scene*5

 生まれたばかりの、こぼれそうに大きな瞳でかれを見つめる従弟とはじめて顔をあわせたとき、ローハンの王子は「この子に幸多からんことを」と祈った。
従弟はすこやかに成長し、いつもかれの傍らによりそう半身となった。戦場で従弟とともに剣を振るえば、必ず勝利が訪れた。

 いつからか、強靭な騎士たちに守られていた国境が、ほころび切り裂かれて、従兄弟たちは離れた場所で戦うことが多くなった。度重なる出撃にかれらは疲れ、倦んでいた。

(曇天か・・・)
セオドレドが空を見上げる。空気が重く湿って今にも雨がふりそうだ。
部下達に軍の配置を指図しながら、かれは白い額に皺を刻んでいた。
(すぐに日が暮れる。雨になると水量が増すだろう。やっかいな)
−−このところ、なにもかもが、よくない方へ流されていく気がする・・・。
かれはすぐに首を振り、不吉な思いを払った。夜半まで持ちこたえれば従弟が駆けつけて来るはずだ。
(勝利も幸福も、エオメルがもたらしてくれる。わたしのエアディグが)

 ローハン王子は剣を握り直すと前方を見据えた。運命の浅瀬を。

20071105

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