坂井泉水さんの「本当の死因」


『夕刊フジ』の記事より。

【27日に脳挫傷で急逝した人気音楽ユニット「ZARD」のボーカル、坂井泉水さん(享年40、本名・蒲池幸子)の死因にさまざまな憶測が飛び交っている。ある音楽関係者は「身辺整理をしていなかった。詞を書くなど、復帰に前向きだった」と自殺説を完全否定するが、入院先の病院関係者は「自殺しかあり得ない。病院側の管理責任が問われる」と明かす。滅多に表舞台へ姿を見せず、謎の多かった孤高のシンガーの最期は深い闇に包まれている。

 自殺と事故の両面で調べを進める警視庁によると、坂井さんは26日午前5時40分ごろ、東京・信濃町の慶応大学病院の駐車場で、頭から血を流してあおむけで倒れているところを通行人に発見された。坂井さんは病棟脇にある非常用スロープ(高さ約3メートル)から転落したとみられている。
 慶大病院の関係者は次のように明かす。

 「患者があれほどの早朝に、非常通路に出入りすることはない。しかも、雨が降る早朝に散歩することも不自然だ。自らの意思で乗り越えたとしか思えない。状況から考えて自殺ではないのか。病院関係者の多くがそうみている」

 坂井さんは現場となったスロープのある病棟の4階に入院していたが、病棟からスロープへは施錠してあるため、直接出入りはできないという。

 この関係者は続けて、「患者に自殺を許してしまった病院側に管理責任問題が問われる可能性もある」とも話す。

 警視庁の発表によれば、坂井さんが手すりを乗り越えた痕跡が見つかっており、「足を滑らせた」と発表した事務所側のコメントと大きく矛盾している。

 一方、音楽関係者は「遺書もなかったし、病室が整理された様子もまったくない。病室では詞を書き留めたり、秋ごろをめどに、ツアーやアルバム製作を予定するなど、復帰にはとても意欲的でした」と真っ向から自殺説を否定する。

 坂井さんは発見時、私服で病室のベッドにはパジャマが脱ぎ捨てられていた。さらに、坂井さんはファンクラブの最新の会報にも「体調は思わしくないが、頑張っている」と前向きなメッセージを寄せていたといい、生前、自殺の兆候がなかったことを物語る。

 乗り越えたとされる手すりは1階部分で、警視庁では「自殺で3メートルの高さは低すぎる」と漏らす捜査関係者もいる。坂井さんが手すりに腰掛け、誤って転落した可能性も含めて調べているが、目撃者もなく、死因の断定には時間がかかりそうだ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 まあ、これは『夕刊フジ』の記事ですし「慶大病院の関係者」っていうのが本当に実在するのかも、かなり怪しい記事ではあるのですが、ネット上の巨大掲示板などでも「坂井さんは自殺か事故死か?」ということについて、かなり議論がなされているようです。

 正直、僕はこれが「事故死」だとは考えにくいと思いますし、「現場の写真」を見ると、ここから誤って落ちるというのは、ちょっと考えにくいのではないかという気がします。でも、もし坂井さんが自分で飛び降りたとして、それは「自殺」なのでしょうか? 

 報道によると、坂井さんは子宮頸がんで手術を行われたあと、しばらくして肺に転移が見つかり、抗がん剤での治療を受けていたそうです。子宮を摘出するような大きな手術をしたあとの肺への転移というのは、病状としては「かなり厳しい」と考えざるをえないでしょう。がんの組織型によって抗がん剤の効きやすさというのは異なるのですが、少なくとも、その状況での抗がん剤での治療は「根治」の可能性はかなり低かったのではないかと思います。おそらくそれは、坂井さんにも知らされていたはずです。そして、まだ40歳という坂井さんの若さを考えると「対症療法(病気そのものを治療するのではなく、麻薬などを使って、痛みや苦しみを緩和すること)で、なるべく安らかな死を迎える」ことよりも、「可能性は低くても、強い抗がん剤を使って、がんを根治で切る可能性に賭けた」のではないかと僕は想像しています。その選択は、妥当なものだと医者としての僕は考えますが、坂井さんは癌そのものの症状だけでなく、抗がん剤の副作用などでも苦しめられていたのかもしれません。今回の坂井さんの死が「自殺」だったのか「事故」だったのか、本当のところはわからないのですが、坂井さんのご家族や担当医にとっては、「抗がん剤の治療ではなく、緩和ケアをしてあげていればよかったのではないだろうか……」という後悔の念は残ったと思います。治療を希望されたのは坂井さん自身だったとしても。

 そして、坂井さんの死に関して「病院の管理体制が……」などという「責任問題」になってしまうのは、ちょっと違うのではないかという気がするんですよね。「患者さんが自殺(あるいは事故死)してしまう可能性があるから」ということで、閉鎖病棟に閉じ込めたり、常に監視するというのは不可能ですし。

 ギリギリまでがんと闘ってきた坂井さんの「最後の死因」が事故死だったか自殺だったか、というのは、そんなに意味があることなのでしょうか? がんに、しかも肺への転移もみられ厳しい状態の癌の「苦しさから逃れるために自殺してしまった」からといって「弱い人間」だってことにはならないだろうし、むしろ、ここまで頑張ってこられたことのほうが、すごいことじゃないかと、僕は思うのですよ。医療側としては「あってはならないこと」ではあるのですが。戦場で重傷を負って、手の施しようがなくなってしまった兵士が苦痛から逃れるために自分に銃を向けても、それは「自殺」とは言い難いのではないでしょうか。いや、もちろん僕にも「本当の病状」も「真相」もわからないのだけれど、他殺の可能性や医療事故・ミスなどの可能性が無いのであれば、実質的には「病死」だと考えるべきではないかなあ。