世界の糖尿病患者数は、3億4700万人に

最新疫学研究情報No.89

英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンと米国のハーバード公衆衛生大学院が率いる国際的な共同研究チーム(*WHOの他に多数の組織を含む)により、「世界の糖尿病患者数は、1980年の1億5300万人に対し、2008年には3億4700万人にも増加していた」との報告がなされました。

研究チームは、199ヵ所の国や地域における25歳以上の男女270万人を対象に、被験者の空腹時血糖値(*空腹時血漿グルコース(FPG)の濃度)を測定し、そのデータに基づき、全世界の成人における糖尿病の罹患状況(*1980年と2008年との比較)を調査しました。(*この研究は糖尿病に関する最大規模の調査で、罹患率の推定には最新の統計手法が用いられています)

調査の結果、全世界における平均血糖値(*2008年のFPGの平均値)は、男性が5.5mmol/L、女性が5.42mmol/Lで(※1)、1980年以降、それぞれ10年当たり0.07mmol/L、0.09mmol/Lずつ増加していたことが確認されました。世界の糖尿病の罹患率は、男性が1980~2008年の30年間で18%増加(8.3%→9.8%)し、女性は23%増加(7.5%→9.2%)していたことが判明しました。全世界の糖尿病患者数は1億5300万人から3億4700万人(*上位内訳:中国・インド1億3800万人、米国・ロシア3600万人)になり、30年間で2倍以上増加していたことが明らかにされました。

国や地域別の調査(*2008年)では、平均血糖値と糖尿病の罹患率・増加率(*1980年との比較)が最も高い地域はオセアニア(太平洋諸島)で、特にマーシャル諸島では、男性の4人に1人、女性の3人に1人が糖尿病を発症していたことが判明しました。南アジア、ラテンアメリカ、カリブ諸島、中央アジア、北アフリカ、中東においても同様に、平均血糖値と糖尿病の罹患率が高かったことが確認されました。一方、平均血糖値が最も低かったのは、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国、東南アジア、アジア太平洋地域の高所得国でした。

高所得国の中で、平均血糖値と糖尿病の増加率が最も高かった地域は北米で、西欧諸国は比較的低かったことが明らかにされました。

インペリアル・カレッジ・ロンドンのMajid Ezzati教授は、「今回の研究結果は、糖尿病が世界中のほとんどすべての地域で一般的に見られる病気であることを示している。血圧やコレステロール値については多くの地域で低下しているが、糖尿病の予防や治療については、それらを改善するよりもはるかに難しい」と述べています。また、ハーバード公衆衛生大学院のGoodarz Danaei博士は、「血糖値の高い人を見つけ出し、食事や身体活動の改善や体重管理を支援するための優れたプログラムが開発されない限り、世界中の医療システムは、増加し続ける糖尿病によって必然的に大きな負担を強いられることになるだろう」と警告しています。

※1この研究では、糖尿病の診断にFPG(空腹時血漿グルコース)の値が用いられています。FPG が5.6mmol/L未満の場合は「正常」、5.6~7mmol/Lでは「糖尿病前症(境界)」、7mmol/Lより多い場合は「糖尿病」と定義づけています。(*日本の空腹時血糖値はmg/dlで示され、これらの数値とは異なります。現在ではヘモグロビンA1c検査が新たに導入され、糖尿病の診断の指標の1つとなっています)

出典

  • 『ランセット2011年6月25日号』online版 EurekAlertより
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