2世議員、2世医師


2世議員というのが、どうしてこんなに出てくるんだろうか?
僕は世襲の多さでは政治家と双璧といわれる医学界に棲んでいるので、なんとなく解るような気がする。
医者の世界では、とくに親が病院を持っている場合、借金を抱えていたり、病院の後継者の問題などもあって、親は子供を医者にしたがることが多いようだ。
ある程度大きな病院になると、その地域の人々や従業員の生活を支えているわけだから、おいそれと潰してしまうわけにはいかないだろうし。
 
親が医者で自分も医者になった、というの医者たちは、大きく分けて2つのタイプに分かれると考えられる。
ひとつは、何の疑問も持たずに、「自分は親の後を継ぐのが当然だ」と思っているタイプ(もちろん、多少の葛藤はある人のほうが多い)
もうひとつは、医者に積極的になりたいわけではなかったが、職業選択の際に、なんとなく医者になってしまった人。
後者は、まさに消極的選択のようだが、こういう人はけっこう多いのではないかと思う。
否応無しに跡継ぎにさせられる場合もあるのだろうけれど、医者の子供として生きていると、当然他の世界に対する知識は疎くなる。
そんな中で、子供の選択肢は、まず2つに分かれる。
「医者になるか、ならないか」だ。
実は、現在の世の中では、医者の子供が医者にならない、というのは、なかなか面倒なことなのだ。
というか、それには積極的な理由が必要になってしまう。
例えば、「どうしても絵の勉強がしたくて」とか「法律に興味があって」とか。
でもないと、「なんで後を継がないの?」とか言われてしまう。
 
逆に、医者になれば、みんなは当然のような顔をしてくれる。
「どうして医者の子供なのに、医者になんかなるんだ?」なんて、誰も聞きはしない。
要するに、身近にある選択肢で、しかも悪い仕事じゃないし…
ということになれば、やっぱり医者の子が医者になってしまう率が高いのは、仕方がないような気もする。
逆に、医療関係以外から医者になろうとすると、けっこう敷居が高いような印象を持たれるようだ。
「お金がかかる」とか「仕事がたいへん」だとか。
でも、仕事はたいへんだけど、どの世界に入っても専門職なんていうのは修行はたいへんに決まっている。
お金も、国立に入れれば他の理系の学部と一緒だし(参考書代とかは異様にかかるが、元はとれる(と信じたい))、私
立だって奨学金がもらえたり、授業料を減免してくれるケースは珍しくない。
 
そもそも、100人に1人の人が就く仕事なのだから、プロ野球選手になるよりは遥かに簡単だ。ドラフト7位とかいってバカにするけど、あの選手たちのほうが、よほど「選ばれた者」なわけで。
 
かくして、「医者の子供は医者」というような風潮が、2世医師を再生産していくわけなのだが、政治家の場合はどうだろうか?
 
やっぱり、周りから「後継者」としての期待をかけられていくうちに、「消極的選択」なんていう感じで、政治の世界に飛び込んでいくのかなあ。
 
今回、民主党の菅直人代表の息子が、衆議院選挙に出馬したわけだが、僕はなんだか不思議で仕方がない。
彼は、「菅直人の息子です」と声高に叫んでいるらしいが、30歳くらいの男が、親の名前で勝負するのは、ちょっとみっともない。
僕なんか、申し訳ないことに、30過ぎてようやく父親というものを「まあ、あの人も人間だった、ってことだよな」と受容できるようになれたくらいなのに(父は故人です。ちなみに)。
 
まあ、長男・源太郎氏は、波乱万丈の生涯を送ってきたみたいだが、彼の引きこもり体験や活動家としてのキャリアのどこが「政治家にふさわしい」のか、僕にはさっぱり見当がつかないのだが。
「引きこもりにも優しい社会」は結構だけど、「引きこもりに優しい社会」なんて、なんだかおかしくないかい?
就職活動みたいな気持ちで出ているのかもしれないけど、ちょっと勘弁してもらいたいなあ、と思う。
 
いわゆる「2世議員」「2世医師」に対する、世間の風当たりは強い。
その一方で、世間ってやつは、「医者の子供のくせに、医者にならなかった(なれなかった)」なんて噂話が大好きなのだ。
たぶん、議員もそうなのだと思う。
 
実は、僕の親も医者だったのだが、「後を継がなくてもいいよ」と言いながら、事あるごとに医者にしたがっていたのが、子供である僕には手にとるようにわかっていた。
「親の世間体のために、子供を医者にしようとしているのではないか?」と反抗したこともある。
でも、僕は今、この仕事を選んだことに後悔してはいないけれど。
それは、親が正しかったとか、そういうことではなくて。
 
だから、僕は2世議員が悪いとは思わない。
ただね、医者は誰の2世でも、ちゃんとトレーニングしなければライセンスはもらえないんだけど、政治家は、本当にどうしようもない人でもなれちゃうみたいだからね。
それはもう、選ぶ側の良心、というわけなんでしょうけど。
 
「2世批判」なんて実は、おかしいことなのだ。
もちろん、2世だからといって、賞賛される筋合いもない。
医師免許だって世襲じゃないし、国会議員の椅子だって世襲じゃないはず。
 
問題は、2世とかじゃなくて、本人自身の資質と研鑽だと思うんですけどね。
不適格だと思うなら、落選させてしまえばいいわけですし。
 
しかし、「親が(どこにでもいるような)医者」というだけで、僕は僕なりに、さんざん心に傷を負ってきたわけだから(成績が良かったら「お父さんはお医者さんだからねえ」で片付けられる屈辱って、体験したことがなければわからないと思う。遺伝子が勝手に答案用紙を埋めてくれるわけないじゃないか)、「お父さんは菅直人なのにねえ」とか言われて生きてきた彼は、けっこうかわいそうだなあ、とは思います。
国会議員としての資質は別として。