index     2017年9月30日更新  

筒井百々子  たんぽぽクレーター

20年ほど前、小学館プチフラワー誌にて連載された、近未来の月面の医療都市を舞台にしたSF漫画です。


このページは作品のストーリーの一部ネタバレになります。
読みやすいよう一部セリフの順を変えてます。
ストーリーも前半の一部分だけで、かなり割愛してます。


現在、この本を含め筒井百々子さんの本は全て絶版で、復刊ドットコムにて復刊に向けての投票が行われています。

たんぽぽクレーターに来れば、どんな子どもでも元気になれるよ

これからどれだけ月面に街や港が建てられて、月長靴の足跡がふえても

地球のおとなたちは子ども部屋でわが子を寝かしつけながら

きっとこう言うんだ

「月の光の不思議な力は決してなくならない------」

ジョイス・C・マクローフリン (1989〜2008)

■ たんぽぽクレーター

2002年発足

地球の国際企業10社の協力によって全て民間レベルで運営される月面総合医療都市。

近年(2007年頃)になってWHO(世界保健機関)とユニセフの援助を受け、大規模な小児センターを増設中。

4つのドームでできていて

第1ドーム「若草村」  外来専用で一般にも開放

第2ドーム「のばら村」  小児外科をはじめ 神経 血液、免疫などの多くのクリニック

第3ドーム「ブルーベリー村」 難病専門の研究所、放射線医学センター

第4ドーム「さんざし村」 免疫に障害がある子供でものびのびと生活できる無菌ドーム

■ 2007年の初夏 アメリカ オハイオ


双子の兄弟ダグとレミィは、父親の許しをもらって丘でキャンプ。
楽しい夏が続くと思っていたのだが・・・


原子炉を搭載した軍事衛星が落下し、丘の上にいたダグが被爆してしまう。
軍事衛星のため情報も無く、被爆量も多く医師も有効な治療ができない。
父親の悲痛な叫びはどこの機関にもとどかない。

ある日、一人の医師がたずねてくる。
月面の医療施設「たんぽぽクレーター」のマックギルベリー院長

「助かるかもしれない方法がある。
医師の間ではタブーとされてるが・・・、外惑星探索に使うコールドスリープの予備機がたんぽぽクレーターにあり、治療方法が見つかるまで眠って待つことができる。」

■ 2007年の秋 月面 たんぽぽクレーター


ジョイ (ジョイス・C・マクローフリン)は医師を志す学生
飛び級で15歳で大学の医師過程を終え、たんぽぽクレーターでインターン実習中。
医師免許が取得できたら、地球の貧民地域で医療ボランティアをするのが目標。


ジョイは電子工学、コンピューターにも詳しく、ジャンクパーツで作ったコンピューター『ハーゾク監督』を使って地球の通信、放送電波を受信して、月面でミニFM局「たんぽぽクレーター海賊放送」を放送している。


ある日、地球からの定期便、通信が途絶える。

各国が軍事衛星の高出力レーザー兵器の実験を実施。
その影響で、地球磁気圏が異常収縮し地球環境が激変。
地球が擬似氷河期になってしまった。

ニューヨーク パリ ロンドン主要都市でも氷点下数十度になり、地球は壊滅的状況になってしまう。

ダグが被爆した衛星の墜落も実験で撃ち落されたものだった。



月面の都市も混乱し暴動が発生。
施設が破壊され、患者の子供たちと医師はなんとか地下シェルターに逃れる。


そんな混乱状況の中、ジョイは院長の部屋の地下室でコールドスリープで眠るダグを見つける。
コールドスリープの装置は、独立した専用の高性能な原子力電池を使っている。


施設の状況はさらに悪化し、たんぽぽクレーターを維持していた原子炉を止める。
月面で原子力発電の電力供給が止まることは死に直結する。
たんぽぽクレーターはSOSを発信。


院長(Dr.Mcgilberry)は、電力を病院に回すためダグの装置の原子力電池のセキュリティシステムを外すようジョイに指示。

ダグの装置から原子力電池を外せばダグは死んでしまう。
病院への電力供給が止まれば病院の全員が死んでしまう。

ジョイは拒否し、今ある設備を応急修理してなんとかすると答える。

猶予は4時間。


小型の発電機、バッテリーをかき集め懸命に作業するジョイ。 
焦る。 ショートする配線。 間に合わない。
病院内の温度か急激に低下していく。


期限の時間が来る。 間に合わなかった。


原子炉の技術者も到着し、セキュリティシステムを外すよう院長が指示。


ジョイは答える・・・泣きながら。

「デバッグプログラムにバグをわざと入りこませ、エラーを連鎖的に発生させ、セキュリティシステムを黙らせることができる・・・」


そう告げた直後、事態が好転する。
月の裏側の発電衛星から、リレー衛星の長距離の中継でマイクロウェーブによる送電が行われたのだ。


悔やむジョイ。
ダグを殺そうとした...。

夢でもうなされる。
ダグをコールドスリープの装置から引きずり出して殺そうとする夢を見る。



ある日

ジョイは廃棄物置き場に散乱した太陽電池パネルを見つける。
昔、月面開拓時代に使われていた太陽光発電用車両が廃棄されていた。

その日以来、ジョイは散乱した太陽電池パネルを拾い集め、こつこつと太陽光発電車両を修理していく。


太陽光発電車両のコントロール装置として『ハーゾク監督』を取り付ける。
太陽電池パネルを1つ1つ繋ぎ合わせていくジョイ。

「これがあれば、あんな思いはもうしなくてもいい。」



ある日、ジョイが体力の低下を感じる。
そして倒れる。


院長が診察すると、体中に紫斑ができている。
原因がわからない。


技術者がガイガーカウンターの異常な数値に気づく。
廃棄物置き場に危険レベルの放射性物質が不法投棄されていた
ジョイは放射性物質があるのを知らずに太陽電池パネルを拾い集め、多量に被爆してしまった。




技術者が太陽光発電車両が使えるようになったと、ジョイの治療をしているデイバイン医師に告げる。

あまりに良い出来だったので、放射性物質を危険レベル以下に洗い落とした。


その大きさに驚く デイバイン医師
「こんな大きなものを作っていたのか!」


あわてて作ったためか、放送用の録音装置がついたままの『ハーゾク監督』にデイバイン医師は気づく。
ハーゾク監督の録音装置を再生してみる。
とぎれとぎれに再生されるジョイの声。


「..なり....たかった....。」

再度試す。

「......たの。」

再度試す。

「ほんとうは......。」

「....はね。」

「デイバイン先生...いえなかった」

「そんなことな...い」

「ダグは...助かる.....」

「死んじゃ...いけない」

「春から... 夏へ...。」

「月光に.....なりたかった...。」

「地球へ...帰りたい」

「なり...たかった...も...の...は」



「ぼくのなりたかったものは月光なんだ

ぼく、ほんとうに月光になりたかった

いつの日か

小さな者の

苦しみを癒す

月の光になって

地球へ還りたいって願ったんだ」


続く

2000年7月7日ページ作成