虐待系わたしが叩かれる話
お小遣い 父から
お父様の部屋の前に立ち、ドアをノックした。
「誰だ。」
「ひろみです。」
「お前か。ちょうどいい。入りなさい。」
「失礼します。」
中に入ると、お父様が、一番奥にある机から、ソファに向かって歩いてくるのが見えた。机の上には大きなパソコンが置いてあって、そこでスパ動画を見たり、わたしのスパ動画の編集をする。義理の娘を自分で叩いたスパ動画をネットにアップという公開虐待をする変人が目の前のお父様だ。
あえて人前で虐待をするのは、止めたいけど止められないので救って欲しいという気持ちの表れ、と虐待物で読んだが、お父様はそういうのと違うようだ。露悪趣味の方が近いのかもしれないし、ただ単にスパ動画が好きだから、提供したいのかもしれない。
それはとりあえず置いといて。お父様の言葉が気になるので、訊いてみた。
「ちょうどいいとは……。」
お父様の手が伸びてきて、ソファの上に仰向けに寝かされた。足を持ち上げられて、パンツを膝のあたりまでずらされた。赤ちゃんのおむつを取り替える時にさせる姿勢……レッグアップとかいう大事な所まで丸見えになる姿勢をさせられた。ビデオカメラが動いているので、これでお父様がのしかかってきたりしたら、親子物のAVになってしまうが、勿論スパ動画だ。
「我儘な悪い娘に、仕置きをする。」
お父様が厳しい口調で言った。
今の所、お父様の部屋に入ってから失礼します以外言った記憶はないが、スパ動画は一応お仕置きの体で撮っている。今回は、我儘の罰で叩かれるという設定のようだ。
何てタイムリー、わたしはこの虐待してくる父親とシンクロしているのだと思ったが、口に出すとカット編集の手間が増えるので黙っていた。以前、そんな事を言われて、叩かれた。しかし、そのお仕置きもしっかり短編の動画にしていた辺り、お父様には隙がない。
「ご免なさいくらい言いなさい。」
「でも、わたしお小遣いが欲しいんです。少しくらい下さい。ビデオの出演料とでも思って……。」
ついでだから部屋に来た要望を口にする。そう、わたしはお小遣いが欲しくて、お父様におねだりする為に来たのだ。だから、我儘の罰で叩かれるというお父様の設定は、合ってたというわけだ。血の繋がりはないのに、以心伝心な親子である。
お父様が驚いた顔で止まってしまった。わたしはちょうどいいと思ったが、お父様の方は夢にも思ってなかったろうから、対応出来なくても、仕方がない。
「ビデオの出演料というのは、ちょっと……。それではお前が、本当は娘ではなく、雇った人間のようになってしまう。ただでさえ、本当に中学生なのかと、失礼なコメントがつくのに。」
驚いていたのは短い間で、すぐにそんな返事が出てきた。会社で偉い人間をやっていると、対応力がつくのかもしれない。他には営業をやってる人にもありそうな能力だ。わたしもやってみた臨機応変という奴だ。
お父様が言うコメは実際に見た事がある。ネットの世界では、太った中学生なんてものが存在しないのかもしれない。
「理由は何でもいいんですよね。ゲームを買うお金が欲しいだけなので。」
「本来の小遣いの時期まで、我慢しなさい。」
「えー。」
本来の小遣いなどというものは存在しない。だが、わたしがお小遣いが欲しいと言ったので、元のお小遣いを使い果たしたわたしが、更なるお小遣いをせびりに来たという設定を追加したのだろう。我儘の罰で叩かれるという元の設定にリアリティも出る。
「やはり罰が必要だ。」
ぱんっ、ぱんと手が飛んでくる。しかし、我儘の罰で叩かれるのに、この足を上げた姿勢はどうなのだろう……。小さな子のお仕置きにも対応出来る、膝の上の方がいいのではないだろうか。「我慢も出来ない子供には、赤ん坊のような扱いで充分だ。」
成程。それでこんな姿勢なのだとわたしは理解した。お父様は、子供の面倒など、子守でも雇って自分は関わらないような貴族的な雰囲気を醸し出している。しかし、実際は幼い頃の実子達の面倒をこまめに見ていたそうなので、おむつ替えの経験もあるのだろう。そうでなければ、この独特なお尻叩きの姿勢に、そんな言葉は出てこない筈だ。
「今日は、いつもと違って、暴れないな。」
わたしのお尻を叩きながら、お父様が言う。
「デブで体が重いから……。でも、痛いですー。」
「この姿勢は顔が良く見える。確かに痛がっているな。だが、まだまだだ。」
いつものお父様は特徴的な喋り方をするが、特定されない為に、動画中は頑張って普通の言葉を話している。その所為で棒読みで演技臭くなるが、仕方ないだろう。声はわたしも含めて加工するので、テレビでたまに見る、「プライバシーの為、音声は加工しています」と似たような声になる。素人なのに加工技術が高いとわたしは思っている。趣味に全力なお父様なのである。
なんて解説している間にも、ばっちん、ばっちんと叩かれて続けて、大分お尻が痛くなってきた。
「痛いー痛いー。ご免なさい、もう、我儘言いませんからー。許して、お父様。」
「反省したようなので、後30発で終わりにする。頑張って数えなさい。」
「うへっ、30とかきつい……。いえ、数えるので、数増やさないで下さい!」
「……まだ何も言ってない。」
「呆れた声出してますけど、いつもは増やすと言うじゃないですか。」
「まあ、そうだ……。では始めるから、数えるように。」
そうだのと言いそうになるのを何とか押しとどめたお父様は、手を振り上げた。
「いち……にぃ……。」
動画的には間違えたりして増やされる方が面白いと思うが、お尻だけでなく姿勢が辛いので、一度も間違える事なく30を数え終わった。
お父様がビデオカメラを止めた。お母様にも手伝って貰えば楽なのではないかと思うのだが、恥ずかしいらしい。素の喋りを我慢しているし、素人の演技を見られるような気分だそうだ。会社の出し物か何かだとでも思えばいい気もするが、お父様の立場だと出し物は見る方なので、実感が湧かないのかも知れない。偉い立場の人でも、性格によっては楽しみに練習して、皆に見て貰いたいかもしれないが、お父様の性格でそれはないだろう。
「それで……。小遣いが欲しいと言っておったが、本当に欲しいのかの?」
本来の喋りに戻ってホッとしたような顔をしつつ、お父様が不思議そうに訊いてきた。
「欲しいです。ゲームが欲しいってのも、本当です。ってか、年頃の子供で、お金欲しくない人なんて、いないと思います。」
「それには同意するが……。お前は言い方が生意気だの。次の動画は、生意気の罰にしよう。」
「それって明日ですか?」
「当然である。今日は100発しか叩いておらぬし、数もまともに数えてしまった。」
「あの姿勢は体が辛くて……。デブにはきつ過ぎました。お尻叩かれるより辛いです。」
わたしはふうっと息を吐いた。
「わたしも重かったぞ。あれはもう止めよう。アトルと違って、見て楽しくも無かった。」
「わたしが居るから、もうお母様をやりたくもない虐待しなくていいって、言ってませんでしたっけ?」
お尻を叩きたい欲を我慢出来ない時に、仕方なくお母様を叩いていたとわたしに言っていたのだ。エロ漫画だと、お金持ちはメイドさんを道具のように扱って叩いたりするが、現実には人権があるし、漫画のように揉み消すなんてのを、出来るかどうかは別として、潔癖なお父様がやるわけない。
潔癖な人間が娘を虐待してスパ動画を撮るのかと言われそうだが、それはそれである。欲に負けない人間ばかりなら、レイプやら強盗やら残酷な事件やらは起きない。
「過去の話だ。」
お父様が顎に手をやった。「小遣いか……。まあ、お前はビデオにも協力的だし、やろう。ただし出演料ではない。」
「いや、別に、出演料が欲しいって言ってませんから。勘違いしないで下さい。普通の家の子のように、お小遣いという名のお金が欲しいだけですって。」
「小遣いをおかしな表現に変えるでない。まるで汚い金の様ではないか。」
お父様が憤っているが、わたしはどうでも良かった。
「何でもいいので、お小遣い下さい。」
「しょうのない娘だの。今すぐにはやらぬ。陽明達と同じ日だ。それまで我慢せよ。」
「いつですか?」
「2週間後だ。」
「分かりました。それまで待ちます。」
わたしはにんまりと笑うのだった。
20年3月30日
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