「・・・・・。」
「・・・・・。」
とあるBarの店の近くに横付けしている車。
その車内は異様な雰囲気に包まれている。
一言も会話がない。
それもそうだ。なんせ、ここで三日間も寝ずに張り込んでるのだから。
「・・・なんでこねぇーんだよ。」
「・・・俺に聞くなよ。」
「このネタ持ってきたの、タカだろ!?」
「・・・はい。」
そう。この店で取引が行われるという情報を掴んだのは鷹山だった。
一人でやってもよかったのだが、相棒の大下が珍しく手伝ってやるというので・・・
「お前が勝手に人のヤマに突っ込んできたんだろうが。」
「だって、しょうがねぇだろ?あの時は、あぁ言うしか課長の雷逃れられなかったんだから・・・。」
自分から人の事件に関わるわけがない。
と言っても、この二人は大体事件を共有しているようなものだが。
タヌキの雷が落ちる前に、張り込みに向かう鷹山に付いていっただけ・・・と言うわけである。
「じゃ、文句言わないの。付き合わせてやってるんだから。」
「・・・はい。」
あっという間に立場が逆転してしまった。
「でも、もう三日だぜ?・・・タヌキの説教聞いた方がマシだったかも。」
「勝手なヤツ・・・。」
「も〜限界・・・ちょっと寝る。」
と大下はシートを後ろに倒した。
「俺も寝たいよ・・・30分たったら交代な。」
鷹山の言葉に目をつぶりながら大下は舌を出した。
「絶対、30分たったら叩き起こしてやる。」
しかし、30分もたたないうちに大下は叩き起こされた。
なんと、ホシが現れたのである。
「あいつだ。」
「ったく、三日間も待たせやがって・・・一気に行こうぜ一気に。」
「お前・・・証拠もなくてどうやって一気に行くんだよ。それに何の容疑で逮捕する気だよ?」
「・・・そっか。」
「寝ぼけてるだろ?」
取引と言うだけで、特に詳しいことは何も聞いてはいなかった。
なので、ここは様子を見て現行犯逮捕する予定だった。
まぁ、どうせヤクの取引だろうが。
「行くぜ、ユージ。」
「・・・おっけぇ、タカ。」
気のない返事で答える大下に鷹山は一つため息をつき、二人はホシを追いかけBarに入っていった。
ホシはBarに入って奥の席に座った。
鷹山と大下はその席が見渡せるカウンター席に腰を下ろした。
「何になさいます?」
「マルガリータを。」
「ん〜と・・・。」
「あ、今のお前にピッタリのやつがある。マスター、Between the sheetを。ホントはladyにやりたいんだがな。」
「はい。かしこまりました。」
「びといーんざしーつぅ?何それ?」
「寝る前に飲むものとしてのカクテルってところかな。」
「寝る前ね・・・ホント、俺にピッタリ・・・。」
マスターが二人の前にカクテルを差し出した時、一人の男が店内に入ってきて迷わず奥のテーブルに進み、ホシの隣に座った。
「お友達の登場だな。」
「これで三日間の苦労もやっと報われる。」
鷹山と大下はホシとそのお友達に細心の注意を払った。
ホシとお友達は何事もなく普通に飲んでいたが、ふとした瞬間にホシは懐に手をやる。
その手には、なにやら粉の入った小さい袋が。
明らかにヤクだ。
なんて大胆なヤツだろう。しかし、大胆にやった方が意外と気づかれないものだ。
お友達がそれを確認すると、こちらも懐から札束を取り出した。
こんな取引をしているのにも関わらず、誰も気に留める客はいなかった。
「アイツら・・・明らかにケンカ売ってるな・・・目が覚めてきたぜ。」
「あぁ。眠気覚ましにはちょうどいいシェイプアップだな。」
二人は目配せして、ホシとお友達を取り囲むように近づいていった。
ホシがカクテルを飲み干して、立ち去ろうとした時、目の前に男が立ちふさがった。
「何だ、てめぇ?」
「まぁまぁ、一緒に飲まない?」
「あぁ!?」
背後からの声に振り返ると、お友達の隣にも男が座っていた。
「俺たちとじっくり話でもしようぜ。これについてな。」
とお友達の隣に座っていた鷹山がすばやく懐に手を伸ばし、袋を取り出す。
「!?」
咄嗟にホシが逃げようとしたが、目の前の大下にすばやく腕をつかまれ後ろ手にされた。
お友達の方は、大下と鷹山を見比べて恐れをなしたのか逃げようとはしなかった。
「いい子だ、baby?」
おとなしくお友達は鷹山に手錠をかけられた。
大下に捕まったホシは、悪あがきをしていたがこちらも大下に手錠をかけられた。
「ったく、あっけねーなぁ。コイツ等のために三回もタカと夜を過ごしちゃったわけね・・・。」
「二回だろ?」
「もう夜だぜ?」
と時計を見せる。
「・・・はぁ・・・綺麗なladyと過ごしたかったなぁ。」
「ホントだぜ。」
と大下はふと思い出してカウンターに戻る。
そして、注文してあったカクテルに口をつけていた。
「はぁ。Between the sheetを送る女性でも探しに行くか。お前じゃなぁ。」
鷹山もカウンターに戻り、マルガリータを飲む。
「いいじゃないの。奢れよ?タカ。」
「よかねーよ。このカクテルにはもう一つ意味あるんだぜ?お前、between the sheetを直訳してみろ?」
「betweenは〜の間・・・だっけ?シーツの間・・・?シーツの間で飲むお酒!?」
自分で訳してみて、ようやく事の重大性(?)を理解した大下。
「そ。普通、こういう所でコレを男にもらって飲んだら・・・OKってこと。」
苦笑気味の鷹山。
「俺そんな趣味ねーよ・・・男にbetween the sheetもらっちゃったよ・・・しかも飲んじゃったよ・・・OKしちゃったよ・・・アタシ、タカさんに襲われる?」
「俺だって、そんな趣味ねーよ!!お前は素直に寝る前のお酒って意味でいいんだよ!!」
「あ〜ら、ターさん。何ムキになってるの?」
「ったく。」
「ふぁ〜・・・あーあ。ホントに眠くなってきやがった・・・意外と強いのね、これ。」
「ベッドが恋しくなる酒だからな。俺も飲んで寝るかな。」
「寂しいヤツ。」
「寂しい“俺たち”だろ?」
そんな寂しい男たちの会話を聞きながら、マスターは苦笑した。
そして再び「Between the sheet」を作るべく、シェイカーに手をかける。
心地よいシェイカーの音と共に、ひとときのハマの夜を楽しむダンディとセクシーであった・・・。
Fin.
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