CBSによる治療像

 CBSでは正規医学の解剖・生理・病理を基礎とし、カイロプラクティック、オステオパシー、鍼灸、軟部組織モビリゼーション、クラニオセイクラルセラピー(頭蓋仙骨療法)、筋膜の解放、食事・栄養療法、ライフスタイルの指導、ホメオパシー、薬草療法、アロマテラピー、筋スラッキング療法、電気治療、超音波療法、光線療法、サイマティクスセラピー(音響波動療法)、クライオセラピー(冷却療法)、運動療法、キネシオテーピング、カウンセリングなどにより構成されています。しかし、これらすべての治療法をマスターしていなければならないわけではありません。

 治療をカード・ゲームに例えるのは、いささか不謹慎かもしれませんが、ここではわかりやすい例として用います。

 それぞれの治療家の持つ治療法は、治療という行為を行うに当たって使いうるカードと見ることができます。たくさんの治療法が使えるということは、たくさんのカードを持っているということです。

 一般に、自分自身の持つカードの枚数が多ければ、ゲームを有利に展開することができます。しかし、多くのカードを持つ人が必ずしも勝者となれるわけではありません。多くのカードを持つ人は多いなりの、少ないカードしか持たない人は少ないなりの戦い方があるということです。重要なことは、手持ちのカードを闇雲に増やすことではなく(もちろん、持ち札を増やす努力は大切ですが)、自分が今持っているカードをいかに戦略的に使うかということであり、CBSの提供する治療スタイルもそこにあります。

 あなたが3枚のカード(治療法)を持っているとしましょう。目の前にいる患者に、この3枚のカードをどのように組み合わせて用いるべきか−−それを、勘や経験によるのではなく、システマティックに導く方法があったとしたらどうでしょうか。高価な機材? いりません。必要なのは、あなたの身体だけ。使うツールは、ポーズ・ロックモードそして筋肉反応テストです。

 ポーズ・ロック(Pose Lock)とは、治療者(場合によっては患者自身)の関節受容器を使って、患者の身体情報(の一部)にアクセスするためのパスを構築する手法です。治療者は、痛み、筋肉の弱化、不快感、心理的な抑鬱など、患者の持つさまざまな身体情報へのアクセス・パスを、ポーズ・ロックによって構築することができます。また、スタックという手法を組み合わせれば、複数の症状に対する身体情報へのアクセス・パスを作ったり、一つの症状を出現させている複数の身体情報に対するアクセス・パスを作ることもできます。
 CBSの治療は、このパスを通じて患者の身体情報に働きかけることによって行われるのです。

 C言語をご存知の方なら、ポーズ・ロックとは、「患者の身体情報が格納された構造体の必要な部分にポインタを設定すること」と考えれば、イメージしやすいでしょう。
 なお、ポーズ・ロックによって患者の身体情報(の一部)が治療者にコピーされる、という説明がなされることがありますが、これは誤りです。もしコピーされるのであれば、コピーしたものにいかに書き込みや訂正をしても原本はそのままであるように、コピーされた患者の身体情報にいかに治療を施しても、患者自身の身体(つまり原本)に変化は起こらないからです。

 パーム・モード モード(Mode)とは、具体的には手と指で作るサインのようなもので、両手で作るパーム・モード(写真はその一例)と、片手で作るフィンガー・モードとがあります。何やら怪しげな「印」を結んでいるようにも見えますが、モード(サイン)の一つひとつが、ある治療法に対応しているのです。例えば、写真のモードは「頚椎の矯正」を表しています。 つまり、モード全体が治療法のリストなのです。そして、このモードという治療法のリストの中から、どの治療法がより適しているのかを患者の身体に問いかけていくのです。
 またモードには、治療法に対応するモードの他にオプションとして、ある障害に対して追加の治療が必要かどうかを調べるモード(モア・モード)や、刺激を与える回数や時間を調べるモード(タイム・モード)などが用意されています。

 筋肉反応テスト(Muscle Response Test; MRT)は、広く使われている筋力テスト(筋肉テスト)の変形版です。筋力テストがしばしばフル・パワーで行われるのに対して、筋肉反応テストは、ほとんど触れているだけのような、ごく弱い力で、筋力の変化を見るテストです。主に患者の三角筋(写真)やハムストを使いますが、治療者自身の筋肉を使ったセルフ・テストによって行うこともあります。三角筋による筋肉反応テスト
 筋肉反応テストはしばしば、アプライド・キネシオロジー(Applied Kinesiology; AK)の中のセラピー・ローカライゼーション(Therapy Localization; TL)とともに用いられます。TLとは、障害のある部位や治療すべきポイントに触れると、筋力の強弱が変化するという現象です。この筋力の変化を、筋肉反応テストによってモニターしていくのです。
 筋肉反応テストはTLだけでなく、患者へのさまざまな問いかけ(必ずしも、声に出して質問するということではありません)にも用いることができます。筋力は強い(これをロックと言います)か弱い(これをアンロックと言います)か、二つの状態しかないので、問いかけはYES/NOで答えられるものに限られますが、モードと組み合わせることで、障害に対してより適した治療法を選択することができます。

 CBSの治療(施術)の基本的な組み立ては、

1.ポーズ・ロックにより、患者の身体情報へのアクセス・パスを作る。ここで作られるパスの先にあるのは、患者の病んだ部分の身体情報です。
2.パスを開き、患者の身体情報にアクセスする。
3.患者の病んだ部分を良い状態に変えることができる、と考えられる治療法に対応するモードを作る。
4.作ったモード(=治療法)が患者の身体情報に適合するかどうかを、筋肉反応テストによって調べ、最適な治療法を選択する。

というものです。言い換えれば

 ポーズ・ロックしたパスを開いて患者の身体情報を参照しながら、治療法一つひとつに対応するモードを作り、それが対象となる障害の治療に適合するかどうかを筋肉反応テストを使って問いかけ、YES/NOの回答を得る。

ということです。

 治療法に対応するモードは全部で百数十個ありますが、これらをすべてチェックする必要はありません。チェックするのは、あなたの使える治療法に対応したものだけでいいのです。あとは、患者の体が「どの治療法を」「どんな順番で」「どれだけの刺激量で」使えばいいかを教えてくれます。そしてこれが、あなたの手持ちのカード(治療法)の最適な組み合わせをシステマティックに導き出す方法なのです。

 だとしても相当な時間がかかるんじゃないか? こんなこと臨床じゃやってられないよ・・・

 そんなことはありません。私たちが1項目当たりのチェックに費やす時間は1秒前後です。実際、一回の治療で延べ百数十項目のチェックは普通で、多い時にはチェック項目は延べ数百にも及ぶのですから。もちろん、上に述べた手順が自然にできるようになるためには、ある程度の練習が必要であることは言うまでもありませんが。

 なお、以上はあくまでCBS全体の中の、施術の基本的な形について簡略化して述べたものであり、一部、厳密な意味での正確さを欠いた部分があります。また、治療に先立ち、医療面接(問診)、そして整形外科テスト・視診・触診など各種検査は当然、実施しておかなければならないことを、蛇足ながら申し添えます。