ゴッホ紀行とアートの森

「ゴッホが、世界で最も人気ある画家のひとりであることには間違いない。もちろん人によって好き嫌いはあるものの、まずその人気はイタリア・ルネッサンスの巨匠たちをはじめ、オランダのレンブラントやフェルメール、さらには時代を下がった近代ヨーロッパの多くの作家たちと肩を並べるといっていい。その人気を裏づけるように、ゴッホの画集や伝記、絵画論などは、世界中で多数出版され、アメリカ映画『炎の人ゴッホ』をはじめ、幾多の小説や映画、ドラマなどによってもその生涯は広く知られるようになった。しかし、それらの媒体がゴッホのすべてを語っているわけではないし、時には作者がその主観を強調するあまり、実像とは違った、少々歪んだゴッホ像になってしまったものもある。概括していえることは、幾多の情報源の存在にもかかわらず、真実のゴッホの姿というものは、意外に知られていないということである。
 四年前、筆者は『ファン・ゴッホ書簡全集』(みすず書房)を携えてゴッホの生涯の軌跡をたどり、書簡に記載された事実を基礎にしてゴッホの生涯を再構築し、『ゴッホ紀行〜星への軌跡』(求龍堂刊)を書いた。彼が生きた土地を実見するために、オランダをはじめとしてベルギー、イギリス、フランスの各地を取材し、ゴッホが実際に生活し制作活動を行った場所に立った。結果としてそれは、当初の企画通り、紀行文と伝記をミックスした構成となったが、反面、どちらかといえば「ゴッホの生涯」の仔細な部分が少なからず希薄になってしまったようにも思える。そのことについて、どうも物足りなさを感じ続けていたのだが、戸惑いともいえる漠としたそのおもいが、ここにきて筆者の中に新たな衝動を喚起するに至った。その衝動とは、ゴッホの生涯の実相や画家としての成長の過程により肉薄し、かつてなかった「真実の生涯」を描くことである。それを可能にする最適の手段として、思い切った手法を採ることにした。それは、書簡集の内容に重点的に焦点をあて、書簡の言葉を前面に押し出すことによって、極力主観を廃し、あたかもゴッホ自身がその生きざまを語っているかのように、その人生を鮮明に描き出すことである。そのようにして、ゴッホの生涯の実像を、客観に徹して語ってみたいと思った」
(『蕭条(しょうじょう)の旅人〜画家ゴッホの記録』プロローグより抜粋)

 上の抜粋文にあるように、私は『蕭条の旅人〜画家ゴッホの記録』において、可能なかぎり真実にちかいゴッホの生涯を描きました。また前作『ゴッホ紀行〜星への軌跡』では、ゴッホの生きた土地を巡りながら、その地で実感したゴッホの生涯を書きました。しかし、この二冊をもってゴッホに対する私のすべてが終わったわけではありません。たとえば、ヨーロッパ各地の取材時にもった感銘や印象などは、その些末なものまでまとめれば、とても二冊の本に書きつくすことはできません。
 そこで、このホームページでは、二冊の本に書かなかったもうひとつのゴッホ紀行と、彼の生涯にかかわった芸術家たちの姿を紹介したいと思います。さいわいにもここはホームページです。内容を凝縮し研磨して一冊の本として完結する必要はありません。つまり私は、彼らが生きた町を歩き、気ままに旅し、ときには無駄話もまじえて、『ゴッホ紀行とアートの森』と題する雑文を書きたいと思っています。ご興味がおありの方は、ぜひアートの森にお入り下さい。そこには、既知の情報やジャンルにとらわれない、新鮮なアートの世界が広がっています。
 なお、できれば月に一度のペースで、新しい紀行文を加えていきたいと考えていますが、もし諸事情によりその期限を守れない場合には、ご容赦下さい。(本ホームページ記載の文章・画像の無断転載はご遠慮下さい)

*私、野村篤の著書

『蕭条(しょうじょう)の旅人〜画家ゴッホの記録』 日本図書刊行会 2002年
『ゴッホ紀行〜星への軌跡』 求龍堂 1998年
『駆け抜ける光芒〜それぞれの明治』 文芸社 2007年

 

*写真左:オーヴェール・シュル・オワーズ(フランス。ゴッホ終焉の地)
*写真右:ズンデルト(オランダ。ゴッホ生誕の地)

★本ホームページに記載の『ゴッホ紀行とアートの森』目次
(お読みになりたい章をクリックして下さい)

(※印は本章に登場する主なゲスト・アーティスト)(日付は各記事の公開日)
第1回: ブリュッセル(2003年9月12日)
第2回: 北ブラバント(2003年10月1日) ※モーツァルト
第3回: アムステルダム〜1(2003年10月30日) ※フランス・ハルス、レンブラント
第4回: アムステルダム〜2(2003年11月29日) ※メンゲルベルク
第5回: ボリナージュ〜1(2003年12月27日) ※小杉小二郎、桜庭優、野村義照
第6回: ボリナージュ〜2(2004年1月25日) ※ミレー、ルソー
第7回: ボリナージュ〜3(2004年2月25日) ※ティツィアーノ
  第8回: エッテン(2004年3月28日) ※ウィーダ、清少納言、ブリューゲル
第9回: イギリス(2004年4月25日) ※シェイクスピア、モーツァルト
第10回: ハーグ〜1(2004年5月29日) ※マウフェ、アズナヴール、プッチーニ
第11回: ハーグ〜2(2004年6月27日) ※レンブラント、フェルメール、プルースト
第12回: ハーグ〜3(2004年7月25日) ※フェルメール、ファブリティウス
第13回: ハーグ〜4(2004年8月28日) ※フェルメール、アンデルセン、ディケンズ
第14回: ドレンテ地方〜1(2004年9月26日) ※ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ
第15回: ドレンテ地方〜2(2004年10月27日) ※在原業平、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ
第16回: ヌエネン〜1(2004年11月30日) ※ベートーヴェン、モーツァルト
第17回: ヌエネン〜2(2004年12月30日) ※ファブリティウス、石川啄木
第18回: ヌエネン〜3(2005年1月28日) ※ラッパルト、レンブラント、ホーソーン
第19回: アントワープ(2005年2月27日) ※リューベンス、司馬遼太郎
第20回: パリ〜1(2005年3月27日) ※ユトリロ
第21回: パリ〜2(2005年4月30日) ※モディリアーニ
第22回: パリ〜3(2005年5月29日) ※モーツァルト、トスカニーニ
第23回: アルル〜1(2005年6月26日) ※セザンヌ
第24回: アルル〜2(2005年7月30日) ※宮沢賢治
第25回: アルル〜3(2005年8月28日) ※ジョット、チマブーエ
第26回: アルル〜4(2005年9月25日) ※モンティセリ、ゴーガン
第27回: サン・レミ〜1(2005年10月31日) ※ベルナール、遠藤周作
第28回: サン・レミ〜2(2005年12月30日) ※ドラクロワ、ビゼー
第29回: オーヴェール〜1(2006年3月5日)
第30回: オーヴェール〜2(2007年6月4日) *『駆け抜ける光芒』

※見づらい地図ですが、添付しておきます。

 


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