白の中の緋
「やだなぁ、冗談でしょ?」
「ジョークでこんなこと言えるかよ。カオル、お前だけでも逃げろ」
若干息の上がっている鷹山は、何とか真山をこの場から逃がそうと考えを巡らせていた。
自分はさっきの銃撃で太ももに銃弾が一発潜り込んでいた。
チリッと熱い痛みに、眉根をひそめる。
「私だって刑事なんだよ」
「だからだ。応援を呼んできてくれ。きっと鳩村たちが近くにいる。この中じゃ携帯の電波無理なんだよ」
真山の携帯は、銃撃された時、カバンごと落としてきたのだ。
鷹山が真山にiPhoneを渡すと、左上には圏外の文字。それを見た真山は、心配そうに鷹山を見た。
「カオル、お前に俺の運命託した。なあに、いつもこんなタイトロープ、切り抜けてきたんだから。OKベイビー?」
そう言うと、鷹山はふっと柔らかく笑みを浮かべ、青ざめている真山の頬を大きな手で包んだ。
「電波さえつかめば、ユージがGPS探して飛んでくる。さっきの銃声で、鳩村たちも近くに来ているだろう。だから、頼むぜ」
まだ青ざめている真山だったが、意を決したように、鷹山にうなづいて見せた。
それを見た鷹山は、またにこりと笑うと銃を握り直した。
「行け!」
鷹山は痛む足を引きずりつつ、銃を撃ち、敵の注意を自分へと引きつける。
ちらりと見ると真山は反対側へと無事に駆け出していて、壊れたドアから姿が消えた。
さらに鷹山は場所を移動しつつ、敵の数人を的確に倒す。そして敵の銃を奪い、さらに敵を倒す。
「は、何人いるんだよっ」
移動をしようと体を動かした途端、足の痛さにバランスを崩して、その場に倒れこんだ。
「…っく」
思い通りに動かない体に苛立つ。
ふと見ると、床に点々と散らばる自分の血に、そこまで深手だったのかと愕然とした。
が、その途端、顔面の近くに着弾し、ビクリと体が震えた。
「いいざまだな、探偵さんよ」
銃口はピタリと鷹山をとらえ、離れない。その銃口を鷹山は睨みつけた。
「随分好き勝手やってくれたねえ」
「好き勝手は昔からだ。そっちこそ俺のスーツ台無しにしてくれたな。あとで弁償してもらうからな」
「後があると思ってるのか?」
脂汗が頬を伝う。
「もちろん。さっき俺を仕留めなかったのが、お前のミスだ」
ひゅっと空気を引き裂く音がする。
男が銃を持っていた手に激痛を覚え、さらに顔面と腹部に激痛を覚えるのにそんなに時間はかからなかった。
「タカっ!」
大下がまるで滑り込みのように鷹山の元へと駆けつけた。
「ユージ、カオルは?」
「カオル?」
その言葉に、さっと血の気が引く。
「さっき、俺の携帯持たせて外に…」
「それで電波が…」
「探そう!」
大下は鷹山に肩を貸し、二人で歩き出した。
外は雪が降っている。
「カオル!」
「カオルー!」
もう人気の無い建物の中、二人の声が響く。
外へと出た時、鳩村たちと会った。
「これ、鷹山のか?」
鳩村が手にしていたのは、真山に渡したはずのiphoneだった。
「カオルは?」
その問いに、鳩村は車を指差した。
そこから飛び出して、真山は鷹山に抱きついた。
「タカさーっん」
「よかった、無事で」
「それはこっちのセリフよ!」
半分泣きそうな顔で、鷹山を見上げている。
「サンキュ、カオル」
鷹山はそう言うと、真山の頭をそっと撫でた。
「ラブシーンかー、いいなー」
「ふ、ふざけないでよぉっ」
大下のちゃちゃに、カオルは顔を真っ赤にして反論した。