泣かないで

「俺が死んでも、泣かないで」

と、ある男から言われた。

それはとても無理な話で。

「なら、俺に関わるな」

そう突っぱねられた。

 

彼は、自分の命が短い事を知っていた。
そして、それをどうしても仲間に打ち明けられずにいた。

俺が偶然それを知ったのは、俺の前で崩れ落ちたから。

本当に、たまたまだった。

 

確かに、以前に比べるとかなり痩せてはいた。
不思議にも思っていた。

 

人間は、死ぬと分かっていると、どう死ぬか、ということに考えがシフトするようだ。

「刑事として、死にたいな・・・」

ぼそりと呟いたその言葉が、あまりにも重くて、辛かった。

 

「何故、お前が知ってるんだよ」

彼の相棒は、そう言って俺を責めた。
彼は相棒には絶対に伝えて欲しくない。それは倉本さんにも言ってある、と言った。

彼の相棒とは、幸いにもあまり接点はなく、話すこともなかったので、彼の言う通りにしていた。

 

 

電話は突然で、まるで突風の様に吹き抜けて来た。

彼の死を告げられた言葉は、頭の中でばらばらのピースになる。

死の期限を知ってから二ヶ月。
俺らは普通の友人と同じように過ごして来た。

きっと、彼の相棒が一番辛い。

もし、ハトさんがそうなったら、俺はどうする・・・?
俺が彼の立場なら、どうする?

 

俺は赤いバラを一輪手にして、彼が旅立った砂浜へと立っていた。

 

「泣かないで」

 

そう言った、優しい笑顔の彼に、答えよう。

そして、彼の相棒を、出来るだけ支えてあげられれば。それを俺に望んでいるのかもしれない。

 

ね。伊達さん。


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