「何なんだよ、お前はっ!」
「この人に近づかないでもらおう」
チリッと空気が弾けるような気配を感じ、二人は距離を置いた。
「上等だよ。やってやろうじゃん」
廃ビルの中を、風が吹き抜ける。
大下の声に、麻生は既視感を感じていた。
ああ、そうか・・・、あいつだ・・・。
「ダーツ・・・」
麻生は、ふと外に配置した入江のことが気になった。
「言っておくが、刑事敵にまわして、ろくなことないぜ」
「・・・刑事?」
麻生は自分の依頼人を見る。
「あなた、警察のお世話になるようなことをしたんですか?」
「知らないよっ、そんなこと。警察官だって、嘘かも知れないじゃないか。
私は君たちに高い金払ってるんだ、ちゃんと仕事してくれ!!」
「んだと、こらぁっ!!」
大下の怒鳴り声に、男は麻生を盾にした。
「きちんと、説明してもらえない限り、私はどちらの味方にもつけません。
ですが・・・」
麻生は、懐に手を入れる。
大下はその仕草に、拳銃を引き抜いた。
麻生は反射的に、男とともに柱の影に逃げ込んだ。
ヒュンッと、空気を裂く音が響く。赤い円盤が弧を描いて、大下の元へ飛び込んで来た。
大下はそれを冷静にたたき落とす。
カランと乾いた音を響かせ、それは打ち落とされた。
「ブーメラン?」
もう一つのブーメランが、大下のサングラスを叩き落とす。
「なっ・・・2本?!」
その赤いブーメランに気を取られた一瞬で、麻生は距離を詰め、大下の首元へブーメランの
切っ先を突きつけていた。
だが、その麻生のこめかみには、大下の銃口が向けられている。
「随分、修羅場くぐってんじゃん」
大下が楽しそうに言う。麻生は冷や汗を押し隠しつつ、
「君も・・・ね」
と返した。
麻生は、大下の顔を見て、入江が渋くなったら、こんな感じなんだろうな、と思っていた。
ふっと二人が笑い合った次の瞬間、大下の瞳が、男の手元の鈍い光を捉えた。