ホログラフィックとは

 AKを創始したジョージ・グッドハートは、「脳の全身に対応する分野には、完全なホログラム・イメ−ジが存在する。そして、局所的なホログラム・イメ−ジが、外傷やその他の理由で脳にあるものと一致しない場合に痛みや自覚が起こる」と述べています。

 ホログラフィー(holography)は1948 年に、ハンガリーの物理学者デニス・ガボールによって、電子顕微鏡の分解機能を高めるために発明されました。
 ガボールが名づけたホログラムは、ギリシャ語の「すべて」を意味する「ホロス」と「記録したもの」を意味する「グロス」の合成語で、『ホログラム』は「光の空間的情報のすべてが記録されたもの」を表しています。正確には、レーザーを使って光の干渉縞を記録した物体のことを『ホログラム』と言い、ホログラムを作る技術のことを『ホログラフィー』と言います。ホログラフィーでは、普通の写真のネガに当たるホログラム・フィルムを見ても干渉縞しか見えませんが、光を当てると被写体の立体的な全体像が得られます。

 ホログラムはどんなに細分化しても(例えば、細かく切り刻んだとしても)、光線を当てると、被写体の立体的な全体像が浮かび上がります。つまり、ホログラムにはどんな細かな部分にも三次元の時間と空間を融合した被写体の全情報が記録されていることになります。
 すなわち、ホログラム(あるいは、ホログラフィックな構造)とは、「どのミクロな部分にもマクロの情報がすべて、ほぼ完全な形で保持されている構造」なのです。

 局所の持つ情報と全体の情報とがほぼ同等であるというのは、興味深いことです。これを医療の立場から見ると、ホログラム理論をX線技術に応用したCT(computerized axiotomography)スキャンの発明により1979年にノーベル医学・生理学賞を受賞した、アレン・コーマックとゴッドフリー・ハウスフィールドの例があります。
 しかし、これはホログラム理論をハードウェア的に用いたに過ぎません。ホログラム理論のソフトウェア的な応用としては、手技療法、とりわけ東洋医学を学んだことのある人なら、脈診(脉診)や腹診、舌診などを連想するかもしれません。いずれも、局所情報によって全身状態(情報)を知る検査法として広く用いられてきたものです。

 ロンドン大学の理論物理学の教授デイヴィッド・ボームは、ホログラムのアナロジーを使って、「この世界には直接見ることのできない『内在系 implicate order』が存在しており、宇宙の全情報、それも宇宙創世から未来永劫までの全情報がインプットされている」と述べています。そして、この『内在系』に対して、直接見ることができる光線によって浮かび上がるホログラムの立体像を『外在系 explicate order』と呼びました。
 ほぼ同時期に、アメリカの神経生理学者カール・プリブラムも、脳の記憶についての仕組みとホログラムとが類似していることに気がつきました。そしてプリブラムは、脳はこのホログラフィックな宇宙を翻訳する一片のホログラムだと考えています。

 ホログラム理論により、脳・神経システム全体は統一的な概念で説明できるようになるのでしょうか。
 嗅覚、聴覚、視覚、体性感覚、運動感覚については生物学的なホログラム・モデルで説明できることがわかってきています。ゴルドフは「これによって、脳とすべての神経機能がホログラム・モデルに集約されることを意味するものではない。しかし、ある部分はホログラム・モデルによって細部まで説明可能だ」と述べています。それは、ある程度のホログラム・モデルが身体全体に起こると考えられることを意味しています。

 CBSでは、ポーズ・ロックという方法によって、相手(患者)の身体情報にアクセスするためのパスを構築します。このパスによってアクセスできるのは、相手の身体情報の一部なのですが、身体(そして身体情報)がホログラフィックな構造をしているとすると、どんな一部も全体と同等の情報を含んでいることになるので、ポーズ・ロックによって構築されたパスを通じて、実は私たちは、相手の身体情報すべてにアクセスしていることになるのです。
 この、人体をバイオ・ホログラフィックな構造としてとらえ、そこにアクセスする手段を持ったことが、CBSという診断・治療システムの根幹を成すものなのです。