He’ll leave Gondor never to return − I hope not.
moonburst



 美しき「星の砦」の都−−オスギリアス。

 その奪還が成功した日、兄のボロミアは裂け谷への出発を命じられた。
わたしは兄の旅支度を手伝いながら、「わたしが代わりに行けるとよかったのですが・・・」と呟いた。
剣を陽にかざして刃こぼれの有無を確かめていた兄は、振り向いて微笑んだ。
「父上の決めたことだから仕方ないさ。一度言い出したことは撤回しないお人だからな」
「いかに重要な用件があるにしても、裂け谷は遠すぎます。兄上は、このゴンドールにとって最も必要な方なのに」
「だからといっておまえが代わりに行っても同じことだ。おまえだってわが民に必要な人間だろう」

 兄の言葉に、それはどうでしょう・・・とわたしは心の中で思った。
少なくとも、父はわたしにボロミアのかわりが務まるとは、露ほども考えていない。
ほんの先刻にも、「無能な息子を持って恥ずかしい」と決めつけられたばかりなのだ。
そんな内心の思いが顔に出てしまったのだろうか?兄がかすかに眉をひそめるのが見えた。
「なあ、ファラミア。父上はな、彼方を見渡す偉大な力を授けられたかわりに、身近なものが見えぬようになったのかもしれん」
そういって兄は、わたしの肩を抱いた。
「気にするな。ん?」
心配して覗き込むボロミアに、平気です、と笑顔を見せた。

 父上に疎まれることには、わたしはとうに慣れてしまいました。それに、いつでもあなたがそうやって慰めてくださるのだから、それ以上に望むことはありません。
「裂け谷か・・・エルフの最後の安息所・・・確かに遠いな」
窓の向こうに視線を向けるボロミアの姿に、わたしはなぜか不安を掻き立てられた。
「兄上・・・お帰りになりますよね」
わたしがそう言うと、兄は「当たり前だろう」と笑った。
「ご無事で」
兄の帰還を心の底からわたしは願った。
あなたのほかに、わたしが愛する者はいないのだから。

 その夜。
わたしは当然のように兄の部屋を訪ねて一緒に夜を過ごすつもりでいたのだが、行政に関する書類の整理がなかなか終わらず、気づいたらもう真夜中になっていた。
すると、誰かがわたしの部屋をノックした。
扉を開くと、兄がいた。
「まだ仕事か?」
扉にもたれたボロミアはわたしの髪をひっぱりながら言った。
「いい月夜だ。散歩しないか」
「いいですね」
わたしは上着を羽織ると、兄とともに部屋を出た。
ボロミアのほうから誘いに来てくれたことが嬉しかった。

 月明りの下を、わたしたちはそぞろ歩いた。
他に人気もなく、なかば朽ちかけた石の都は水底のように静まっている。
ヴァラールの禁を破った報いをうけて、大海の藻屑と消えたというわれらが始祖の地ヌメノール島も、いまは海の底でこのように訪れる者もなく忘れられているのだろうか。
兄は白い部屋着の上に薄いガウンを羽織い、歩くにつれてその薄物がひらひらする様子は、神々の恩寵深きエダインそのままの姿だった。
兄がエルフの谷になど行ったら、そのまま引き留められてかれらの仲間になってしまうような気がした。

 思わずかれの袖をつかむと、ボロミアは「どうした?」と言ってわたしを見つめた。
「このままあなたを捕まえておきたい気分です。明日には別れなければならないのですから・・・」
わたしの言葉を聞いた兄は、悪戯な微笑みを浮かべて「わたしを捕らえるのは簡単にはいかんぞ?」と言った。
そしてするりと身を引いて、離れた。わたしの手に白いガウンだけが残る。
そのままかれは、笑いながら走っていった。わたしはその後を追いかけた。
白い部屋着の裾が誘うようにひるがえる・・・。

 兄が時折振りかえって笑い声を上げる。
その楽しげな様子にわたしの頬にも笑みが浮かんだ。
わたしたちは石の都を駆け回りながら歓声を上げ、月空に笑い声を響かせた。
ようやく兄に追いついて、その身体を抱きしめたときには、互いに疲れて息が上がっていた。
手にしていたガウンを着せ掛けながら、わたしが「兄上・・・鬼ごっこですか。いい大人が二人して・・・」と言うと、兄は「わたしから見たらおまえはまだまだ子どもだよ」と笑った。
「お言葉ですが、わたしは兄上より背が高いですよ」
兄はわたしの頬を撫でて囁いた。
「それでもおまえはわたしの小さな、大事な弟だ」
そして「機嫌は直ったか?」と付け加えた。
わたしはボロミアが昼間の父上とのことを、慰めようとしていることに気づいた。気にしていないと言ったのに・・・。

「では、わたしが子どもじゃないという事を教えて差し上げます」
低い声でそう言うと、わたしは兄の顎をつかんで上向かせ、口づけた。
深く舌を差し入れて相手を捉え、絡ませる。
やがて唇を離すと「ヤブヘビだったかな」と呟く兄に、「でもお好きでしょう、こうされるのが」と言いながら、わたしは片手で相手の裾をめくり上げ太腿に手を這わせた。
「ファラミア・・・誰か来たら・・・」
という兄に、「誰も来ませんよ」と言ってもう一度唇をふさぎ、黙らせる。
ボロミアを石の壁に押しつけて、わたしはかれを愛撫した。
なめらかな肌触りの性器をそっと擦り上げると、すぐに兄のものは硬さを増した。人差し指と中指、二本で挟むように上下させ、先端の部分を親指でこね回す。

「く・・・ああ・・・っ、ファラミア・・・」
兄を悦ばせるにはどうすれば良いのか、わたしはちゃんと知っている。
そしてボロミアの尻の割れ目に手を延ばし、きつく閉じられた入り口を探ると、兄はびくんと身体をうねらせた。
その部分の肉を両手でこじ開けるように引っ張ると、指を二本押し入れた。
「あっ痛うッ・・・」身体を硬直させた兄が押し戻そうとするのを許さず、わたしは二本の指を更に奥までめり込ませて腸壁を掻きこすった。
「はぁっ、アッ、ファラミアッ・・・!」
悲鳴のようなよがり声をあげて兄がわたしの肩にしがみついて喘ぐ。
さらに、指を抜きかけてはグイとねじり込む、殆どセックスとかわりない行為を繰り返しながら、わたしはもう片方の指で兄の睾丸を柔らかく揉みこんだ。
完全に勃起したボロミアの性器が、露を滴らせながらわたしの太腿に押し当たる。
スッと撫でると、それだけで兄は「アッああ、あ・・・ん」とイきそうな声を上げた。
わたしはかれのペニスの根元を締めるように握った。

「まだ駄目です兄上、あとが辛くなるでしょう?」
そう言ってボロミアのガウンを脱がせると、薄い布を引き裂いて細い紐をつくった。
根元に巻きつけてギュッと縛り、かれが射精できないようにする。
「ああッ・・・ひどい、ファラミア・・・アッ、ああ!」挿入した指を、内部で思いきりかきまわしたあとで、一気に引き抜いく。
はぁはぁと荒い息を吐いて涙目になっている兄を見ながら、わたしは前を寛げて自分のものを取り出した。
すっかりそそり立っているペニスを見せつけて、「欲しいですか?」と尋ねた。
「欲しい・・・ファラミア・・・ああ、すぐに欲しい・・・!」
そう言って首を縦に振りながら、兄はわたしの腰を引き寄せて性器同士を擦り合わせた。
わたしはボロミアの頸に軽く口づけ、「では差し上げます、これはあなたの物ですから・・・」とささやいた。

 兄の片足を強引に持ち上げて脇に抱えると、石壁をささえに相手を立たせたまま挿入した。
「はあッ!・・・んぁっ」
「・・・くっ。狭いですね・・・」
きつく締め上げられて、わたしは快感にうめいた。
強引に突き進んで奥まで貫き通し、下から腰を突上げて揺さぶると、兄はわたしにしがみついてよがった。
「ああーーーーッ!ファラミア!ファラミア・・・っ」
わたしの名を呼びながら、金髪を振り乱して喘ぐ兄の姿は交合から得られる快感に劣らぬ刺激だったが、わたしはふと、兄はこのような痴態をいままでに何人ぐらいの男に見せたのだろうと思った。
行為の最中に醒めてしまうのは、わたしの悪い癖だ。
わたしはいつも疑っている。あなたが、わたしが弟でなくともこのように愛してくれるのだろうかと。
兄は決してわたしに貞節を誓っているわけではない。
そうするには、執政家の長子はあまりに人々から愛を与えられることに馴れてしまっているから、とわたしは諦めに似た思いを抱いていた。

 兄の言うとおり、わたしは子どもだった。愚かな怯えた子どもだった。
あなたの愛を信じず、その想いの深さにも気づかなかった。
疑い深いわたしが、ようやくあなたの真実を理解するのは、ずっと時が過ぎてからのことになる。
ある新月の夜、裂け谷に向かったまま帰らぬ兄を待ち続けていたわたしのもとに、あなたは現れた。
アンドゥインの聖なる流れがわたしたちを包み、そして隔てた。
兄は帰ってきてくれた・・・わたしのもとに。川面をただよう儚い魂となって。

 わたしは兄から自分を引き抜くと、相手を地面に転がして仰向けにした。
そして両足を押し上げて開かせると、もう一度身体を進めて繋がった。
自ら力を抜いてわたしを受け容れた兄だったが、わたしが力任せに腰を遣いはじめると、かすれた悲鳴を上げてのたうった。
兄上、あなたはわたしを残酷で恥知らずな、獣のようにしてしまう・・・。
ペニスを飲み込んだ後腔がきしんで裂けそうなほど、激しく打ちつけて揺さぶるとボロミアはわたしの腕に縋りついて、泣きながら「や・・・めて、くれファラミア、ああ、壊れそうだ・・・」と訴えた。
壊れればいい、とわたしは思った。もうほかの誰にも触れられることのないように。
むろん、わたしが本当に兄を傷つけることなど出来るはずもなかったが。
わたしは加減して抽送のスピードを緩め、腰の動きに合わせて兄の性器に手を添え愛撫した。

「アッ、あうぁ・・・あ・・・」
かれはすぐ敏感に反応して、甘い声を洩らす。両足を自らわたしの背中でからめて、更に深い快楽を求めてきた。
ボロミア、もっとわたしを求めてください。わたしなしではいられないと、わたしが必要だと告げてください。
わたしがあなたを愛するように、あなたもわたしを愛して欲しい。
わたしにはほかの誰も必要ではありません。あなたがいればいいのです。
「ファラミアッ・・・、アアッ、んあァッ、ファラミア・・・!」
「−−ボロミア・・・!」
互いの名を呼び合いながら、わたしたちは動きを共にして貪りあった。
かれの後腔がきつく収縮し、わたしが耐え切れなくなった瞬間、わたしは兄のものを縛っていた紐を解いた。
「ぁああああぁぁ・・・っ」
白い身体を反りかえらせたボロミアが白濁を散らすのと同時に、わたしも唇を噛み締めて果てた。

 翌日、わたしは裂け谷に向かう兄を見送った。
帰還は「春になるだろう」とかれは言った。
いまは夏の初めである。次の春まで会い見ることが出来ぬとは、なんて遠いことだろう・・・。
わたしは何度も「ご無事で帰ってきてください。必ず、必ず帰ってきてください」と繰り返して兄を苦笑させた。
「帰るさ、ファラミア必ずな」
そう言うと兄は、オスギリアスの尖塔に翻る白旗をしばし見つめたのち、忘れるなこの日を・・・と言いおいて出立した。
兄の姿が消えてからも、わたしは立ち去りがたくその場に佇んでいた。
いずれ兄は帰って来るだろう−−わたしのもとに。
執政家の長子は強く気高く、決して約束をたがえない。
わたしはほかの誰よりそのことをわかっていた。

 なのに何故、こんなにも、わたしの胸の中には悲しみが満ちてくるのだろう?



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