真鞠子の家族

1 実家

「暇ね…。普通のおうちの主婦は、色々忙しいって本に書いてあった筈だけど…。あふ。」

 真鞠子は欠伸をする。土曜日の昼過ぎ。天気は良く、ぽかぽかしていて、ソファに横になっていると昼寝をしてしまいそうだ。

 直春は、玩具で遊んでいる。今日は友達と遊びに行かないのかと真鞠子が問い掛けると、皆、塾や習い事などで忙しいみたいだと答えた。真鞠子は、お母さんがそれを聞いたら、小学生の子供が塾なんかに行って意味があるのかと怒り出すでしょうねと思った。

 うとうとし始めた真鞠子へ直春が言った。

「お母さんの髪の毛は何で茶色なの?不良?」

「違うわよ。わたしのお母さんの方のお祖母ちゃんが、外人なの。」

 真鞠子は、いきなり声をかけられて吃驚しながら言った。「そうだわ!どうせ暇なんだから、実家に遊びに行こうかしら。直も行く?」

「実家って何?」

「わたしのお母さん達の家よ。」

「行ってみる。」

「あのね、直。行くなら、2つ約束して欲しいの。わたしの家に行ったことは、お父さんに言わないことと、これから何が起こっても気にしないこと。この二つを守れないなら連れて行けないわ。」

「守れないと、お尻をぶつ?」

「そんな簡単じゃないの。自信がないなら、お母さん、一人で行って来るわ。」

「守れるよ。連れてって。一人でいても暇だもん。」

 直春が答えると、真鞠子は微笑んだ。真鞠子は、首にかけている箒のペンダントをはずし、振った。ぼんっ。煙が出て、ペンダントの箒は本物になった。

「すごおーい。手品だぁ。」

「違うわ。魔法よ。さ、前に乗って頂戴な。」

 直春は返事をすると、箒に乗った。「じゃあ、行きましょう。」

 真鞠子がいつのまにか手にしていた杖を振ると、窓が開いた。

「凄い、凄いー!!」

「これをかぶるから。これね、見えないと思うけど、透明マントって言って、これを着ていると人から姿が見えなくなるの。」

「何で着るの?」

「箒に乗った人が空に浮いてたら、見た人が吃驚しちゃうでしょ。」

 真鞠子はそう言うと、納得した直春の頭からマントを着せた。

 

「すごーい、すごーい。でも、ちょっと怖いーっ。」

 景色が後ろへ流れていく。直春は、興奮して叫んでいた。「気持ちいいよー。」

「直、ちょっと静かにして。空を飛ぶの、久しぶりだから、集中していないと落ちそうに…きゃあっ。」

 箒がぐらっと揺れた。「わ・分かったでしょ。」

「はー…い。」

 直春は青くなって言った。

 

「さあ、着いたわ。」

 真鞠子は言った。直春は、返事が出来なかった。テレビでしか見た事がないような大きな洋館。2階建てアパートの狭い部屋に住んでいる彼には、学校かと思える大きさだ。

「わたしです。」

 真鞠子は、インタホンに向かって言った。鉄格子の門の上には、監視カメラが付いている。直春は、真鞠子にしがみついた。なんか、怖かった。門が開いたので玄関まで歩く。門から玄関までは、レンガ模様の道路がある。庭には芝生が敷き詰められている。玄関の横に右手に小さな花壇があり、色とりどりの花が咲いていた。真鞠子と直春は、玄関を開けて、中へ入る。

「にゃー。」

 蓬(よもぎ)色の猫が、二人を見て鳴いた。

「あら、ただいま、えお。出迎えてくれて有り難う。」

「猫だ。可愛いね。」

 直春は、猫に触れようとしたが、猫は、直春の手を避けた。

「みゃー。おなえりなちゃい。」

「おかえりなさい、でしょ。」

 真鞠子は、微笑みながら訂正した。直春の目が丸くなる。

「おかえりなちゃー。」

「もう、ちゃんと言おうとしないんだから。」

「う。」

「まあ、いいわ。一緒に行きましょ。」

「猫が喋ってる。」

 驚きからさめて、直春はやっと言った。

「この子は、猫じゃないわ。武夫と言って、わたしの弟よ。猫が好きで、いつも猫に変身しているの。」

 直春は、ますます混乱した。

 

「おー、真鞠ちゃんか!その後ろにいるのが、直春だね?」

 13歳くらいの女の子が、真鞠子を見ると言った。「ボケーっとした面してんな!」

「お母さんたら、どうしてそういう言い方しか出来ないのよ。」

 真鞠子は怒って、その女の子へ言い返す。そう、女の子は、真鞠子の母ザンなのだった。

「お母さんのお母さんは、お母さんより年下なの?」

 直春は、馬鹿にされた事よりも、その方が気になって言った。

「違うわ。若い方が動きやすいからって、若返る魔法を使っているだけよ。」

「動きやすい?」

「年を取ると、若い時のように、体が動かせないのよ。あちこちが痛くなるし。」

「わしゃあ、まだそんなに年を取っておらぬわ!げほげほ…。」

 真鞠子が余りにも年寄りみたいな言い方をしたので、ザンはふざけた。

「お母さんたら、まともに話してよ。直が本気にするでしょ。」

 真鞠子がため息をつく。と、えおこと武夫が、真鞠子の足元まで来て鳴いた。武夫は、自分をえおと呼ぶので、そう呼ばれている。

「みうみう。」

「えお、お兄ちゃんは会社?」

「りゅ。」

「そう…。」

 真鞠子は、息をつく。兄がいないのなら、いつもの母と兄の喧嘩を見ずにすむ。久しぶりに帰ってきたのに、喧嘩なんか見たくない。本人達は、軽いコミュニケーションのつもりらしいが…。

 がちゃ。扉が開く音がして、20歳くらいと思われる青年が入ってきた。

「あ、お父様。」

 青年は、真鞠子の父タルートリーである。彼も、家では、若返りの魔法を使っている。

「おお!真鞠子か。久しく見ないうちに、すっかり母親らしい顔になったのではないか?その子が直春か。うーむ…。…今の男には、優しさも必要だと言うし…。」

「お父様もお母さんも二人して、直を酷く言わなくたっていいじゃないですかー!直はとってもいい子なんですよ。」

「お父ちゃま、悪口にってない。」

「えおがそう言うなら、そうなんでしょうね。」

 真鞠子は、軽くため息をついた。武夫は、ちょっと変わった子供で、普通に話せないし、他人と仲良くなれるまでに非常に時間がかかる。彼は、人の心を読む能力が抜群に優れていて、家族で一番魔法が上手だ。

「そう言えば、真鞠ちゃん。あんたさあ、毎日魔法の練習をしろって言ったのを忘れたの?」

 武夫と微笑みあっている真鞠子へザンが厳しい顔で声をかける。

「あっ。あのね、お母さん。」

「うちでは言い訳が意味をなさないのも忘れちゃったの?いらっしゃい、息子の前でお仕置きされたくないならね。」

「はい…。」

 真鞠子は諦めて、ザンの後について母の部屋へ向かった。

 

「お母さん、大人なのに、お仕置きされちゃうの?」

 母が部屋を出て行くと、直春は、誰に言うともなく言った。

「親にとっては、何歳になっても子供は子供なのだ。それに、ザンが終わったら、わたしが仕置きをしてやらねばならぬ。」

「りゃあ、りゃあ。」

「この猫、人間なの?」

「人間だ。武夫、真鞠子は、この直春をテストの点で怒ったのだ。しかも、直春がそれについて言うと、さらに酷く尻を叩いたのだ。わたし達は、テストや成績で尻を叩かなかったのにな。」

「真鞠ちゃん、にけない子。」

「そうだ。今日、真鞠子の尻は、さぞかし張れ上がるであろうな。」

「お父ちゃま、のわい。」

「いつも言っておろう。わたしは、悪い子には怖いぞ。」

「人間なのに、猫。」

 直春は、どうしてもそこが気になる。お母さんがお尻を叩かれるのも可哀相だけど。

「えお、にゃーにゃ、ちゅきなの。にゃーにゃらめなの?」

「?」

 「武夫は、自分は猫が好きだから、猫に変身していると言っておる。そしてお前に猫になったら駄目なのかと訊いておる。」

「駄目じゃないけど、なんか変。」

「のまえに、何あかるの!えおは、ちゅきなろろ、るるの!のまえ、馬鹿。(訳=お前に何が分かるの!僕は、自分の好きなことをするの!)」

「武夫、悪口を言うでない。尻を叩くぞ。」

「ごめんなちゃーあ。」

 タルートリーは武夫を抱き上げると、その背に手を乗せて、変身を解除する呪文を唱えた。武夫が人間に戻ると、彼は、息子のズボンとパンツをひき下ろし、お尻を10回叩いた。

「にたっ。ごめんなちゃー。もう、悪口にいまちぇん。にたっ。にたいおー。」

「ちゃんと謝りなさい。言えるのに言わないのは悪いぞ。」

「ごめんな・さ…い。」

「いいだろう。」

 タルートリーは、武夫のパンツとズボンを上げてやった。そして、最後に一回強くお尻を叩いた。

「うっ。にたあー。」

 武夫が、泣き声を上げた。

 

 ザンの部屋。ザンは椅子に座り、真鞠子はその前に立っていた。

「わたしらただの人間に、魔法は馴染みにくいって話は、何回もしたよね?あんたが2度と魔法を使えなくなってもいいなら、わたしだって怒らないよ。箒に嫌われたら、魔法はもう無理なんだからね。」

「分かってるの…。でも、つい…。やっぱり直達に、魔法を知られたくなくて。」

「見せてんじゃん。」

「直は、子供だからと思いなおしたの。」

「まあ、いいわ。あんたが自分の家族をどう考えようか勝手だから。でも、お仕置きはするよ。お尻出して、ここに乗りな。」

 ザンは、自分の膝を叩いて言った。真鞠子は返事をすると、お尻を丸出しにして母の膝に寝る。

 ばちーんっ。痛い。母の平手は、13歳の子供のものだったが、若い頃、喧嘩好きで鍛えたと言うだけあって、かなり痛かった。子供の頃は、手加減をしてくれていたが、今は違う。久しぶりのお仕置きは、とてもきつくなりそうだった。

「痛いっ。ごめんなさいっ。」

 ばちーんっ、ばちーんっ。真鞠子は泣き叫んだ。お尻に振り下ろされる痛みを感じながら、真鞠子は、自分がまだまだ子供のような気がしてきた。

「ごめんなさーい。お母さんっ。」

「痛いでしょ。思い出した?叩かれる側の気持ち。いつも叩く側にいると、つい忘れちゃうのよね。わたし、のぼのお尻を叩くようになってから、しばらく叩かれていなくてさ、ついつい気安くのぼのお尻ぶっちゃってて、ルトーちゃんにこっぴどくお尻叩かれたの。あの人自身はくそ真面目だし、遅坂がたまに叩くから、同じだね。」

 のぼとは、真鞠子の兄の昇である。ザンは、子供達を2文字で呼ぶ。

「わたしもそうだったみたい。」

「でしょ。ま、この機会にしっかりと思い出しておくんだね。ルトーちゃんのお仕置きが素直に受けられるようにさ。」

「え!?」

「何驚いてんのさ。あんた、テストの点が悪いってだけで、直春のお尻を叩いたでしょ。しかも直春が、お尻を叩かれてもテストの点が上がるわけじゃないって言ったら、生意気だって酷く叩いたでしょ。直春は、わたしらと同じことを言ったのに。」

「お父様、とっても怒っている?」

「竹刀が出るね。」

「覚悟を決めた方がいいのね…。」

 真鞠子は、青ざめながら言った。竹刀は、タルートリーが使うお尻叩きの道具だ。お尻を平手打ちだけでは、許せないと思った時に出てくる。彼が竹刀だぞと言うと、子供達は素直ないい子になるくらい痛いものなのだ。やたら反抗的な兄、昇も、竹刀で叩かれると、泣いて父に謝っていた。結婚して同居している今でも、恐れているかは不明だが…。

 

「ルトーちゃん、あのさ、真鞠子を叩くのをちょっと待ってくれない?」

 ザンと真鞠子が、部屋へ戻ってきた。「すぐ叩いたって、効果ないしさ。」

「うむ。良いが…。何をするのだ?」

「あたしさあ、思ったんだけど、こいつ(直春)の母親の降霊会やらねえ?真鞠ちゃんだって、こいつの母親に挨拶の一つもしたいだろうしさ。…ん?えおちゃん、どうしたのさ?またルトーちゃんにぶたれたの?」

「うっ。」

「どれ、よしよし。うんうん。ごめんなさい、言った?」

 ザンは、また猫に戻っている武夫を抱き上げて、言った。頭を撫でてやると、武夫がザンの頬を舐めた。

「にった。」

「そう、いい子だねえ、えおちゃんは。」

「りゅっ、りゅっ。」

「で、やるの、あんたも。」

「真鞠子の為だからのう。…武夫、お前も協力しなさい。」

「う?」

「意味わかんなくても、大丈夫。いつもの通りに、力だけ貸してくれればいいから。」

「りゅっ。」

 

「じゃ、いくよ。」

 ザンが言った。これから何をするかをちゃんと説明された直春は、余り信じていない顔をしていた。『ほんとに、死んじゃったお母さんに会えるのかな?』

 直春のうたぐりをよそに、ザンは魔法の杖をしっかり握って呪文を唱える。杖を通して、魔法をかけるのだ。この時、杖の両端は力が集まる所だから持ってはいけない。

「呼びかけに答えたよ。来てくれるってさ。」

 ザンが言うと、杖が光りだし、カーテンを閉めて暗くした室内の真中に、ぼうっと何か浮き出した。幽霊つまり霊体は、半分透けている為、暗い方が見やすいとザンが言った。

「なんか出てきた!」

 直春が叫ぶ。

「“なんか”じゃなくて、あなたのお母さんよ、直。天国から、降りて来てくれるのよ。」

 杖の光が強くなり、ぼんやりと揺らめいていた部屋の真中の何かが、はっきりとした姿になる。白いワンピースのような布を身につけた黒髪の女性だ。やっぱり体が半分透けている。

「お母さん!」

 直春が叫び、駆け寄った。抱きつこうとして、通り抜けて転んでしまった。

「霊体にあたし等人間は、触れないよ。」

 ザンが言ったが、そんな事はどうでもいい直春は、母に話しかける。

「お母さん!元気だった?前に僕が言った事聞こえてた?天国って楽しい?」

 直春の母親は微笑むと、息子の頭に手を伸ばし、撫でた。手で触られたのとは何か違う感触がする。だけど勿論、気持ち良かった。

「天国から、いつも見ていたわ。直が訊いた事も聞こえてた。天国では、皆いい気持ちで過ごせるのよ。だから、お母さん、とっても元気だったわ。近くで、直春が大きくなっていくのを見られないのは残念だけど、それは、仕方のない事だもの。」

 彼女は、息子を撫で続けた。しっかりと抱き締めてやりたいけれど、それは叶わない。「真鞠子さん。」

「はいっ。」

「直春をきちんと愛してくれて有り難う…。…最初、直春に会ったあなたの態度が冷たかったから、わたし、あなたを疑ってたの。でも、違ってた。ただあなたは、いきなり大きな子供を持ってしまって、態度の取り方が分からないだけだったのよね。わたしは、子供を叩くのをいいと思わないけど、この子も直路も納得しているみたいだから、何も言わないわ。直春もすっかりあなたに懐いている…。」

「わたしっ、母親としての自信なんて、ちっともないです。今のやり方でいいのかも分からないです。でもっ、でも…、直の事は、誰よりも愛してるつもりですから。直をわたしの子供だって思っていますから。あなたに納得してもらえるかどうかは分からないですけど、一所懸命やりますから!だから、…。だから、どうか見守っていて下さい。」

「わたしはもう、直春には、何もしてやれない。見ている事しか出来ないわ。…直春…、この先、何があっても、今のまま、この真鞠子お母さんを本当のお母さんだと思ってね。…わたし、もう行かなくちゃいけないみたい。直春、もう2度と会えないけど、お父さんや真鞠子お母さんや“妹”と仲良く生きていってね。」

「うん。お母さんが怒らないなら、にせもののお母さんをほんとのお母さんって思うよ。前からそうだから、出来るよ。…お母さん、元気でね。」

「ええ。…いつまでもずっと天国で見ているわ…。じゃあね、直春、真鞠子さん。」

「「はいっ。」」

 二人は、声を揃えて答えた。

 

「いつまで泣いてんのさー。あんたって本当に情けない奴だよ…。」

 ザンは、毎度ながら呆れて言った。

「感動するのが悪いと言うのか!お前には心がないのか!素晴らしい対面だった。そして、悲しい別離…。」

 タルートリーは、感涙に埋もれていた。

「はあ…。」

 ザンはため息をついた。

 

「お前は、直春をきちんと育てると、直春の母親に約束した。」

「はい。」

 タルートリーに厳しく言われ、お尻を出されて父の膝に乗せられている真鞠子は、緊張しながら答えた。小さい頃は、口をきくのも怖いくらい、タルートリーは厳しかった。手の甲とお尻以外は叩かれた事はない。それは、娘も息子も一緒だ。

「テストの点を叱った時のお前がどれだけ倣岸だったか、分るか?」

「はい。自分はこんな酷い点なんてとらなかったと思いました。いい気になってしまって、直を…。」

「そうだな。直春には、ザンの様な教師より素晴らしい家庭教師もいない。」

「はい。」

「尻100叩きだ。その後、竹刀で10回打つ。」

「はい、お父様。」

 タルートリーが、真鞠子の体をぎゅっと押さえた。ひゅっと空を切る音がして、バチーンッと大きな音がした。ザンに叩かれて、桃色になっていた真鞠子のお尻に、くっきり赤い大きな手の後がついた。タルートリーは、ゆっくりお尻を叩く。お尻がジーンと痛んだ。次が飛んできた。

「ごめんなさいっ。」

 2回目で、真鞠子は泣き叫んだ。タルートリーは、ザンと違って無言でお尻を叩く。お仕置きが終わるまでは、大抵無言だ。

 10回ごとに強く打たれ、真鞠子はうめく。強く叩かれなくても、充分痛いのに…。

「よし、これで手は終わりだ。」

 大きな音を立てて、平手が真鞠子の真っ赤になったお尻に当たる。真鞠子は悲鳴を上げた。

「ごめんなさい…。お父様、許して下さい。」

 タルートリーは、膝から下ろされて、座りこんでいる娘を抱き上げて、机に上半身を乗せる。下着は、いつもの様に膝の下まで下ろしてある。彼は、スカートを捲り上げると、竹刀を握った。娘の背中を手で押さえつけ、お尻めがけて竹刀を振るった。

 平手とは比べ物にならない音と、真鞠子の悲鳴が上がる。それが10回続き、やっと、お仕置きが終わった。

 タルートリーは娘を立たせると、ソファまで引っ張って行き、下着を上げないまま正座させた。タルートリーは、叩いた後にお説教をする。お説教の後、態度次第で、またいくつか叩くのだが、真鞠子は神妙に聞いていたので、これで全て終わりだという意味の1回ですませる。

 真鞠子は立たされて、抱え込まれ、スカートの上から1つ強く打たれた。

「これに懲りたら、2度とテストの点や成績などの下らぬ事で、直春を怒らない事だ。分ったな?」

「はい、お父様。」

 

「何だかお尻を叩かれる為に、うちへ帰ったみたいだったわ。」

「でも、面白かったよ。あの人間になれる猫も、お祖母ちゃん達も。お母さんに会えて良かった。」

「人間に変身出来るんじゃなくて、猫に変身している人間なんだってば。」

 真鞠子は、お尻の痛みを忘れて言った。「何度言ったら、分るの?」

「え、だって…。」

 要領を得ない直春を見た真鞠子は、もう一度実家へ帰って、きちんと教えてやらなきゃ駄目だわと思い始めていた。勿論、お尻が完全に治ってから。

 

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