思うこと 第75話           2006年2月8日早朝 記       

2006年の“年の初め”の読書にプロのコメント 

新春読書の私の考え(「思うこと」 第56話〜62話、64話〜67話、69話〜71話の合計14の話)にたいするコメントを、今、日本のこの分野でとても著名な新進気鋭の経済学者兼経済コンサルタントの方から、昨日、待望のメールをいただくことができた。実は、わたしの親しい友人がその方に私淑している縁で実現したもので、私にとっては夢のような、感動の出来事であった。
その内容が、あまりにもすばらしく、とても多くの大事な事を学ばせてもらったので、出来れば私のこのHPの読者の方々にもこのメールを紹介させてもらえないかお伺いしたところ、今朝、私がいつものように朝6時に教授室に出てきてメールを開いたところ、快諾のお返事が来ていたので、早速、そのメールを以下に紹介します。

『まず、専門外のテーマに立ち入る際の先生の姿勢に感服いたしました。日本経済の分析・展望に関する本を立て続けに17冊も読まれたことは、その知識欲、エネルギーもさることながら、手法としてもまったく適切であります。ご賢察の通り、経済はキメラのごとく、見方の基準、視点が違うと結論は天と地ほども異なるものであります。もし偶然取り上げた書籍がインパクトは強烈だが的外れなものであり、読者がその見方にかぶれてしまった場合、その害は時として莫大なものになることがあります(特に私が働く投資の世界では生命に関わることさえあります)。このようなリスクを免れ、正しい立脚点を獲得するためには、とにかく脳がその分野に敏感に働くうちに多くの関連書籍に目を通すのが一番なのです。

次に、感想文を第三者に提示するというのも正解だと思います。意見や論評を人に見せる文章にまとめる段階で、相当程度、理解は深まり、論理が整理されてくるからです。連続的にブログに掲示された時点で、先生は経済「学」的な細かい部分はともかく、経済「総論」については一定水準の論者になっていらっしゃると推測します。

さて、結論ですが、経済というものはお金を仲介として、人々が生産し、消費する循環過程と考えます。基本は生産量イコール消費量なので、十分な生産活動が行われている国では、人々は十分に消費できている、すなわち生活水準が維持できると思います。人口が減っても日本が高い生産効率を維持し、製品の国際競争力を維持しているなら、経常赤字に転落して資産を食い潰す路線に落ち込むことはありません。

現在、日本の国際収支のうち、所得収支の黒字、つまり日本人が外国の証券や工場に投資した利子や配当金から、外国人が日本に投資した収益を差し引いた金額が年間13兆円に上り、貿易収支の黒字9兆円を大きく上回り、当分の間一段と拡大する方向にあります。立派な大家さんであります。貿易収支が赤字に転落し、所得収支黒字を上回るまでは、国家破綻ということはありえません。

財政の問題は深刻ですが、それは国内的な所得分配に帰着します。A.インフレが起きずある程度の増税がなされ、政府債務の債権者である投資家(お金持ち)が正当な利子が元本を回収する、B.最終的にインフレが起こって投資家の取り分が大きく目減りし、政府の弁済負担が実質的に大きく軽減するか、必ずそのいずれかが起きますが、結局はポケットのお金をどちらに入れるかの違いです。金は天下を回っていますから、いずれは損を被った方にも恩恵が回ってきます。

インフレが破壊的で生産活動に打撃を及ぼすほどでなければ、あまり心配しなくて良いでしょう。しかし大幅になると一時的に年金生活者や金利生活者などの所得を大きく目減りさせるため、ある程度の社会不安は避けられません。一方、インフレ利得を得る人が現われますが、彼らにうまく税金を逃れられると政府が弱者救済に乗り出す余地が狭まります。だからインフレはよくないですね。

浅井隆氏の話はちょっと悲観的に過ぎます。的中するとしても部分的にでしょう。一方、長谷川慶太郎氏は、やや独断的、我田引水の論法が目立ちますが、彼が言うように、日本の技術は優れており、これを一段と磨いていくことで、豊かな未来は拓けるという大局観には私は賛成です。そのためには知識や技術水準を支えていく若者が地道な努力を惜しまず、希望に燃えて学習できる環境作りが最重点項目だと思います。その点、長谷川慶太郎が誉めまくっている小泉政権は失格ではないかと思います。

やはり真実は中庸にあるのではないでしょうか。政府の対応がやや後手に回っているので、ある程度インフレが進む形となり、年金や医療給付の水準が実質的に下がるという形になるかと思いますが。人口減少で日本のGDPが伸びなくても、一人当たりGDPは伸び続けると思うので、あまり不安には思っていません。日本人が努力をやめていい製品を作れなくなり、何でも輸入に頼るようになったら、危険だと思います。その点、今の米国は非常に危ういところがあると思います。一人当たりGDPはあまり増えず(特に低所得者層)、経常赤字の拡大が続き、所得収支も赤字になりつつあるからです。政府はエネルギー問題や環境にもまともな対応をしていません。

ちょっと長くなりましたが、こんなところです。』


このメールに、どれほど私が感動したか、推察いただけることと思います。