015.朝陽
シャレにならない。

外はそろそろ朝焼け。
視線を窓に移して、ようやく気付いた。

鷹山と鳩村が揃って姿を消してから、既に半日経っていた。
最後に二人がいた場所を管内に持つ、七曲署の捜査課の部屋で、原は一人椅子に座っていた。

喜多と沢村が最初に部屋に戻って来たが、原が視線を投げると、軽く首を振った。
次に、令子と太宰が来たが、喜多と同じ仕草をした。

部屋にある、アナログ時計の秒針の音が静かに響いている。
パソコンの前にいた水木が、ふうとため息を吐く。
軽く伸びをした、その椅子の軋みでさえ、ノイズだった。

西條が部屋に戻って来たが、彼もため息をつくだけで、何も話さず、部屋の奥の椅子へと横になった。

「ドック、あの二人は一緒じゃなかったんですか?」
「途中まではな。今も走り回ってる。俺に帰れって言ってさ」
「だからって…」

すると、西條は、右腕で目を覆うと、

「俺に何ができるよ。捜査から手を引け、か? 無理な相談だ。俺には、そんな権限は…」

言葉が途中で消える。令子が西條の様子を覗き見ると、西條は寝息を立てていた。
太宰が、眉をしかめる。

「ドックさん、心配じゃないの?」
「仕方ないんだよ。ドック、今日で4徹だし・・・」

原は、頬杖をついた。西條は鷹山たちの問題の前にも、別の事件を抱えていて、一人で張り込みをしていた。
その事件が漸く片付いた途端の彼らの失踪だったのだ。
また針が時間を静かに刻む。
空は刻々と色を変えて行く。

30分ほどだろうか。
西條がぴくりと体を動かしたと思ったら、椅子から飛び起きた。
そんなに大きな音ではないのだが、一斉に部屋にいたメンバーが西條を振り返った。
その視線に、今度は西條が目を丸くした。

「ちょ、何?」
「ドック、もう起きたの?」
「あ、うん、よく寝た」

軽く伸びをして、屈伸運動をしたと思ったら、ぱちんっと頬を叩いて部屋を歩いてドアノブを握る。

「ドック、どこへ?」
「ん、続きの前に、ちょっと目を覚ましてから行く。連絡は入れるから、ジプ、お前ここに残っててくれよ。連絡役で」

西條はそう言うと、背中越しに手をひらひら振って部屋を出た。

足どりは確かなのだが、西條には、エアマットを踏んでいるようにしか感じられない床を進み、装備課へと入った。

「西條さん」
「あ、わりぃ。ちょっと実弾練習したいんで、弾お願いします」
「大丈夫ですか、何だか西部署の鳩村さんと、鷹山さんがいなくなったって聞きましたけど」
「大下と立花が探しているから、そのうち見つかるって」

人差し指で、弾を出すのを催促し、箱を受け取ると、西條はその係員にまた言った。

「あのさ、カートリッジも出して欲しいんですが」
「カートリッジって、西條さんの銃の、ですか?」
「他に何がある?」

ないですよね、と言いつつ、係員はカートリッジを取り出した。西條はその受け取りにサインをすると、あくびを一つして、首を左右に傾けた。

「まだ眠いなぁ・・・」

そう呟くと、射撃場へと入る。
コンクリート打ちっぱなしの冷たい空間に、冷たい空気が横たわる。
西條は銃のカートリッジを一旦取り出し、中の弾丸を確認すると、装填してスライドを引く。
正面の的へと標準を合わせると、立て続けに引き金を引いた。
閉鎖空間での銃声は、ヘッドホンなしではある意味非常ベルの3倍は軽く越える。
鼓膜が一発目で音を受け取る事を拒否した。

「よし、目が醒めたぞ」

ふうっと息をつくと、火薬の匂いが鼻をついた。
西條は再びカートリッジを引き抜くと、まだ熱を持つ弾倉へと、弾を詰め込んだ。

「あちち」

何とか入れると、それを再び銃へと戻しホルスターへと放り込む。残りの三つのカートリッジは無造作につかみ取り、ジャケットへと入れた。
練習場を後にする前に、ちらりと視線を標的へと向ける。

5発の弾丸は、見事に標的の心臓を捉えていた。


「うわ、眩し・・・」

七曲署は、坂の上にある。
出た途端に、眩しいほどの朝陽が西條を貫いた。
目を細めた西條だったが、その視線は新宿の街へと注がれていた。

「長い一日になりそうだ・・・」

Next.怪我

暴走しないキャラが暴走したら、どうなるかな、というチャレンジ作品にするかなw
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