学校のお話
8 家へ帰る
人間界へ着いた。トゥーリナが、辺りを見回した。
「うーん…、ここ、日本は日本でも、お前の住んでいる所ではないような…。」
「そうだね…。」
トゥーリナは、ターバン越しに頭を掻く。
「うーんと、お前か住んでいるのは何処だ?」
「北海道。」
「百合恵は東京とか言う所で、空気や水が汚くてなあ…。そういや、北海道って、あのぞっとする雪が降るんだよな?」
「雪が怖いの?綺麗なのに。僕は寒いけど、雪は好き。雪合戦とか雪だるまとか、楽しいよ。」
「子供は何でも玩具にするな。人間は雪が怖くないのか…。」
トゥーリナは感心した後、「ぼんやりしてる場合じゃなかった。おい、和也、あいつに聞いてきてくれ。」
「うん。」
和也は、道を歩いていたおじさんへ声をかけた。おじさんは親切に、ここは福島県だと言った。
「それって何処だ?」
「うーんと、北海道から遠いって事くらいなら、分かるけど…。へへへ。」
和也は恥ずかしくなって、笑った。もうちょっと、社会を真面目にやっておけば、良かったと思った。
「良く考えたら、ここがお前の住んでいる家の近くじゃなくても、どうでも良いんだった。」
「え?でも、どうするの?」
トゥーリナはそれには答えず、辺りを素早く見回した。時間が遅いせいなのか、人がいない。さっきのおじさんも、もういなくなっていた。
「空を飛んでいく。」
和也はトゥーリナの背中に乗せられた。トゥーリナが飛び上がった。
「うわあ、凄い、凄い!!」
和也は感動して、高い声を出した。
「…大丈夫か?」
「…吐きそう…。」
和也の家の近くへ降り立ったのは良いが、彼は酔ってしまっていた。
「急いで、お前の家に行こう。」
トゥーリナは和也をお姫様抱っこすると、彼の家へと急いだ。
ピン、ポーン。
「はーい。」
和也と良く似たおばさんが出て来た。
「初めまして。俺は、トゥーリナと言います。」
トゥーリナは、簡単に自分と和也の関係を説明し、遅くなってしまった事と酔わせた事を詫びた。
「はあ…。」
一気に色々言われて、和也の母は混乱しているようだった。
「どうしたんだ。」
奥から、やっぱり和也に似ているおじさんが出て来た。
「ええと…。」
言い淀んでいる和也の母。トゥーリナは、仕方ないのでまた説明した。
「…はあ、それは、それは。」
和也の父は、トゥーリナが外人(のよう)である事、服装が奇妙である事を合わせて、胡散臭げに彼を見たが、息子の体調が悪そうなので、簡単に挨拶をして、彼を家から出した。
「まあ、普通の人間らしい反応だな。」
トゥーリナは呟くと、周りに人がいない事を確認してから、素早く界間移動の呪文を唱え、妖魔界へ帰った。
皆がいる部屋へ戻る。家族とターランが、笑顔で彼を迎えてくれた。
「お帰り、トゥーリナ。」「お帰りなさい、お父さん。」
「ああ、ただいま。」
トゥーリナは子供達を抱くと、頬にキスをした。そして、ザン達を見た。「なんだ、お前等、まだ居たのか?」
「帰っても良いんだけどよ、ネスクリがなー。」
ザンは、ネスクリを見ながら言った。
「トゥーリナ、俺と戦え!」
「腹減ったから、嫌だ。」
「あのなあ!」
「お前、頭に血が上ってるんじゃないか?ザンの部下全てと戦ったんだろ?どれだけ体力を消耗したかは知らないが、そんな状態で、仮にも第二者の俺を倒せるつもりか?思い上がるなよ!」
「くっ…。」
「トゥーリナが正しいな。今日は帰ろうぜ。」
ザンはネスクリの肩をぽんぽんと叩いた。
「…はい、ザン様…。」
「何で俺に言わせたんだ?お前なら、当然分かってるだろ?」
トゥーリナがザンへ言う。
「俺が言ったって、口では素直に返事をするだろうけど、納得はしないから。」
「おー、成る程。流石に性格を分かってるな。」
「ずーっと、俺の二者だったからな。」
「ザン様…。」
ネスクリが嬉しそうに言う。「なんと有り難いお言葉を…。」
「なー、ターラン、俺の城に来て、ネスクリの説明をしてくれよ。」
「えー、どうして俺が、そんな事をしなくちゃいけないんですか?」
不平たらたらのターランへ、トゥーリナが厳しく言う。
「ターラン、一人で夕飯を食べたくないなら、さっさと行って来い。命令だ。」
「うー。分かったよ。トゥーリナは厳しいんだから。」
ターランは仕方なく、ザン達と一緒に彼女の城へ向かった。