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日本医学会雑誌 第142巻 11号 1660頁 (2000年 11月号)
【わが旅】 
こころ温かなアイルランドの人達

 私は今この原稿をアイルランドの首都ダブリンで書いています。人口は鹿児島市とほぼ同じ60万人ぐらいですので、首都というより緑にかこまれたのどかな田舎町という雰囲気がただよっているところです。北海道とほぼ同じ面積に約300万人が住んでいて、その半分の人口はダブリンの周辺に集中しているので、ダブリンから離れた地域は田舎という感じがさらに強くなる誠にのどかな美しいすてきな国です。はじめてこの国を訪れたのは3年前で、ダブリン大学のホール教授との仕事で来島したのでしたが、それ以来すっかりこの国が好きになってしまいました。この国の人達はとにかく心が温かく、きさくで、よく話し掛けてくれる。あいさつと会話に満ちている町です。ラボで早朝、掃除のおばちゃんによく話し掛けられるが、まともに返事するとたいてい5〜10分はいろいろとりとめもない世間話をしてくれる。アイルランド人どうしでもよくおしゃべりしている。仕事よりもおしゃべりのほうが彼等にとっては重要と考えているようで、おしゃべりの合間にときどき仕事をする、という感じといえなくもない。ただ外国人のなかで英国人にだけは心を許していないようである。永年にわたる英国による支配の歴史からきている当然の感情といえよう。それにひきかえ、日本人に対しては、ことのほか近親感を持ち、親愛の態度をもろにだしてくれる。第一次世界大戦直後の世界情勢のおかげで1921年に「英・アイ条約」が成立し、アイルランド32県のうちアルスター6県を除く26県にカナダと同じ自治領の地位を得ることが出来、さらに第二次世界大戦直後の好機をとらえ、「独立した、民主的な主権国家」と規定した新憲法を制定し、念願の独立をはたしたアイルランドにとって、にっくき英国と戦った日・独・伊は国家独立の恩人と感じるという。敵の敵は味方というわけである。そういえば、スポーツの国際試合で英国チームがどこかの国と戦う場合でも、熱狂的に英国の相手チーム(アイルランドではないのに)を応援する様子は、日本では想像できないことであろう。日本人に対して特別の親しみを持つのに、最近もう一つの事情が加わったと思う。それは、EU統合をにらんで、それに積極的なアイルランドに7〜8年前から日本企業が税制の利点などの理由もあり次々と工場・現地法人を作り、今やその数が300を超えていることである。このことが、田舎の島国で若者は職をもとめて海外に出るのが常識だったこの国に、急激に職場と富みをもたらしつつあり、若者が国に残って活躍出来るようになってきた。さて、ペンを置く前に一言、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンはダブリンの出身で、幼少時に住んでいた家は「Town House」と言う名前のB & B になっており、その玄関横の壁にアイルランドと日本の国旗で飾られた記念のプレートが掛かっているので、ダブリンに寄る機会があったら一見の価値があることを伝えたい。

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