05/12/09

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時事通信

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【オピニオン】決着した「三位一体改革」 東京大学公共政策大学院院長 森田 朗
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 3年に及んだ「三位一体改革」の第1ラウンドは、先月末、国庫補助負担金については、生活保護費は削減対象とせず、義務教育国庫負担金等は負担率の引下げ、施設整備費は一部を削減対象に含めることによって4兆円の削減、他方、3兆円の税源移譲を行うという内容で、ようやく政治的決着をみた。

 今回の決着の仕方についていえば、地方が望まない生活保護費の負担率の削減を国側が提案し、それは認められなかったものの、他方で、地方が強く望んた補助負担金の削減は補助率の削減という形で改革の数値目標は何とか達成した。各省の側からみれば、実質的な影響力をそれほど失うことなく、補助負担金を削減したことになるし、地方にとっては、とにかく国が約束した規模の補助負担金の削減と税源移譲を獲得することができた。その意味では、双方の言い分に配慮したバランスのとれた政治的決着ともいえる。

 しかし、「三位一体」改革であるにもかかわらず、地方交付税改革は未着手であり、補助負担金、交付税、税源移譲の三つの改革がすべて行われたわけではない。補助負担金の削減と税源移譲は、これまでの分権改革の中で地方が強く求めてきた事項であり、国に対してこのような成果を上げるほど地方が戦力を身につけたこと自体は画期的なことであるが、それでは、今回の結果で果たして地方がめざしてきた分権型社会に近づくことができるかというと、それは疑わしい。

 第一に、補助率の削減による補助負担金の削減は、事務について国の関与が残る以上、地方の自律性の向上には必ずしも結びつかない。そのことは、地方分権推進委員会の時から指摘されてきたことである。第二に、税源移譲は自治体間の財政力の格差を拡大する。豊かな自治体はよいが、そうでない多数の自治体は補助負担金の削減分を、移譲された税源からの税収によって確保することは難しい。そのような自治体は不足分の補填を交付税に依存せざるをえないが、第三に、国地方ともに歳出削減が求められる厳しい財政状況の下では、交付税総額の削減も避けがたい。交付税制度自体が大きな借金を抱えているし、課題は交付税改革の議論に先送りされたといえよう。

 今回一応の決着をみたとはいっても、地方にとってみれば認められなかった要望は多い。そこで、もう一段の税源移譲をめざし、さらなる改革に踏み出すべきであるという声も聞かれる。しかし、交付税制度の改革が今後の議論の焦点になるとしても、大規模な増税が実現すればともかく、そうでないかぎり自治体間の財政力の格差を拡大する税源移譲をこれ以上進めることは難しいのではないか。

 そもそも地方分権推進委員会の最終報告で、財政面における分権推進のために、補助金削減よりもまず税源移譲に取組むべきであるという戦術が示されたとき、そこで税源移譲ということばが意味していたのは、自主的な税率決定を中心とする自主課税権の拡充、すなわち「歳入の自治」の拡大であった。しかし、今や税源移譲とは、一定税目の税収を国から地方へ移す財源移転の意味でしか使われておらず、自主課税権の移譲を求める自治体の声はほとんど聞こえてこない。

 9月11日の衆院選での自民党大勝後の小泉内閣の下で、財政再建をめざず改革が加速してきた。「民間ができることは民間に。地方ができることは地方に。」というスローガンに含意されているのは、何よりも行政のスリム化の手段としての地方分権の推進であり、これまでの分権改革がめざしてきた真に地方の自立をめざした地方分権であるかどうかは疑問である。そうだとすると、しっかりとした戦略に基づいてこれからの改革を進めないと、地方は、ささやかな自由を得る一方で、大きな負担を背負い込むことになりかねない。改革は間断なく続けるべきという考え方もあるが、戦いが一段落した今こそ、地方分権の理念の実現に結びつく改革戦略をじっくりと練り直すべきではないか。(了)(2005年12月9日)

森田 朗(もりた・あきら)氏のプロフィール

 1951年神戸市生まれ。東京大学法学部卒業後、千葉大学法経学部教授、東京大学大学院法学政治学研究科教授などを経て、現在、東京大学公共政策大学院院長。専門は行政学。地方分権改革推進会議委員会や中央教育審議会教育制度分科会地方教育行政部会臨時委員などを務め、現在、財政制度等審議会専門委員。



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