9月11日、アメリカ東部は快晴に恵まれた。何ら変わらないいつもと同じような朝だった。ニューヨークでも、ワシントンD.C.でも。
その男たちはボストン国際空港へ向けてレンタカーを走らせていた。その中には刃物の手入れに余念が無い者や、無言で精神統一しているかのような者、アラビア語で書かれた航空操縦マニュアルを確認するように読んでいる者もいた。
空港に到着すると、ロサンゼルス行きのユナイテッド航空175便とアメリカン航空11便にそれぞれ5人づつが乗り込んだ。国際線に比べ、警備の緩い国内線。刃渡り10センチまでのものなら持ち込みも可能(現在では不可)な国内線に凶器を持ち込むこともたやすいことだった。
7時45分にユナイテッド航空機が7時58分にアメリカン航空機がそれぞれ離陸。つかの間の飛行の後突然乗務員に襲いかかるアラブ系の男。機内は一気に緊迫した雰囲気に包まれた。ハイジャックだ。コックピットを占拠した犯人たちが目指した先はニューヨーク。
同じようにワシントンとニューアークから飛び立った2機の飛行機もハイジャックされ、共にワシントンに向けて進路がとられた。
世界貿易センターに激突!
米東部時間の8時45分すぎに、北の空からアメリカン航空機が現れた。その飛行機はそのまま110階建ての世界貿易センタービルの北棟第1ビルの上層部分に向けて突っ込んで大爆発を起こした。
突然の爆発に何事が起こったのかと唖然としていた通勤中のビジネスマンに観光客。この出来事に大きな事故が発生したと誰もが思った。辺りがこの出来事にざわめいて多くの人が世界貿易センタービルを注視しているその時だった。最初の爆発からわずか10分ほどが経った9時3分ごろに今度は南側の空からユナイテッド航空機が南棟第2ビルの中腹部に突入。またもや大爆発を起こした。
周りからは叫び声が起こった。
テロだ。一度ならず二度までもビルに突っ込む飛行機を見て、事故と思っていた通行人たちも考えを変えた。
機内の人々は恐怖に怯えていた。神に祈りを捧げるもの。携帯電話で家族に連絡をとり最後の"I love you"を言う者。この状況を外部に連絡しようとするもの。
だがテロ犯たちはそんな乗客の思いをよそにビルに突っ込んでいったのである。彼らにとって自爆テロはジハード(聖戦)である。死をもまったくいとわないテロ犯は突撃の瞬間に何を考えていたのだろうか。カタルシスを感じていたのだろうか。
ビルの中はパニック状態に陥っていた。何が起こったのか全く判らないが、とにかく逃げなくては。北棟に事務所を構えていた会社の社員たちはそう思って非常口を捜しだした。北棟が爆発した時に南棟でも避難が始まったが、爆発が北棟とわかると事務所に戻る人もいた。しかし、その直後に南棟も爆発。非常階段は避難する人であふれかえり、スプリンクラーが作動した床は水浸しに。高層階から非常階段を使って駆け下りるのには1時間もかかる。皆必死の思いで階段を駆け下りて行った。
後から爆発した南棟のビルが崩壊したのはビルへの突入から約1時間後の9時50分すぎ。高層階から駆け下りてきた人も灰を身体中に浴びながらなんとか避難することができた。さらに10時半ごろには北棟も崩れ落ちていった。
しかしながら、避難経路を経たれてしまった人や逃げ遅れた人も多数に上っている。高層階から飛び降りてしまった人も...。
辺り一面に広がる煙と灰、燃え盛るマンハッタンを誰もが信じられない思いで見つめていた。
2機目の衝突はテレビでも中継され、全世界の人がこの信じられない光景を目の当たりにした。テレビにくぎづけになった人も多かったのではないだろうか。
情報は錯綜し、憶測の域を出ない情報がまことしやかに流れた。11機もの飛行機が行方不明になっているといったものや、第2第3のテロが行われるなどといった情報までも流れ、我々はこの先がどうなるのか不安にかられながら事態を見つめているしかなかった。
フロリダに出向いていたブッシュ大統領は急遽声明を発表し、今回の事件がテロであると断言をし、アメリカがテロに屈することはないとアメリカ国民に対し力強く語った。
ペンタゴンまでもが炎上
ワシントンとニューアークから飛び立った2機はハイジャック後にワシントンに向かっていた。
ワシントン発のアメリカン航空機は一路ホワイトハウスを目指していた。しかし、ホワイトハウスには不審機に対する迎撃隊が常駐していることからか、犯人たちは進路をホワイトハウスの南に位置する国防総省(ペンタゴン)に変更。9時40分ごろに北西から同機は突っ込んだ。
炎上するペンタゴン。アメリカの経済の象徴であるニューヨークの世界貿易センタービルの爆破に続いて、アメリカの軍の本拠地である国防総省までもがテロリストによって破壊されてしまったのである。
アメリカ人にとってはまさにフライドをずたずたに傷つけられた出来事となってしまった。冷戦後の唯一の超大国。世界の警察を自負するアメリカの本土がこれほどまでの打撃を受けたことなど今まで一度たりともなかったのである。今回の出来事は第2のパールハーバー(真珠湾攻撃)だ! という者もいる。
一方、ニューアーク発のユナイテッド機はハイジャック犯に対し乗員や乗客たちが抵抗をみせていた。
思わぬ抵抗に思った通りに操縦することが出来ないテロ犯たち。この飛行機は結局9時50分ごろにペンシルバニア州のピッツバーグ郊外で墜落した。果たしてこの飛行機が目指していたものはどこだったのか。
一説には大統領の別荘があるキャンプデービットだったとも言われている。さらには大統領専用機であるエアフォース・ワンを狙っていたとも伝えられる。ただ言えることは、第4の悲劇を最小限に食い止めることが出来たということである。
史上最悪のテロ
今回のテロ行為での被害は死者数千人といわれている。まさに史上最悪のテロが現実のものとなったのである。
ホワイトハウスやエアフォース・ワンが標的に上がっていたことはブッシュ大統領の命をも狙っていたことになる。
今回のテロに対してブッシュ大統領は「自由が攻撃された。犯人を捕まえて処罰をする。これはテロ行為というよりも戦争行為である。」と報復をすることを強く示唆している。
まさに血で血を洗う状況である。今後どうなっていくのかは誰にもわからない。