うららかな春の日。

西部署に出勤してきた立花は、玄関から鷹山が出てくるのを見て、声をかけた。

「鷹山さんっ」
「よっ、コウ、何だ、これから出勤?」
「うん。今日は遅番なんだ」
「重役出勤、いいねぇ。俺なんて、ここんとこ徹夜だったんだぜ」
「・・・そうみたいだね。クマが出来てるもん」
「え、マジで!?」

鷹山は、慌てて顔を手で覆った。

「今日は早く寝よう・・・」
「鷹山さんは、どうしてうちの署に?」
「あ、ストーカーの一件、ケリがついたんで。念書を取ったんで、一応、鳩村に確認してもらってただけ」
「そうですか、それはよかったですよね」

立花は、じゃ、と笑顔を投げかけた途端、目の前が赤く染まった。

「え・・・・」

あまりにも突然の出来事に、無意識に動いた身体だけが反応していた。
胸に赤のしみを作り、鷹山が崩れ落ちて来たのを、とっさに抱え、庇っていた。
目の前が赤く染まったのは、鷹山の返り血を浴びたからだというのは、後になって自覚したことだが。
瞬間の静寂の後には、悲鳴と、怒号。
その騒ぎの中、署から鳩村、山県、平尾、北条、小鳥遊が一気に飛び出してきた。

「コウっ!」

鳩村の声に、漸く立花は我に返った。

「ハトさん、狙撃ですっ。方角は不明、サイレンサーを装備していると思われますっ」
「イッペイ、緊急配備手配! 大将、ここ頼むっ! ジョー、来いっ」

鳩村は、北条と共に、飛び出していく。平尾は署内へと駆け込み、山県は動かせない鷹山と、動かない立花を庇うように、マグナムを出して、周囲に目を配っていた。

「コウっ、大丈夫か!」
「たいしょう、だいじょうぶ・・・、おれは・・・」

がたがたと震え、ぴくりともしない鷹山の身体を支え、立花はかろうじて答えた。
血まみれの手で、やはり血まみれの顔を拭う。
ぬるりとした感触に、背筋が粟立つ。

「たいしょ、血が、出過ぎるよぅ・・・、何とか、何とかして! 助けてぇっっっ」

必死に、それだけ搾り出すように、声を上げると、立花はそのまま、鷹山に被さるように、ばたりと倒れてしまった。

「コウっ、おいっ!」

山県が慌てて揺り動かすが、立花はそのまま気を失っていた。


とっさに窓から怪しい影を探した木暮からの連絡で、鳩村と北条は、狙撃の現場を特定するに至っていた。
だが、人の影はなく、コンクリートの床に、一枚だけ写真が落ちていた。
鳩村は、その写真を拾い上げ、ぎりっと唇を噛む。
その写真は、立花と談笑する、自分の写真だったからだ。

「ハトさん、これって・・・」
「・・・狙いは、俺だ・・・」

その写真には、赤いマーカーで、バツ印がされていた。


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