scene*1


 馬上でエオレドを指揮するかれに、従兄の馬がすっと近づいてきた。
「いい男」と耳元で囁かれ、振り向けば相手はもう背を向けている。

 からかわれているのだ。
国王の甥エオメルは、このほどマークの第三軍団騎士団長を拝命する栄誉を賜った。かれの領地である東谷の騎士たちも若い主人の栄達を喜び、士気があがっている。その様子を王子が視察に訪れた。
エオメルははりきり、エオレドを厳しく調練して自軍のレベルの高さを披露しようと考えた。なのに、従兄はかれの頑張りが可笑しくてならないらしいのだ。
何をして見せても「すごいすごい」と手を叩き、「かっこいー」と囃したてる。
まるで子どものお遊戯扱いである。かれは苛立った。
(しかも今朝は・・・)
思い出して唇を噛む。騎士たちが揃った朝食の席でのことだ。
立ち上がって王子を出迎えると「今日もぷりぷりだね〜」などと言われ、尻を撫でられたのである。その場の誰もが爆笑し領主の面目はまるつぶれだった。

「ううう」エオメルはひと声唸ると、馬首をめぐらせて王子の元に駆けて行った。
「殿下!」呼びかけざまいきなり相手の馬に飛び移る。
「うわっ」
驚くセオドレドの背後に腰をすえその胴に腕を回して、騎士たちに叫んだ。
「やめだ!休憩!」そう告げるなり馬の腹を蹴って走り出す。
「エオメル、何処へ行くんだ」王子の問いにかれは「うるさい!」とわめき返した。
自分でもわからないからだ。
とにかくこの憎らしい従兄を、早くどこかに連れ去ってしまいたかった。

20070514up

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