地面に落ちていた銃は、いつの間にか龍の手の中にあった。
龍の双眸は濁り、まるで何も映していないかのようだった。
だが、その銃口がぴたりと男の顔へと定まると、微かな光が戻ったように見えた。
それは銃口に反射した陽の光が当たっただけなのかもしれなかった。
「やめろ、兄貴!!」
功の声が響く。その声に、微かに龍の銃口が揺れた。
慌てて兄の元に飛び込もうとした功を、鷹山が止めた。
「鷹山さんっ、何故?」
その問いに鷹山は答えず、大下に目くばせした。
大下は左上に視線を飛ばし、一瞬考えたようだったが、すぐにその意図を感じ取り、柱の影へと消えた。
「お前のせいで、多くの人が苦しんだ。お前が殺した男は、俺を息子だと言ってくれた」
龍の声が冷たく、廃墟の中へ響く。
「芝居で、たくさんの息子、娘が出来たのがうれしい、そう言ってた。一人でずっと生活してきて、それでも寂しくはなかったと」
「悪かった、やめてくれ…」
男は龍へ命乞いした。その言葉に、龍の目に急激に光が戻る。
「お前に命乞いの権利はない!!」
銃口をわざとずらし、龍が発砲すると、男の足元で積もったほこりが舞う。
「…あれ?」
功が小声で疑問を漏らし、鷹山の顔を見た。
その問いに鷹山は答えず、ただ口角を上げただけだった。
「次は外さない」
その言葉をきっかけに、男は全てを話した。
「お前、何で左にずらすんだよっ」
男が警察に連行された後、大下が柱から出てきて、龍へと文句をつけた。その手にはスリングが握られているのを見て、ああ、やっぱりと功は脱力した。
「それぐらい瞬間見て判断してくれよ、元刑事だろ?」
「刑事関係ねぇぇぇぇ!!」
「アドリブ弱ぇなあ」
そんな二人を見つつ、鷹山へと功は質問を投げた。
「何故、俺を止めたんですか?」
「あ? だって、あの銃劇用じゃないか」
「え、地面に落ちてたのは本物でしたよね?」
と、功が固まる。
「た、か、や、ま、さん?」
「たまたま持ってたんでね」
「たまたま普通は持ちませんっっっっ」
「よかった、相手が持ってるのもリボルバーで」
ふっと笑いかけられた功は、がっくりと肩を落とした。
「探偵やってても危ないじゃないか…、薫さん…」