「若手外科医の労働実態」は、まだまだ「本当の実態」より甘い…
毎日新聞の記事より。
【4人に1人が月10回以上、所属病院で当直勤務、6人に1人が週50時間以上の超過勤務など、研修医を中心とした胸部外科の若手医師の過酷な労働実態が、心臓外科医や呼吸器外科医らが所属する日本胸部外科学会の調べで分かった。同学会は「若手外科医の処遇改善は不可欠」として今後、具体的な対応策を検討する。】
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こういう労働実態は、別に胸部外科に限らないわけですが、総じて外科系の研修医は、いわゆる内科系やマイナー系(眼科、精神科など、内・外科以外の科)よりも病院での拘束時間が長いようです。
しかし、正直なところ、僕の実感としては「この統計は、まだまだ甘い!」という感じなのですが。
僕の知っている外科の若手の先生たちは、「一週間ぶりに家に帰った」とかいう人がザラでしたし。
外科系の研修医は、手術日は、日中(から場合によっては深夜まで)手術、それ以外の日も毎日の傷口の消毒や包帯交換、そして病棟の受け持ち患者さんの診療など、本当に毎日働き詰めで、肉体的にも精神的にもキツイのです。
もちろん、他の科はラクだというわけではないのですが、手術のある科というのは大変。
マンガやドラマなどでは、手術が終わった医師は「フーッ」とか言いながら手術室から出てきてタバコを吸ったり夜の街に繰り出したりするのですが、現実はそうはいきません。手術が終わった後は、「術後管理」という大事な仕事が待っているのです。
手術というのは、必要に迫られて行われるわけですが、やはり手術直後の人間は大きなダメージを受けている状態なのです。とくに大きな手術となると、手術直後の尿量や輸液量などで、ちょっとした体のバランスが崩れただけでも、急変が起こる場合もあります。
その患者さんの状態を泊り込みでチェックするのは、大学病院などの大きな病院では、だいたい研修医の仕事になるのです。
もちろん、対応できない場合にはすぐに上司が呼ばれたり、場合によっては上の先生とみんなで病院に宿泊、ということもあります。
そして、手術後の手術記録の記載なども研修医の仕事となるわけで、確かに「大変だろうなあ」と同じ医者の立場でありながら、僕も感じるのです。いや、各科それぞれ大変なところはあるんだけどさ。
たぶん、この統計は「当直医」として正式に記録されている分だけで、「当直医じゃないけど、手術後の患者さんの状態をみるために結局病院に泊まった」なんていうのは、除外されている可能性が高いと思います。
泊まらない日でも、毎日夜遅くまで働いているわけで。
基本的に、この統計は「まだ甘い」と僕は思うんですけどねえ。まあ、研修医でも大学やハードな病院以外で働いている人は、そうでもないのかもしれないけど。
「どのくらいの規模の手術をする病院か?」によって、だいぶ違うみたいだし。
「心臓のバイパス手術」と「痔の手術」では、術後管理のレベルも異なりますから。
実際、いろいろなところで「外科離れ」の話は耳にします。
確かに、「肉体的にキツそう…」というのは、学生が自分が専門とする科を選ぶ際に、あまり良いイメージではないですよね。それがカッコいい、のは確かなのだけれど、一生の仕事として選ぶには覚悟が必要。
「収入もそんなに変わらないのなら、自分の時間が持てるところに行きたい」と考えることは、ある意味当然なわけで。
それに、この記事では「若手医師ばかりが酷使されている」という印象を受けますが、現実は人手不足で、忙しい病院では中堅からベテランの先生まで、かなりハードな労働環境を強いられているのです。まあ、それも病院次第なので「外科医」というカテゴリーで一括りにしてしまうこと自体が間違っているのかもしれません。「若手はキツイ」というのは、「若手は大学などのハードな職場にいる率が高い」というバイアスもかかっているでしょうし。
でも、考えようによっては、「若いうちはキツイけど、経験を積んで家族を持つようになったら、多少は余裕ができる」というほうが、筋が通っているような気がするのです。
最近よく取り上げられている「研修医の労働環境問題」ですが、研修医だけがキツイわけじゃない、というのが現場の感覚なんですよね。
家族を持つ医師には、それなりに「自分と家族の時間」も必要なはずですし、それは社会人としては、当たり前のこと。別に医者の家庭に限らないことです。
結局、個人個人の仕事に対するプライドと充実感が、彼らを支えているのです。
しかし、こんな時代じゃ、どんどん外科志望者が減っていくのもわかるような気はするのです。何かあったら、すぐ「医療ミスだろ、訴えるぞ!」だし。
このような記事が出てしまうと、さらに外科系の志望者は減っていきそうですけど…
人が減ると、さらにひとりあたりの仕事は増える…悪循環だなあ。
※外科医の実生活については、こちらやこちらのサイトが詳しいです。