気になり出すと、本当に気になる。
イヤリングをポケットに入れると、立花はその土を掘り起こしてみた。
「最近雨が降ったから、少しは固まってるはずなんだけど・・・、妙に柔らかい・・・」
ごくり、と唾を飲み込む。
そのままかき分けて行くと、妙に固い物が手に触れた。
「これ、ライターだ」
それをさらにポケットに入れ、掘り続ける。
すると、ふにっとした嫌な感触が手についた。
「う・・・」
さらに、手でかき分けると、人間の手が見えた。
「これ、女の人の・・・っ」
慌てて肩にさしている無線のスイッチを入れる。妙に指が震えた。
「警邏の立花です。五丁目のビルの解体後の空き地で・・・」
そこまで言った時、後頭部に衝撃を覚え、その場にと叩き付けられる様に意識を失った。
「五丁目に近い移動はありませんか?」
その言葉が耳に飛び込んで来た。
鳩村は、指導のため、菊池ともう一人小島祐介という隊員を引き連れて、公道へ出ていた。
「こちら菊池。現在四丁目」
「菊池巡査、立花巡査と連絡がいきなり取れなくなりました。五丁目の解体後の空き地みたいなんですが、何度呼びかけても応答がないんです」
「なんだって?」
「お願いしますっ」
「了解っ」
菊池がバイクを止める。
「五丁目ってどこだ?」
「こっちです」
菊池が先導して、二人が後を追う。
空き地に入ると、立花が倒れているのが目に入った。
菊池が慌てて側に行き、脈を取る。
「良かった、生きてる・・・」
鳩村は辺りを見回した。
立花の近くの地面が抉られた様に穴が開いていた。
「立花っ、起きろっ」
菊池が軽く頬を叩く。立花は軽く身じろぎをして、うっすらと目を開けた。
「っ・・・、菊池・・・」
と、立花はいきなり上体を起こし、その穴を覗き込んだ。
「こ、こ、ここに、お、女がっ」
「女?」
菊池が覗くが、何も見えない。
「そんなんいないよ」
「えええええっっっ?」
立花が這う様に穴を覗く。
その途端に、同じ様に穴を覗き込んでいた鳩村と頭がぶつかった。
「っ・・・・てぇ・・・・」
「固い頭だな、お前・・・」
「・・・て、どちら様・・・?」
「ほら。鳩村教官」
「え?」
立花はすぐさま姿勢を直し、正座状態で敬礼した。
「大門軍団の鳩村さんっ!! お噂はかねがね・・・」
と、途端にその言葉を発した事を後悔した。
あまりにも寂しそうに笑われたのだ。
「光栄だね。ありがとう」
「あ・・・」
「さて、立花君だっけ。何があったのか話してくれないか?」
「え、あ、はい」
名前を呼んだ途端に、顔が仕事モードに入っている。
その事になおさら立花の気持ちは滅入った。
「自分がここに来て、イヤリングを拾ったんです。で、土の色が違うのが気になって、掘り返してみたら女性の手があって、それで連絡を入れようとした途端に殴られ・・って」
殴られた所をさすると、その途端にまた激痛が走る。
かなり強く殴られたようで、こぶが出来ていた。
「大丈夫か?」
「え、あ、はい」
「ちょっと肩の無線借りるぞ」
「はい」
鳩村は立花の肩から無線のマイクを外すと、連絡を入れた。
「交通課の鳩村だ。立花巡査は無事。別の事件の可能性がある為、念のために鑑識を回してくれないか」
「鑑識?」
無線の向こうが訝しげに尋ねるのがよく分かった。
「立花は、直接手に触ったんだよな?」
「はい」
「ということは、何も包まずにここに置いてあったと容易に想像出来る。という事は、もう一度掘り返したとしても、その痕跡は残っているはずだ。例えば、毛髪とか」
「・・・あっ・・・」
「どうした」
「これ、落ちていたイヤリングと、掘ったら出て来たライターです」
立花はポケットから二つを出した。
「ホシはこれに気付かなかったんだな。で、君は顔を見たのか」
「殴った犯人と同じ人かは分からないんですけど、ここから出て来た車の人間の顔は・・・ちらっとなら・・・」
「そうか。モンタージュはいけそうか?」
「それが・・・、瞬間のことなので・・・。あ、車のナンバーならメモしてあるんですが、わナンバーなんです・・・」
「レンタカーか。それでも証拠がないよりましだ。報告するように」
「はい」
てきぱきと現場を仕切る様子に、立花はさすがに大門軍団の刑事だな、と思って、またさっきの寂しそうな笑顔を思い出し、眉をひそめた。
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