はるひ野

・days of green・
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「金色に塗ればいいのか」
「何を?」
エオメルが突然そう言ったので、セオドレドは聞き返した。
「東谷だよ。黄金館みたいに、あちこち金箔を貼って」
「好きにすればいい」
ローハンの王子は答えると草原に横になった。
数週間ぶりのエドラスだった。
ゴンドールへの訪問を終えて帰館した数日後である。
遠乗りに行こうとエオメルが誘うので、二人で雪白川ぞいに馬を飛ばしてきたのだ。
春の花が振りこぼれ、若芽の匂いがさわやかだ。
「酒があるよ」
差し出された瓶を受け取るとセオドレドは一気に煽った。
疲れた身体にアルコールがすぐ回る。
暖かい空気が辺りを満たして、かれを眠気に誘った。
傍らにいる従弟はまだ若年だが、すでにいくつも戦功を上げて頼れる騎士に成長している。
それにここは見慣れたかれの国だった。
ゴンドールで味わった気疲れがみな溶けていく気がした。
ローハンの王子は安んじて瞳を閉じた。
ほんの束の間まどろむ。
そして再び目を開けた時、エオメルの大きな瞳が眼前にあった。

「なんだ」
従兄がおどろいて目を見開く。
エオメルは身体をそらせてそっぽを向いた。
「どんな顔か忘れてたから、見てたんだ」
「そう?きみは忘れっぽいんだな」
セオドレドは笑いながら肩を竦めた。
年下のロヒアリムがふて腐れた様子で相手を見返した。
「忘れるよ。ゴンドールの帰りに東谷に寄らなかったじゃないか」
「今回はお土産がなかったからね」
「ミナス・ティリスを見たあとじゃ、東谷なんて辺鄙な田舎でつまらないんだろう」
かれは従兄が自分の館に立ち寄らなかったのが不満だった。
「だから、エドラスみたいに金でも塗って派手にしようかと思ってる」
セオドレドが苦笑する。
エオメルは従兄が隣国に出かけているあいだ、毎日街道に出てその帰りを待っていたのだ。
噂に聞く白い塔の都の素晴らしさがロヒアリムの心を波立たせ、セオドレドが帰ってこなかったらどうしようと不安な心地に駆り立てた。
やがて王子の隊列は戻ってきたが、かれの館を素通りしてエドラスに向かってしまったのである。
「何すねてる」
穏やかに尋ねられても、エオメルはよそを向いたままだ。
−−ずっと待っていたのに。こうして面と向かうと苛々する。
「髪が伸びたな」
王子の指が従弟の金髪に触れた。
「伸ばしてるから」
「少しのあいだに、背も高くなった。きみはいくつになった?」
「17・・・」
そう答えると、エオメルは相手の指を払いのけた。
「あなたは思い出しもしなかったろうけど、おれはずっとあなたのことを考えていた」
「嬉しいね」
従弟の声がいつになく緊張している。
だが王子は気づかず軽く受け流した。
相手にされてない気がして、眉間に皺を寄せるエオメルである。
そして年若いロヒアリムは、セオドレドを正面から見つめて大真面目に告げた。
「あなたを見てるとムラムラするんだ」
セオドレドはブハッとふいた。
「なんだよ」
「ははは!」
「畜生!笑うな」
エオメルが真っ赤になって怒る。
「笑うなったらッ」
激昂して殴りかかると、王子に腕を掴んで抑えられた。
「よせよせ、わたしが悪かった」
「くそう」
相手をにらむエオメルの瞳に涙が浮かんだ。
「いや、わかるよ。きみの年齢のときは、みんな似たようなものだからね」
セオドレドがなだめるように言う。 「でもそれは、わたしだからじゃない」
かれは唇を噛んで従兄を見た。
「なんでそんな事わかるんだよ」
「わかるさ」
「嘘だ。あなたは何もわかってない」
低く呟いて、エオメルはまっすぐ王子を見た。
そして身体ごとぶつかっていったのだった。
従兄弟同士はもつれながら転がった。
柔らかな草がかれらを受け止める。
「エオメル」
「あなたが目を覚ますまで待ってたんだ。おれは卑怯者じゃない」
性急な指が王子の身体をまさぐり、上衣をめくりあげた。
「よせよ」
「よさない」
押しのけようとする手首を掴んで、のしかかる。
若い身体は大柄だった父に似て相応の重さを持っていた。
「好きだ!」
間近に見つめてエオメルは告白した。
セオドレドがかれを見返す。
そして眩しそうに瞳を瞬かせた。
「好き、とストレートに言うのがきみの美質だな・・・そういうのには、弱い」
胸の下の従兄が力を抜くのを感じて、エオメルはどぎまぎした。
「どうしたいんだ」
「じゃ、じゃあキス」
微笑むセオドレドの唇を捕らえて触れ合わせる。
隙間から舌を入れると、頭がぼうっとするのを感じた。
しばらく夢中でむさぼった後、エオメルは顔を上げた。
−−それで?
王子はまだ笑っている。
かれはひたむきな眼差しを相手に据えて言った。
「あなたをおれの物にする」

セオドレドは従弟に衣服をはだけられ、撫で回された。
ハァハァとそれだけで息が上がっている様子が笑みを誘う。
(一国の王子をもてあそぼうというのだから、こいつ・・・)
横たわったまま、肌の上を彷徨う相手の髪をまさぐっていると、エオメルの舌先が胸の突起に触れるのを感じた。
舐めあげられ、転がして刺激を加えられ甘い戦慄が駆け抜けた。
さらに下に伸ばされた指が王子の下腹部を手荒に愛撫する。
「ん・・・」
布地の上から揉み込まれて声が漏れた。
「い、いいのか?」
「悪くない−−でももう少し、こっちを続けてくれる?」
「うん」
頭を胸に押し付ける。
唇で噛まれ、吸い上げられて乳首が甘く痺れた。
指は下着の中に潜り込んでかれの性器をじかに擦った。
すぐに固い勃起が訪れる。
エオメルの愛撫は熱心で、なかなか巧みだった。
「上手いな。知らない間に、成長したようだ」
かれが誉めると従弟は嬉しそうに答えた。
「これでも結構モテるんだ。誘われることもあるし・・・」
それは知っていた。
美しかったセオドウィンの面影を受け継いで、目を奪われる存在感を持つ従弟である。
「だけど誰とも寝てない。そりゃ、ふざけたことくらいあるけど」
エオメルがかれのペニスをぎゅっと握って言う。
「好きなやつとしか寝たくないよ。いいだろう、あなたを初めての人にしても」
(おお可愛い)
心底そう思うセオドレドだった。
だが王子はクールに「ふうん」とだけ言った。
「こっちも舐めてくれ」
従弟が素直に頷いて、露出したかれの股間に顔を埋める。
熱い息がかかり、すぐに先端がすっぽり包まれた。
「ああ・・・」
舌でぺろぺろ刺激され、快感とともに下腹部に血潮が集まってくる感覚に王子は身悶えた。
従弟の頭を両手で抱え、軽く腰を動かす。
口腔の熱気と力強い舌の摩擦、きつく吸い上げられる刺激が、痛いくらいの快感だった。
裏筋を舐められて陶然としていると、さらに奥に指が侵入するのを感じた。
襞に触れられ、ビクンッと身体が反応する。
従弟がペニスから顔を離した。
そしてかれの膝をこじ開けようとした。
「エオメル」
「いいだろ、もっとよく見せろよ」
押し留めようとするのを遮られ、強引に広げられた。
「あ・・・っ」
さすがに恥ずかしさを感じてセオドレドは身体をよじった。

大きく開かせ、膝を立たせて最奥を覗く。
淡く色づいたローハン王子の秘所が見えた。
エオメルは指を舐めて湿らせると、閉じられた肉の間に差し込んだ。
「エ、エオメル・・・」
セオドレドが悶えながらかれの名を呼ぶ。
相手の反応を見ながら探り、第一関節まで埋めたところで内壁を押してみた。
「ああッ!」
従兄が激しく仰け反る。
「ここか?」
探り当てたことが嬉しくて、ぐりぐりかき回してしまう。
「あっ、はあ!んあッ!」
聞いたことのない声でよがるセオドレドの姿に、エオメルは頭に血が上るのを感じた。
いつも冷静な従兄の身悶えるさまが、堪らなくそそる。
かれの下半身もとっくにエキサイトしていた。
エオメルは相手の膝の間に身体を入れると、従兄の顎をつかんで唇を重ねあてた。
そして舌を絡ませながら腰を押しつけ、いきり立っているものをねじ込み、一気に貫いたのだった。
「う・・・!」
封じられた唇の間から、セオドレドがくぐもった声を洩らした。



気がつくと、王子は従弟に腕枕され抱きしめられていた。
エオメルがちゅっちゅっとかれの額にキスを繰り返している。
わずかなあいだ失神していたらしい。
セックスのけだるい余韻と、身体の奥に微かな痛みを感じた。
強引に繋がれ、激しく突きまくられて、悲鳴を上げながらのたうった記憶が脳裏に蘇る。
(あっあぁーーーッ!)
内臓をえぐられる律動に目の前が真っ白になった。
全身が震えて、熱いかたまりが身体を突き抜けたとき、セオドレドは従弟の腹に放出していた。
身体の上でエオメルの快楽の嬌声が聞こえ、すぐに体内に熱い迸りが注ぎ込まれたのを覚えている。
それっきり気を失ってしまったようだ。
−−子どもだと思って油断していた・・・。
幼い頃からともに過ごしてきた十三も年下の青年と、と考えはしたが、そういう冒険もアリかと思って身を任せてしまったのだ。
まさか、初めての相手にいかされるとは思わなかった王子である。
「目が覚めた?」
嬉しそうにエオメルが言う。
ぐりぐり頬をこすりつけられながら、「よかっただろ」と囁かれた。
「まあ、そうだね」
「すっごく感じてる顔だった」
「嘘を言うな。わたしの顔なんか見てなかったくせに」
「見てたよ」
互いの身体に腕を回して、草の上でじゃれあう。
触れ合う熱い素肌の感触がセオドレドの頭を霞ませた。
−−美味しい思いをしたのはこちらかもしれないし、いいか。
エオメルがさらに力を込めてかれを抱きしめる。
「好き。好きなんだ。本当に好きだ」
無邪気な、でも真実の呟きが、ローハンの王子の全身を満たしていく・・・。
「わたしもきみが好きだよ」
かれがそう告げると、従弟は一瞬目を見開いてかれを見、すぐに激しく唇を重ねてきた。
飽きることなく舌を絡めあっていると、太腿に当たるエオメルのものが再び固い感触を取り戻すのを感じた。
指がそろそろと侵入して、秘所を確かめている。
「なあ、もう一度いい?」
「だめだ」
にべのない返事をしても、指は尻の奥を這うのをやめない。
「なあったら」
「お断りだ」
「だって、欲しいんだ」
「若いきみに付き合っていたら、身が持たない。それに午後は用があるからそろそろ戻らないと」
「うう・・・」
未練がましく弄っていた指が離れていく。
許せばはしゃいでじゃれてくるが、拒むとあきらめるあたり、日頃の躾の成果だなと笑みがこぼれるセオドレドである。
「けじめのない態度は嫌いなんだ」
そう告げると、エオメルがようやくかれの上から身を起こした。
陽はマークの晴天の真上に輝いていた。
衣服を身につけながら横目で見ると、従弟がなんとなくしょんぼりしている。
王子は苦笑して言った。
「今夜、わたしの部屋に来るといい」
「うん!」
満面の笑顔で従弟が頷く。
「乱暴にしたらベッドから追い出すぞ」
「優しくするよ」
「どうかな」
「大切にする、この先もずっと」
エオメルが真剣な口調で王子に言う。
その言葉が忠実に守られることを、二人は知っていた。
メドゥセルドに向かって馬を引いていると、エオメルが先刻の話を蒸し返した。
「で、アルドブルグ館に金箔を貼る話だけど」
「そこらじゅう金色にしたいのか」
「あなたはそういうのが好きだろ」
「別に黄金館はわたしの趣味で作られた訳じゃない」
「そうだけど。おれの館はあちこち痛んでいて、客が呼びにくいんだよ。セオドレドだってずっと来ないじゃないか」
確かに、東谷は領主夫妻が早くに亡くなって主不在だった時期が長い。
エオメルは譲り受けた自分の館の体裁を考えているのだろう。
「わかったよ、様子を見て改装の手配をしよう」
「やった」
にっこり笑って従弟が礼を言う。
そんな顔で喜ばれたら、なんでも応えてしまいそうだとセオドレドは思った。
来年には東谷はきんぴかになっていることだろう。
「綺麗にしたら、あなたももっと来てくれるよな」
「それはいいがきみがエドラスにいればいいだろう」
かれがそう言うと、エオメルは意味ありげに目配せしてきた。
「東谷の方が、気兼ねなくいろいろ出来るよ」
「−−それは楽しみだ」
いたずらな笑みを交し合う。
そして、それぞれの思いがやがて愛の形に結晶していくのを、かれらは互いに感じたのだった。
マークの青空の下、あちこちから芳しい花の香りが漂ってくる。
春はまだ始まったばかりだ。
20070225up
セオ受の場合殿下はまぐろだろうと思う次第です。・・・ズデーンて寝たまま、動かざること山の如し!漢は黙ってまぐろがよかね!
そんな重量級の従兄を持ち上げたりひっくり返したり、ヒハーヒハーで大変な兄貴。いつのまにか攻守逆転してたり。
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