ふと寒くて目が覚めた。
そりゃそうだ。
ソファの上だ。
軽く伸びをしようとして手が壁に突き当たる。
椅子から降りて伸びをするのは面倒臭い。
体をえび反りさせて、椅子の上で無理矢理伸びをした。
ら。
「何やってんだ、お前は」
上から覗き込まれていた。
黒のコートに黒のシャツ、黒のタイと黒の…。
「お前、夜それで出歩くなよ?」
「あ? 何の話」
「轢かれるから」
「女に? 魅かれる?」
「…ポン引きも寄らねえよ」
あいつは、あそ、と答えもそこそこに、コートを脱いで、ぽんと自分の席の上に置いた。
「何か忘れてませんか?」
俺は嫌味ったらしく言う。
すると、あいつは小首を傾げて斜め上を見た。
「何か? 金は借りてないしー」
「今日は何日だっけ? 何日ぶりでしたっけ?」
「あ? えーと、2日ぶり、俺実家に戻ってたからなあ。土産は明日届くよ」
「じゃなくて」
「んー?」
すると、透が出勤してきた。
「あ、先輩! おはようございます、それと、あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「あ!」
ようやく気付いたか、ばか。
「えーと、あけおめことよろ」
「…おい」
ちょっとバツが悪そうに挨拶してきた。
「…あけおめことよろ」
俺もそう返してやった。低めの声で。
「うわ、タカさんこわーい、正月から!」
「うるせえ、お前が挨拶忘れたからだろうがっ」
「あれ、そんなにタカは礼儀にうるさかったっけー」
「親しき中にも礼儀あり、だ」
「はいはい」
1日過ぎれば、次の年、と言われても、普通の仕事ではない。
ピンとこない。
けれど、だからこそ。
「やり直し」
ユージの背後にいつの間にか立っていた課長が、俺たちにニコニコしつつ、言ってきた。
「「あけましておめでとうございます!」」
俺たちのそろった声が、新年の空気を震わせた。