も《目覚ましヒバリ/Reveillark》で場に戻せる)。もちろん単体としてのカードパワーはあるんだけど、クリーチャーベースのコンボデッキだから、例えば《柏槙教団のレインジャー/Juniper Order Ranger》が《恐怖/Terror》系の除去で殺されたらがっかりじゃない。それをケアできるっていうのが強いし、コンボを決めるまでに仕方なく墓地に送った《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》なんかの頑強能力を復活できるのもいいね。デッキに噛みあってるし、サイドボードのウィッシュボードにもとってるよ。」 言及されているように、田中のデックの場合は、《目覚ましヒバリ/Reveillark》はどちらかといえばサポート程度の役割であり、採用枚数も2枚にとどまっている。 これをさらに推し進めて、《目覚ましヒバリ/Reveillark》をメインとしたコントロールデックとしたのが水谷のデックなのだ。 田中 「このデッキの場合、《叫び大口/Shriekmaw》と《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》のおかげで、クリーチャーデッキにはものすごく強い。環境の緑黒エルフとかドランとか、赤単あたりにはものすごい高い相性だね。」 さらに、環境の中心であるヒバリにも五分以上の相性だという。 田中 「プロジェクトXほどの柔軟性は無いんだけど、カードの単体の強さも踏まえて、クリーチャービートとしても十分戦えるんだよね。ヒバリ相手だと、3ターン目《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》4ターン目《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》とかでそのままビートダウンして勝つって言うのが一番多い勝ちパターンだよ。」 ただ、一方で、今大会で最大の勝ち組と見られる青黒フェアリーが厳しいという。 |
田中 「やっぱね、動きがもっさりしてるんだよね。だから、フェアリーのカウンターをしのげないし、なにより《霧縛りの徒党/Mistbind
Clique》が厳しい。今回、こんなに青黒フェアリーが台頭しているとも予想してなかったし、その辺が調整ミスだったね。サイドボードの《雲打ち/Cloudthresher》は4枚にするべきだったと思う。」
と、メインのアーキタイプとの相性を語ってもらった所で、このデックの今後の展望を語ってもらおう。
田中 「やっぱ、マナベースに不安があるね。ちょっとダメージランドが多すぎるから、そこを改善したいかな。例えば、Vividランドは、4枚ではなく6枚に冒険してみてもよかったかもしれない。あと、サイドボーディングが難しいから、もしかしたら、サイドボードの枚数をもっとウィッシュボードに使ってもよかった可能性が高い。どうせ、抜けるもんほとんど無いからね。例えば、相手がクリーチャーデッキじゃなければ普通は《台所の嫌がらせ屋/Kitchen
Finks》なんて抜けそうだけど、このデッキの場合はコンボパーツだから、それができなくて、結局いれるものあっても抜くものないことがおおかったね。」
この無限コンボとのハイブリッドに限らず、まだまだ構築の自由空間が広がっている可能性がある多色ヒバリコントロール。みなさんも、構築に挑戦してみてはいかがだろうか?