「傍にいるって、言ったじゃない」 「…」 ステージ内に沈黙が降りる。 「隆、台詞は?」 「カット!」 監督の声が響く。しまった、本番中だったっけ…。 「龍君、どうしたんだ? 何か、調子が悪そうだが…」 その言葉、嫌いなんだ。 母親が出て行く前、そう言って、親父を責めてた。 それが元で、何かが起こったような記憶もあるけど・・・。 おふくろは元々、あんまり俺らの事、気にしてなかった。 正直、接する時間が短くても、親父の方が好きだった。 俺は、落ち着く為に、水を飲んだ。
「隆?」 アーチの声で、我に返る。 「あ、いや・・・すまん・・・」 紙コップを片付け、もう一度テーブルについて、深呼吸した。 「疲れたんなら、このシーン、後撮りにするけど」 監督が、そう言ってくれた。 「二時間だけ、休ませて下さい・・・」 スタッフは、慌ただしくスタンバイをする。 「龍、大丈夫か?」 共演の沖田雅人さんが、おしぼりを持って来てくれた。 「ん・・・、大丈夫です・・・。一寝入りすれば・・・」
俺は机に突っ伏し、首筋にタオルを乗せ、仮眠する事にした。
「昔」を振り切る為に。 |