学校のお話

4 その頃、和也達は……

「お母さん、無事なのかな…?死んじゃった人、いるのかな…。」
「ディザナちゃん…。」
 泣きそうなディザナを必死で慰めるアトル。
「ザンを傷つけられる奴なんて、いないって。お前の母親は最強だからな。」
「トゥーリナ様…。でも、お母さんは無事でも、他の人たちは分からないですよね…。」
「…まあ、な。」
 トゥーリナは顔をしかめると、立ち上がった。「よし、調べてやる。」
「どうやって?まさか、あなたまで行かないわよね?」
 百合恵は心配そうに言った。
「ああ、行かない。そんな必要はない。」
「じゃ、どうやって?」
 トゥーリナはにやっと笑う。
「秘密だ。」
「本当、あなたって秘密主義よね。」
「知らない方がいい事もあるからな。」
 トゥーリナはそれだけ言うと、部屋を出て行った。

「でも、ディザナちゃんて、お人よしね。」
 ソーシャルが言う。「部下達なんて、死だっていいじゃない。」
「ソーシャルちゃんたら、何てことを言うの?」
 ディザナが吃驚する。和也は何も言えない。『お姫様みたいな子なのに…。怖いよ。』
「でも、ソーシャル様の言う事は正しいですわ。あの方々は、死を覚悟して生きている筈ですもの。」
「ええぇぇ…?何それ…。」
 和也は話に付いていけなくなった。
「さっきトゥーリナ様があなたに説明しましたのに。」
「えっ、…うーん、うんと、あ!分かった。戦いの中にいるから、いつ死んじゃうか、分からないって事…?」
「そうですわ。」
 アトルは相変わらず冷たい。でも、一応は答えてくれた。和也は勇気を得て、アトルに微笑みかけた。アトルはぷいと顔を背けた。和也は落ち込んだ。

「ソーシャル、そんな言い方をするものではないわ。」
 百合恵は、娘を睨んだ。
「お母さん…。」
「ちょっと、いらっしゃい。」
 百合恵はソーシャルを連れて、部屋から出て行ってしまった。
「あれ、どうしたのかな…。」
 和也が出て行く二人に気づいて呟いた。
「ソーシャルちゃん、お仕置きされちゃうのかな…。」
「えっ!?」
 和也は吃驚した。『悪い事言ったから…?』
「百合恵様は、人間界の考えが抜けないのですわ。」
「でも、人が死んでいい筈ないよ…。それに、ソーシャルちゃんって、いっつも偉そうだから…。」
「お姫様は、偉いんでしょ?」
 和也は言う。だからって、ソーシャルの言葉がいいとは思えないけど…。ゲームには、高飛車なお姫様もいたような気がする。
「うーんとね、本当のお姫様なら、偉いかもしれない。けどね、第二者の子供は、偉くないよ。お父さんが言ってた。もちろん、わたしも偉くないよ。偉いのは、トゥーリナ様や、お母さんで、家族は違うの。」
「うーん、難しいね。」
 和也は首を傾げた。
「あら、簡単ですわよ。本人は努力したので、偉いのですけれど、家族は何もしていないので、偉くはないのですわ。」
「あっ、成る程。…アトルちゃんは、学校に行かなくてもいいんじゃない?頭いいもん。」
「えっ、学校って、頭の悪い子が行く所なの?お勉強する所だと思ってた。」
「あのね、勉強はもちろんするけど、頭がいいなら、いちいち勉強しなくてもいいかなと思ったんだ…。」
 和也はディザナに説明する。「勉強しなくても、色々分かるならさ…。」
「私、勉強して、色々な事を知りたいと、思っているのですけど…。」
「あっ、そっか。それもありだね。」
「学校、楽しみ…。」
 ディザナは、夢見る瞳で言った。

 トゥーリナは、監視室にいた。
「おい、ターラン。」
 トゥーリナは、キーボードを操作しながら、言った。目の前の画面に、ターランが映った。
「…ん?トゥーリナかい?」
「ああ、そうだ。何でお前は庭にいて、中へ行かないんだ?」
「ザン様に任せておけば大丈夫だと思ってね。それと、怪我人が沢山いるからだよ。ジャディナーさんもここにいて、僕と一緒に応急処置してる。」
「そちらの被害状況を教えてくれ。」
「やられた奴はいないよ。それと、攻撃されたのは部下だけで、医者や執事なんかの男や、女子供は無事。」
「…ただの賊じゃないって事か。」
「うん。あと、シーネラルさんとジオルクさんは重症だけど、死ぬ可能性はないね。」
「それは良かった。」
「ペテルとリーロさんは分からないけど、ね。」
「それは仕方ないな。下手に入っていくのはまずそうだし…。」
「だから、僕は、ここにいるんだよ。」
「そのまま作業を続けてくれ。…なあ、俺の手はいるか?」
「君は、そのままそこにいてよ。その代わり、医者をまわして。」
「そうだな…。」
 トゥーリナは通信を切ると、医務室へ電話をかけた。
「俺だ。ザンの城に、賊が侵入し、負傷者が大勢いる。護衛をつけるから、至急手伝いに向かってくれ。その賊がお前らを襲う可能性はゼロだから、安心しろ。」
「分かりました、トゥーリナ様。準備が出来次第、すぐに。」
 護衛をさせるのに部下にも連絡した後、トゥーリナは息をついた。
「これでよし、と。…あ、ザンの娘に教えてやらねえとな。」
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