Autumn
「ところで、お前仕事は非番?」

鳩村は、自分の机の所に来て、座らずに自ら入れたコーヒーを飲み、視線は立花落として尋ねた。
その後ろで、静川と小松は装備品の点検をしている。
女子高生達は、帰った後だ。

「そうですけど?」

西條の入れたコーヒーを一口すすると、立花はそう答えた直後に、表情を歪ませた。

「やりませんよ?」
「ちっ・・・」

立花の即答に、鳩村は舌打ちした。西條が首を傾げる。

「どういうこと? コウちゃん?」
「ハトさん、絶対俺にここの仕事の一部押し付けるつもりですよ。だーめーでーすよー、今日俺は出かけないといけないんですから」
「どこに?」
「兄貴の所。今日は明智美子さんが来るんですよー。女優の。なので、呼んでもらっちゃった」

あっはっはと笑う立花に、鳩村はため息をついた。

「ミーハー・・・」
「たまには使わないと。七光りも」

立花はそう言うと、いたずらっ子の様な笑顔を鳩村に返した。


立花が去った後の交番は、閑古鳥すら立ち寄らない様な暇だった。
あまりにも暇なので、鳩村は椅子から立ち上がると、静川に声を掛けた。

「パトロール、行こうか」

静川の答えを待つ事も無く、別の方向から、

「さっきのアンケート気にしてるの?」

と西條が、書類から目を上げずに、言葉だけを突き刺した。

「いや、そういうわけじゃなくて、こう、退屈だし、じっとしてるの俺の性分に合わないし、二輪にまたがっていた方が、早く勘を取り戻せるし」

鳩村がちらりと表に目を移す。そこには、白く塗られた自転車が二台止まっている。

「人力ですけどぉ?」

また西條が視線も上げずに言った。

「人力だって、二輪でしょうがっ」

妙にかたくなな鳩村に、西條は見えない様に苦笑した。
どんだけ気にしているんだと。
女子高生のアンケートと、自分のバイクでのミスの件と。

「はいはい、いってらっしゃい。ついでに、西部署にこれよろしく」

西條が手渡したバッグは、妙にずっしり重かった。

「え、何これ」
「ハトが見てない間に、色々やってたの、俺も。この間のガラスの修理費用の伝票とか、日誌とか、その他報告書がもろもろ。それを鞄に詰めたら、こうなったの。You See?」
「I see....」

ずっしりと指の関節に食い込む鞄に、鳩村は諦めのため息をついた。
その鳩村に、西條はにっこりと自転車の紐を渡した。



久々に見る西部署の機動捜査課の部屋は妙にまぶしく見えた。
皆が生き生きと働いているように見える。
刑事を目指している警官がここに来たら、きっとそう見えるんだろうと。

「あ、ハトさん、どう? 派出所の警官は」

目敏く鳩村を見つけた北条が、茶化す様に言った。

「だめだね、何てったって、地域のおまわりさんランキング入ってないから」

スチール机の一つに座って、足を組んであらぬ方向を見ている山県が、とどめを刺した。

「ちょっと待て、何で・・・」
「地域課にき・い・た」

山県が、にやっと笑う。

「いやあ、おかしいねえ、地域密着型の警官がねぇ」
「・・・」
「ちょ、大将・・・」
「ま、鳩村さんには、難しい話だってこったねぇ」
「・・・」
「大将、もういい加減に・・・」
「まだもう暫くいれば? ドックっていう相棒もいることだしぃ?」

その言葉が終わらないうちに、鳩村が帽子を投げつけた。

「喧嘩売るってんだったら、買ったるぞ」

一発触発になりそうな時に、平尾がぽそりと

「大将ってば、焼きもちですかぁ?」

と言ったものだから、山県・鳩村の両人から一気に吊るし上げられてしまう。
それを横目で見た北条か、ため息をつき、鳩村がその場に放り出した鞄を持ち上げようとした。

「うっわ、重い・・・」

と呟くと、それを脇からかっさらって行く手があった。中腰だった北条が見上げると、騒ぐ三人に冷たい視線を投げている小鳥遊が仁王立ちになっていた。

「は、んちょ・・・」

「てめぇら、いい加減にしやがれっ!!!」

その声に、三人以外の動きも止まった。

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