ナルシェ行軍
2005/10/21
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Command to the Empire Force in particular. Commence to launch the attack on Narche, the coal mines city. 帝国軍特別指令 炭鉱都市「ナルシェ」への侵攻作戦開始 魔大戦の記憶など、とうに失くしてしまった人間達が犯す過ちの始まりにして、終焉へ向けた死の行進。あるいは、神々の呪縛からこの世界が解放されるための戦の始まりか。 どちらにしても、その記念すべき第一歩を踏み出そうとする三人の者達が、雪原に立つ。魔導アーマーに搭乗した彼らの前には、延々と広がる白い大地の先に小さく揺れる灯火が見えた――炭鉱都市・ナルシェの灯りだ。 大地を埋め尽くす屍。どす黒く濁ったその色は、生命の持つ本来の輝きを覆い隠し人々に恐怖と絶望をもたらす色。 空から降り注ぐ粉雪が、大地を真っ白に染め上げる。長い時間をかけてゆっくりと、その陰惨な光景を白一色に変えていく。目映いほどの白に埋め尽くされてしまえば、その後にはまるで何事もなかったかの様に静寂が訪れる。その色は人々に忘却とかりそめの平穏をもたらす色。 空を見上げれば、どんよりと灰色の雲が広がっている。地上に差し込もうとする光を遮り、空を支配する色。それは見えない未来への不安を煽り人々を混乱へ導く色。 灰色の雲の隙間から、遠くに雷光が見えた。降りしきる雪に飲み込まれ、音は届かない。 炭鉱都市・ナルシェ。 そこは忘却と繁栄に彩られた都市。
ナルシェの大地に積もった雪がごとく、1000年という時間は人々の記憶の上に降り積もり、あの大きな惨劇を覆い隠してしまったのだ。 人々が忘却と引き替えに得たのは、繁栄。 裏返せば、忘却の上に成り立つのが繁栄。 だから忘れることが罪なのではない。
「あの都市か?」 装備したゴーグルとマスクをはずして、魔導アーマーに搭乗している男の一人が問う。足元は覆われているものの、上半身は直接外気に晒されているため、吐き出した言葉が一瞬にして白く凍り付く。 「魔大戦で氷づけになった1000年前の幻獣か……」 問われた方の男が答える。あくまでも任務遂行上、必要な知識としてしか知らされていない言葉を口にしながら。今、自分たちが触れようとしているものの正体を、このときの彼らが知る由もない。 そして自分たちがやろうとしている事の意味もまた、彼らが知ることはなかったのだった。 「またガセじゃねえのか?」 そう言って男は鼻で笑うと、瞬く間に白い息が広がる。「こんなの別になんでもない、いつもの任務だ。そんなに力むなよ」と、長年チームを組んできた相棒に向けて助言してやった。 その言葉に男は素直に頷いた。 「……だが、あれの使用許可が出るくらいだ。かなり、たしかな情報だろう」 言いながら足元のペダルを踏み込み、アーマーごと方向転換して後ろにいた“少女”と正面から向き合った。 「生まれながらに魔導の力を持つ娘か……。魔導アーマーに乗った兵士50人を、たった3分で倒したとか。……恐ろしい」 しかし男が“少女”に向ける視線は人間に向けられるそれとは明らかに違う色を帯びていた。巨大な力への恐れ、殺戮を繰り返すだけの存在に対する侮蔑――戦地に立てば、一瞬でかき消えてしまうほどの小さな感情だったが、自分たちが搭乗する魔導アーマーに向けるそれと似ている。 隠せないほどの不安が男の表情を曇らせた。顔面を覆う装備を外してはいなかったが、そこは長年チームを組んで来た経験で表情など見なくても分かるのだ。不安がる相棒に、男は豪快に一笑したあとで言い放った。 「大丈夫。頭のかざりの力で思考は止まっているはずだ。俺達の命令で思い通りに動く」 自分たちにとって目の前に存在する“少女”は、ヒトの形をした兵器に過ぎない。男はそんな風に言い切って、不安の色を浮かべる相棒に笑いかけたのだった。 そうして、彼は外していた装備を装着し直すと、腕を振り上げた。 「東からまわりこむ。行くぞ!」 静寂に沈む雪原に、魔導アーマーの稼働音が響き渡った。 三体の魔導アーマーが目指すのは、炭鉱都市ナルシェ。 二度と還れなくなるとも知らず、男達は軍部の命に従い任務へと赴く。 一世一代の戦いの場へと、死の行軍を続ける。彼らの歩みを止められる者は、誰もいない。 <終> # FF6オープニングの文章化その1。 # [その2:ナルシェ進軍][その3:ナルシェ懸軍][その4:はじめてのたたかい] # ティナのテーマを背景に、雪原を進む3体の魔導アーマーは今見ても感動します。 # ちなみに冒頭の英文は、PS版FF6のムービーから引用。 |
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