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中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)への鍼施術  2022年3月28日Web公開版

2022年3月13日(日) 第38回 「眼科と東洋医学」研究会 ZOOM開催  千秋針灸院 春日井真理 

・解説内容については、当日参加いただいた先生方にスライドを交えて報告した内容を、広く一般の方に分かり易くお伝えするために
大幅に補足しています。当日は限られた時間のためにお伝えできなかった部分も含めて、完成版として見ていただけたら幸いです。

 中心性漿液性脈絡網膜症の視力や変視改善を明らかにした統計症例報告です。

・今回も新型コロナウイルス感染症の蔓延により、昨年に続いて『眼科と東洋医学』研究会はZOOMで開催されました。
・中心性漿液性脈絡網膜症とはストレス等が原因とされ、中高年に多く発症するもので、視力低下は一般に軽度ですが視界内に歪みや小視症を生じます。
・眼科での治療は自然回復もありますので軽症であれば経過観察、状況によりレーザーや硝子体内注射が行われますが、再発を繰り返す症例も多いです。
・中心性漿液性脈絡網膜症の患者さんへの鍼治療により、視力や変視(歪みや中心暗点等)の改善に繋がることを明らかにした統計症例報告になります。

 1ヶ月以上の鍼治療と当院で測定を継続できた38名43眼を対象としています。

対象は中心性漿液性脈絡網膜症(以下CSC)の診断を受けられ、他の関係する眼科疾患の既往(静脈閉塞症、糖尿病網膜症等)が無い症例になります。
・当院では発症から6ヶ月以上経過した慢性CSCの患者さんは3分の2を占めますが、現在の眼科では確実な治療が無く治癒は難しいのが現実です。
・今回は視力に加えて、患者さんの見え辛さに繋がる変視(視界内の歪みの強さや大きさ、小さく見える症状)の評価を行っています。

 治療の中心となる経穴は概ね同じですので、毎年同じスライドになります。

・ディスポーザブル(使い捨て鍼)を使って、うつ伏せの姿勢から頚肩部や背中、腰にかけての目に関係するツボに針治療をしていきます。
仰向けでは手足や眼の周囲に針をします。目の周囲は直径0.12~0.14ミリと特に細い針を使い、目周囲での出血等を大きく減らしています。
・8歳位の子どもさんから様々な眼の症状・病気に針治療を行っています。乳幼児は鍼よりも効果は弱まりますが、小児打鍼法で対応できます。

 視力測定は当院の液晶視力表で、患者さん持参の眼鏡等によります。

・一般に眼科で使用される視力表は指標を背面から照らしますが、指標毎に位置が変わり患者さんが指標を探すだけでも時間がかかります。
・当院の液晶視力表では指標が中心に固定されるため、指標の位置を探すことによる時間切れにより、低視力と評価される心配はありません。
・当院では視力測定は針治療の前に行いますが、治療前が最も前回からの期間が空くことにより、実際の視力を反映していることが理由です。


 変視症(歪み)の評価に用いる測定器具で、専門書にも記載されています。

M-CHARTSは30cmの距離で、点線による間隔が細かなものから荒いものを順に提示し、歪みの自覚が無くなる視角を変視量として測定します。
・鈴木式アイチェックチャートの主表2は40cm程の距離で、異常があると線が途切れたり波打つなどの変視から、変視領域や小視症を確認できます。

 視力・変視症の評価は患者さんが改善を自覚し易い基準としています。

・視力は初診時で1.0未満を対象に、LogMar0.2以上の変化もしくは正常視力(1.0以上)の達成を基準として、悪化・不変・改善に分類しています。
・変視量(歪みの強さ)は、M-CHARTSによる縦横方向の数値の和で0.4以上の変化を基準として、悪化・不変・改善・治癒に分類しています。
・変視領域(歪みの範囲)と小視症は、鈴木式アイチェックチャート主表2の自覚変化の記録から、悪化・不変・改善・治癒に分類しています。

 症例では針治療の実際から慢性CSCの変化を見ていただきました。

・発症から約1年半が経過した慢性CSCになります。慢性CSCとは6ヶ月以上に渡って繰り返し再発するもので眼科では難治とされています。
・視力は正常ですが数回再発歴があり、M-CHARTSでの歪みの強さは縦=0.6、横=0.6で弱い歪みがあり、中心暗点と小視症を伴っていました。

 各種チャートでCSCの変視(歪み)は改善していく様子が分かります。

・左から初診時、4週間後、1年10ヶ月後になります。途中、約半年後に眼科にて治癒の診断ですが、再発予防として月1回の針治療を続けました。
・初診時は中規模の中心暗点と歪みの領域や、健側に対して80%程の小視症がありましたが、4週間後には大幅に縮小して後に治癒した症例です。
・今回は比較的軽症の慢性CSCですが、視力が大きく低下する等の重症例では針治療でも時間が掛かったり、改善に留まる症例もあります。


 視力と変視(歪み)の強さの変化を、評価基準に基づきグラフ化した結果です。

・視力については初診時に1.0未満の20眼中、12眼(60.0%)はLogMar0.2以上の改善もしくは視力1.0に到達し、不変8眼(40.0%)、悪化0眼(0.0%)でした。
・変視(歪み)の強さは全30眼中、治癒が5眼(14.3%)、改善が13眼43.3%、不変は11眼(36.7%)、悪化1眼(3.3%)でした。改善以上は18眼(60.0%)になりました。
・悪化した1症例については、変視量は悪化していましたが、逆に変視領域は縮小しています。CSCは一様ではなく様々な症例があることが分かります。

 変視(歪みの範囲と小視症)の変化を、評価基準に基づきグラフ化した結果です。

・変視領域(歪みの範囲)は全26眼中、治癒が10眼(38.5%)、改善が13眼(50%)、不変は2眼(7.7%)、悪化は1眼(3.8%)。改善以上は23眼(88.5%)になりました。
・小視症については全16眼中、治癒が5眼(31.3%)、改善が7眼(43.8%)、不変は4眼(25.0%)、悪化0眼(0.0%)でした。改善以上は12眼(75.0%)になりました。
・変視領域が悪化した1症例は、6か月後では悪化していましたが後に改善しています。針治療が月1回以下と少な過ぎたことが原因と考えられます。

 針治療のCSCへの総合評価を、全体と発症後1年以内に分けた結果になります。

・CSCへの針治療による全43眼の総合的な判定は、全ての症状が消失した治癒が14眼(32.6%)、改善が21眼(48.8%)、不変6眼(14.0%)、判定不能2眼(4.7%)。
・発症後1年以内に針治療を開始した21眼に限ると、治癒が10眼(47.6%)、改善が8眼(38.1%)、不変は3眼(14.3%)となり、改善以上は18眼(85.7%)になります。
・判定不能は低視力や高齢で適切に評価できない症例です。発症から1年超の22眼は改善以上は17眼(77.3%)ですが、治癒は4眼(18.2%)と少なくなります。


 CSCは比較的早期に好転し易いですが、治療間隔や生活習慣の改善も大切です。

・CSCは週1回程の針治療で視力は1ヶ月、変視(歪み等)は数ヶ月程と早期に改善や治癒が得られる傾向があり、発症からの経過期間も重要となります。
・高齢者や低視力(矯正視力0.1程)、月1回以下の針治療では無効例がありますが、4割以上で飲酒習慣があり、飲酒量により悪化する傾向があります。
・眼科医の先生からは眼科では飲酒習慣についてはノーマークであり、日常生活への視点も大切になることに気づかされたと話していただけました。
・慢性CSCでは治癒は難しくなりますが改善する症例は多いため、レーザーや硝子体内注射を繰り返す前に針治療を検討いただくことをお勧めします。

・今回の報告に尽力いただいた竹田眞先生をはじめ、「眼科と東洋医学」研究会の眼科医の先生方、ご協力いただいた患者様、
千秋針灸院のスタッフ、支えてくれた家族や提携治療院の先生方、応援していただいた皆様に感謝いたします。


Copyright © Chiaki. All Rights Reserved 2022.3.28 

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