医者が定期健診を受けない理由
秋田魁新報の記事より。
【医師の定期健診受診率は、看護師や事務員と比べて大幅に低いことが、秋田大学医学部(飯島俊彦学部長)と同付属病院(加藤哲夫院長)がまとめた「15年度定期健康診断実施状況調査」で分かった。全員受診が原則であるにもかかわらず、「胃部検査」など6割に満たない項目もあった。背景には、日々の忙しさに加え、健康への過信もあるとみられる。
医学部と付属病院など秋田大関係施設の受診対象者1154人を、教授、助教授、講師などの「教官」(408人)と、看護師、技師、事務の「その他」(746人)に分けて受診率を比べた。教官は解剖学や生理学など基礎系と、内科や外科などの臨床系に分かれるが、大部分は医師免許を持つ。】
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「医者の不養生」なんていうのは、本当に言い尽くされた言葉でもあるのですが、こうやって具体的な数字を出されると、けっこう身につまされます。かくいう僕も、外来で忙しいから、という理由で検査をスキップしたり(胃カメラとか造影検査を受けたら半日くらいかかりますし)、「俺、内科医だし」という理由で「内科診察」の項目を自分で「異常なし」と書いたりしてました。申し訳ない。
まあ、正直なところ、「健康への過信」というのは否定できない面があると思います。というか、「健診受けても、時間かかるわりにはメリットが…」なんて思うこともありますし。聴診にしても、「だいたい、ちょっと聴いてわかるような心音・呼吸音の異常があれば、健診の前に救急車で来てるだろ!」なんていう人もいるくらいだし、「その気になればいつでも検査できるし」なんていう油断もあるんですよね。自分の病院で自分の病気が見つかることへの恐怖心、みたいなのもありますし。
多くの医者は時間がかからなくて、あまり体にきつくもなく、客観的な情報が得られる(と自分では思っている)、血液検査は定期的に受けている場合が多いです。これは、採血の5分くらいの時間があれば検査ができ、自分で結果を評価できますし。
ただ、「医者は自分の健康を過信しているのか?」と問われたら、意外とそうでもないような気がします。日頃からハードな勤務が続いていて、食生活も不規則で運動不足にもなりがち、しかも酒の席も多い。多くの人は「あんまり自信ないんだよなあ」というのが本音なのではないでしょうか。
それでもなぜ健診を受けないのかというと、どちらかといえば「過信」というより「忙しい」「めんどくさい」「怖い」というのが主な理由だと思います。「医者だから自分は健康だと思い込んでいる」というよりは、「医者以外の職種の人は、健診を受けないと上司や会社から『指導』されたりするし、そもそも『健診を受けないで済ませる』というのが難しいにもかかわらず、医者というのは『健診を受けていないこと』に対して、そんなに責められることがないんですよね。おまけに、健診だからといって、仕事を休ませてもらえるなんてこともないわけですし。「仕事の合間をみて」っていうけど、外来に患者さんが並んでいる状態で「ちょっと自分の健診行ってくる」というわけにもいかないのです。
いろいろ言い訳してみましたが、実際のところは、「医者も人間で、自分の病気のことはなるべく考えたくないし、知るのが怖い」って面もあると僕は思います。そして、医者の場合は「健診をしなくても周りはそれをそんなに咎められない」という環境因子もあって、受診率は少なくなっているのでしょう。本質的には、「みんな義務だからイヤイヤ受けているんだけど、受けなくても許される(と思い込んでいる)から、受けない人が多い」というだけのことなのかなあ、と。
早期発見・早期治療がベストだと頭ではわかっていても「やっぱり知るのが怖い」というのは、みんな同じなのです。
「もうちょっと時間に余裕があって、健康に自信があったら受けるのになあ」なんて、本末転倒も甚だしいのだけど。
僕も年齢的に、これからはなるべくキチンと健康診断を受けようと思っています。もうちょっと受け易いシステムになってくれれば、言うことありませんが。
そのうち「医者のくせに健診も受けていない!」なんて社会的に糾弾されるようになって「未受診3兄弟」とかに入れられても困りますし。