ある看護師さんの「キツイ病院で働くほうがラクな場合もある」という話


 前の病院で一緒に働いていた看護師さんが、僕が今働いている田舎の基幹病院にやってきたのです。彼女は前の病院でも評判が非常に良い人だったのですが、「仕事ばかりで家のことが全くできず、自分の時間もないので、ちょっとのんびりできる環境で働きたい」ということで、前の病院を辞めて、近所の外来のみの昔からある小さな医院に移っていったのです。

 僕はその経緯を聞いていましたから、「なんでこんなハードな病院に、また移ってきたの?」と疑問だったのですが、先日、本人からこんな話を聞きました。

「仕事はほとんど定時に終わるみたいだし、こんな小さな医院みたいなところだったら、今までみたいに時間に追われることもないので、もっと患者さんと身近に接することができるんじゃないかな、と思っていたんですけど……

 実際は、仕事そのものは、内容も体力的にも前の病院よりラクではあったんですよ。救急車も来ないですし。でも、本当に『キツイところ』は、本来の仕事とは別のところだったんです。

 その医院、かなり歴史が長くて、周りはずっとその病院でしか働いたことがないベテランの看護師さんたちばかりなんです。私(30代半ばくらい)がいちばん若くて「新入り」で。それで、とにかく周りの看護師さんたちが厳しいんですよ……それも、看護師としての仕事以外のところに。例えば医院の掃除をするのも看護師の仕事なんですけど、「掃除をする順番が、ここのやり方じゃない!」とか、ほんの少しの埃を見つけては「だから新入りはなってない!」とか、患者さんがいないときは、みんなで一日中地元の人の噂話ばっかりしてたりとか……私も「新入りのくせに生意気だ」とか、ずいぶん陰でひどいこと言われてたみたいで……あの人たちは全然自分では動かないのに、とにかく「昔からここにいる」というだけで威張ってるし。

 仕事そのものは全然キツくはなかったんですけど、そんな人たちのせま〜い世界に囲まれていたら、なんだか精神的に参ってしまって、結局また、体力的にはキツくても、空気があんなに澱んでいない大きな病院でまた働くことにしたんです。こういう大きな病院のほうが、仕事さえキチンとしていれば、精神的なストレスを感じることが少ないみたいなので……」

 まさに「女の敵は女」というような話ではあるのですが、こういう話を聞くと、「田舎のクリニックでのんびり働く」なんていうのは、多くの場合「幻想」なのではないかと思えてきます。こういう「濃厚な人間関係」にう0まく適応し、看護師さんたちを「使って」いかなければ病院経営なんてできないのですから。

 こういうのがまさに「田舎という病」なのかもしれませんけど、「キツイ病院で働くほうがラクな場合もある」というのは、僕にとってはものすごく考えさせられる話でした。

 医者だって、キツイ救急病院で働いていると、「とりあえず仕事さえある程度やっていれば、(犯罪でもやらないかぎり)プライベートはいちいち詮索しない」という暗黙の諒解があるのですが、開業医ともなると、医療だけじゃなくて経営とか周囲の人との付き合いなんていうのも大事みたいですしね。